◇◇ 君の為に出来る事 ◇◇
嫌だ嫌だと思っていても時間というものは過ぎていく。
もっと時間が欲しいと思うのはいつだって、すでに時間が過ぎていった後なのだ。
「はあ?マジかよ。」
目の前で穏やかに、眠そうに答えるゾロの姿に俺は小さく舌打ちした。
「ああ、明日が俺の誕生日だな。」
食欲も満たされ、アルコールも摂取し、気分がいいのだろうゾロの表情はいっそ子供っぽいともいえる穏やかなものだった。
だが、それを聞かされた俺は心中穏やかとは言いがたい。
「明日って・・・。あと一時間もねえじゃねえか!」
怒ってはいけない。
ゾロに悪気があるわけではない、そうは思うのだが、いかんせん感情が先走って荒げた言葉が口を割る。
「んー?ああ、確かにあと一時間で日付が変わるな。」
のんびりとした口振りにピキリと額に青筋が浮かぶ。
もっと早く言え、こいつが自分から申告するようなタマじゃないと分かっていながら、どうして俺も聞いておかなかったんだと後悔してみたところで、後数時間でゾロの誕生日が来てしまうのは事実だ。
「ちくしょう、今からじゃろくな準備が出来やしねぇ。」
思わずといったふうに口から漏れた言葉に、ゾロがきょとんとした表情を向けてくる。
普段は眉間に皺を寄せて険しい表情しか見せてはくれないのだが、半ば眠りかけている時や気が緩んでいる時、ゾロは時たまこういった幼い表情を見せてくれるようになった。
「準備って・・・俺の誕生日のか?」
「ああ、それ以外に何があるってんだ。」
「ふーん?」
ニヤリと笑った唇が少し酒に濡れていて、いやに扇情的に目に映り、俺は慌ててそれから視線を外すと煙草を取り出し口に咥えた。
この鈍くて天然でフェロモン過多の男に、片想い中だと気付いて早数ヶ月。
いつかは俺の方に振り向いて欲しいとか、ほんの少しぐらいは思わなくはないのだが、告白するほどの勇気はなくていつまで経っても現状維持の状態だ。
それでも出会った当初より親密さは上がったと思うし、こうして誰もいないキッチンで二人でくだらない会話をしつつ酒を酌み交わす事も出来るようになった。
「もしかして、テメェ、今更プレゼントとか買いに行けねぇとか考えてるのか?」
マジマジと俺の顔を見つめていたと思うと可笑しげに口にされた言葉にカチンとなる。
悪かったな、確かに今考えていたよ・・とは、さすがに言わないが、一応視線でそうだと訴えておく。
誕生日ってのは善意、悪意、下心、理由はどうあれ、無条件に相手に贈り物をしても嫌がられない日だ。
確かにタイミングよく下船して買い物が出来るわけじゃねえが、予め知っていればそれなりに気をつけてプレゼントの物色をしていただろう。
実は今までも下船した時に、目に付いた品物は何点かあった。
ダイヤの嵌めこまれたピアスだとか、シルバーのデザインリングだとか、着けてはくれないだろうなと思いつつも似合いそうだと思ったトパーズをあしらったブレスレットとか。
それでもそれらを贈る方法がなかったから、すべて諦めて手ぶらで船に戻ってきていたのだ。
誕生日が近いと分かっていればきっとそのうちのどれか一つぐらいは購入して、きっと明日ゾロに贈る事が出来ていたはずなのだ。
「そういうのが欲しくて言った訳じゃねぇから、気にすんなって。」
あっさりとしたゾロの物言いは確かに救いなんだが、それでも唯一の機会を逃してしまった俺としては残念だとその思いのほうが強い。
来年はこんな事がないようにとしっかりと明日の日付を頭の中に刻んだ。
「仕方ねえなあ。」
そんな俺の拘りに気付いたのか、ちょっと呆れたようにゾロが笑う。
「そんなに俺にプレゼントとやらがしたいのなら、テメェしかできねえような事で俺が喜びそうな事をしてくれればいいじゃねえか。」
笑いながら告げられた言葉に俺はゆっくりと煙を吐き出した。
「それは、美味い飯と上物の酒を寄越せって事かよ。」
俺だけの特権。
それはコックであることと、この船のすべての食糧は俺の管理下であるという事だけだ。
先ほどまで飲んでいた酒も、それに合うつまみも準備したのは俺で、それと同じ事を誕生日仕様に変更しただけでは俺の気がすまないし、それはプレゼントとは言えないだろうと思う。
「ハッ、違うって。」
クククっと楽しげに笑ったゾロがグラスの底、微かに残っていた酒を舐めるようにして飲み干す。
「テメェにしか出来ねえ、テメェが俺の為にできる事だ。よーく、考えてみろよ。」
どこか悪戯っぽく翡翠の瞳が俺を見つめて、その唇が笑みを刻む。
俺にしかできない、俺だけがゾロに出来る事?
それはコック以外でという意味なのだろうとすぐに分かったのだが、その内容はすぐには思いつかない。
何のことだとゾロに問い掛けるのも癪で、黙り込んだ俺にクククと笑い声を立ててゾロがゆっくりと椅子から立ち上がった。
「ごっそさん。それじゃ、今夜の夕食は楽しみにしてるな。」
今夜と言われて時計を見ればすでに針は0時を越えていた。
「まあ、ゆっくり考えるんだな。」
ちくしょう、絶対面白がっているとその表情に小さく舌打ちして、動揺している俺を残してゾロはスルリと扉から姿を消してしまう。
俺だけが出来る事。
ゾロの為に。
美味い飯と美味い酒と、そして?
グルグルと回る思考に俺は焦る。
時間が欲しい、足りないと気付くのは、いつだって平凡な時間が過ぎた後なのだ。
END? シリアスチックに甘々? ギャグテイストで微エロ?
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2006年ゾロ誕SS第一弾、サンジくんグルグル編・・・(マテヤ
ゾロ誕SSといいながら前日のお話とは是如何に。
冒頭みたいだなーと思った方、正解です★
去年と同様、DLFには適さないSSがお祝い文になりそうです(汗
---------※DLF期間は終了しました※--------------
つまり、此処から先のお話は分岐して2パターンになります(^^;
とりあえず今回はサンジくんグルグル話です。
そして恒例(?)の叫びを入れなければねw(何
ゾロ永遠の19歳おめでとう♪
(2006/11/11 Happy Birthday Zoro )