「何?」
「お前、あれからずっとミホークと一緒だったのか?」
「うん。ミホークが剣の相手しながら船まで送ってくれるって言ったから。」

あっけらかんしたゾロの答えに、なんなんだそれはー!と叫びだしたいのを必死で堪えて続きを促す。
悲壮な思いで過ごしていたあの日々はなんだったのだろう・・・・・。

「あー、と言うことは、これはミホークの持ち船なんだな?」
「違う。これは俺の船。」
「・・・はあぁ?!!」

キッパリと否定したゾロの答えに今度こそ俺は間の抜けた声を上げた。

「お前・・・自腹でガレオン船買えるくらい稼いでたのか?」
「うーん・・・ちょっと違う・・・・それぐらいは持ってると思うけど。」

移動している間、鷹の目を狙ってそれなりの賞金首が現れるわけだし、暗にそれを狩っていたのかと思って聞けば首を横に振って否定する。

「簡単に言うと、買ったのはミホーク。だけど、所有者は俺かな?。」

ゾロの言葉に一瞬あらぬ想像が頭をよぎって引き攣った笑みになる。

「あー?買ってもらったって事?・・・・まさか、貢がれたとか?」

5年の月日は短いようで長い。
あのミホークと過ごしていたってこと自体が俺には信じられない。
海の上何が起こってもおかしくはないのだ。

「貢がれるとか、そんなわけないだろう。俺がミホークの息子だから。」
「ちょーーーっと、待てぇえ!!」

この日何度目かの待ったをかけて俺は今の言葉を頭の中で反復する。
息子って・・・・俺はゾロの親父がミホークだとかそんな話は一度も聞いたことがないし、誓って違うと断言できる。
血のつながりのない親子ってことは・・・・・。
つまり・・・。

「ミホークと養子縁組したってことか?」
「ああ、ミホークも天涯孤独だし、俺も同じ境遇だし・・・後継者が欲しいからって。」
「それって・・・男同士のけっこ・・。」
「違う!!」

俺の言葉をきつい口調でさえぎってゾロは至近距離から睨み付けてきた。

「俺はミホークの嫁じゃねぇ。」

ギラギラとした眼差しに妙に懐かしさを感じていると、グっと後頭部を引き寄せられて驚く間もなくゾロに噛み付かれる。
場所が唇なので噛み付いたつもりはないのだろうけど、ガブリと擬音がつきそうな勢いのキスはそうとしか表現のしようがない。

「・・だって、俺はてめぇのだろ?」

離れるときにゾロの舌がペロリと俺の唇を舐めていく。

「・・・・・・・はい???」

キスとはいえないキスをして、それでも目の前でほんのり頬を染めてみせるゾロは可愛かった。
しかし、嫁とか・・・・俺にはそんな記憶はない。

「花嫁は純潔じゃないといけないってミホークも言ってたし、俺の純潔はあの時にお前に捧げちまったから・・・。」

恥ずかしそうにだんだん小さくなる声に、ゾロが船を降りる一週間前の初めて夜の事を思い出した。
たった一度っきり抱き合っただけの思い出。
あの時、何がきっかけで抱き合ったのかはっきりとは覚えてないが、必死に縋ってきたゾロの腕とか、上気した肌とか、予想以上に魅せ付けられたその艶やかな媚態にひどく興奮したのを覚えている。

「ゾロ・・・・・・・。」

名前を呼ぶと俺の腕の中の体は首まで真っ赤に染まった。
あの夜、触れながらあまりに必死なゾロの様子に、もしかしたら男どころが女も知らないんじゃないだろうかと思った。
その予想が当たって、ゾロの初めてが俺だったことを素直に嬉しいと感じた自分が不思議だった。
しかし相手が男の場合も純潔というんだろうか・・・・?

「ミホークが、後継者になったついでに財産も生前分与とかってのでくれたんだけど、分与前に他人だと手続きが面倒だとか言われたらしくて、なら養子にしてしまえば簡単だって事らしい。」

鷹の目の財産ってどれぐらいあるんだろうとちょっと不安になった。

「息子になったら、今度は早く結婚して孫の顔を見せてくれとかミホークが言い出して・・。」

俺が持っていた鷹の目のイメージがどんどん崩れていくのは気のせいだろうか・・。
あんな外見だが、案外子煩悩な親父なのかもしれない。

「・・・で、俺の純潔はサンジに捧げたって言ったら、お前と一日も早く身を固めて落ち着けって、ミホークが。」

何か今、とんでもない発言をゾロがしたような気がした。
理解しにくというか・・・分かりたくないような・・・・。

「ええっと・・・ロロノアさん?」」
「陸で二人で新居を構えるのは難しいだろうからってこの船を買ってくれたんだ。」

はにかみながら腕の中で笑うゾロはとっても可愛かった。
可愛いんだが・・・可愛いんだけど・・・・俺の中で警告音が鳴り響く。

「それでコックを迎えに行ったら、ルフィからバラティエに帰ったって聞いて、慌ててこっちに戻ってきたんだけど・・・。俺達の方が早かったみたいで。」
「・・・ルフィたちに会った?」
「うん。みんな元気みたいで良かった。」

ゾロはにっこりと嬉しそうに笑う。

「ナミさん怒ってなかったか?あと、何か言ってたか?」
「ナミ?怒ってなかったぜ?いっつも手紙くれてたし・・・お幸せにって言われて宴会したかな・・。」

クラリと眩暈がしたのは気のせいじゃないような気がする。
ナミさんはこいつがミホークと一緒に居ることを知っていたんだと今更ながら気付く。
消息を探すために買い込んでいた雑誌をやめたのはゾロの安否が確かめられたからだ。
そういえばナミさんは結構マメに手紙を書いてはどこかに送っていた。

「バラティエにはいつ?」
「一ヶ月ぐらい前。」

確かに船を乗りついで渡ってくる俺よりは、直接船で移動しているゾロ達のほうが早いだろうけど・・・。

「あー・・・もしかしてずっと待ってた?」

俺の問いかけにゾロはコクンと頷いた。

「ミホークとオーナー、知り合いみたいだったから、話をしてバラティエの傍でコックが来るのを待たせてもらってたんだ。ご飯も美味しいし、オーナーっていい人だよなー大好き。」

まさかと思うが、二人とも待ってる間、三食バラティエの飯食ってたんだろうか?
高くはないけれどけっして安い食事代じゃあないはずなんだが・・・・。

「鷹の目がここに居るってことはすぐに噂になっちまうだろうし適当に移動してたんだろう?。」
「別にずっと居たけど問題なんか起きなかったぜ?俺も居るんだし。」

大剣豪2名で船上レストランの護衛。
それはまあ・・なんというか凄いだろうと想像できる。
いろんな意味で・・・。

「あ、待ってるときにちょっとだけウエイターさせてもらった。」

笑顔の大安売りといったご機嫌な様子にやっぱり精神年齢が下がってるとしみじみ思う。

「なんだか危ないからって皆に言われてすぐにさせてもらえなくなったんだけど。」

ちょっと不満げに首を傾げて、ゾロはいそいそと俺のコック服のボタンに手をかける。

「・・・・何やってんの?」
「・・・・・・脱がしてる。」

不器用な手つきで外されていくボタンを眺めながら、そういえばあのままこの船に放り込まれて着替えていなかったことに気付いた。
あまりにもいろいろな事がありすぎて頭が回らないみたいだ。

「外さなくっていいって、自分で出来るから・・。ちょっと降りてくれ、着替えてくるから・・・。」

上着のボタンを外し終えて、中のシャツのボタンまで外そうとしているゾロの手をそっと掴んで止める。
しっかりとひざの上に乗っているゾロに降りるように促すと渋々といった風に立ち上がった。

「着替えはあの中。」

コック服を脱いで、放り出されたままになっていたバックから着替えを取り出そうとしているとゾロはそういって部屋の隅にあるクローゼットを指差した。
促されるまま近寄って扉を開ければこれまた高そうなけれど嫌味でないスーツがずらりと並んでいる。

「ナミに買ってもらったからサイズは大丈夫だぜ。」

左肩に顎を乗せてベッタリと背に張り付いてスーツを取り出しては見ている俺の手元を覗き込んでくる。
後ろから抱きつくように回ってきた腕が躊躇なく明らかな意図を持ってシャツの内側に入り込んでくるのにさすがに慌てて振り返る。

「おい、ちょっと待てって、ゾロ・・。」
「さっきから待てまてばっかり言って・・・お前シツコイ・・。」

腕を掴んでゾロと正面から向き合うとあきらかに憤慨しているという風に告げられる。

「もういいだろうが・・・・・サンジ。」

ゾロの瞳は明らかに情欲を宿していて、久々に見たその色に本気でヤバイと思った。
忘れたつもりでも、俺の中でいまでもゾロは特別なのだ。

「言っておくがな、俺は、お前と違って一度も浮気はしてないぞ?。」

至近距離に感じるその熱につられて体温が上がるのをどこか他人事のように感じた。
首にゾロの両腕が回ってきて引き寄せられ、誘われるままに唇を重ねる。
しっとりとした口付けはあの夜の始まりを思い出させるものだった。
キシリと音を立てたベットにゾロを沈めて、一瞬動きを止めた俺にゾロは艶やかに笑った。

「サンジ・・、一生大事にするからな。」

チュっと軽い音をたてて離れた唇を追って、ゾロに囚われるべく、俺はしっかりとその身体を抱き締めたのだった。













翌朝、新しいキッチンでゾロに請われるままに朝食の準備に取り掛かる。
眠い目を擦りながら俺の姿を目で追っている様子に笑みが浮かぶ。
流されて早まったような気もするが、俺は結局ゾロのことが好きなんだろう。
結婚とか嫁とか変な認識もおいおいに教えて正してやればいいだろうし。

「・・・エロコック・・・。」

ほんのり頬を染めて小さくゾロが呟く。
つい昨夜のゾロを思い出して笑み崩れたのを見られたのだろう。

「エロでもいいよー。可愛かったし?」
「余計なこといわずにさっさと作れ・・・。」

子供っぽい動作でプイっと顔を背けたゾロは真っ赤だ。
さすがに仕込みをしているわけではないからたいしたものは作れないがゾロの好きなものを選んでつくっていく。

「ふむ・・・よいにおいだ。」

パタンと軽やかな音をたてて開かれた扉の向うにはミホークが立っていた。

「よく眠れたか?ロロノア。」

鷹の目は立ち止まることもなくゾロの隣に来てその頬に軽くキスを落とす。

「おはよう、ミホーク。」

ゾロはくすぐったそうにキスを受けてから立ち上がり、棚から取り出したグラスにピッチャーから水を注ぐとそれを当たり前のようにミホーク前におく。

「あ、ミホークの分も頼むな?」
「あ、ああ・・。」

唖然としている俺に気付いたのかゾロはにっこりと笑った。
すごく自然にオハヨウのキスをゾロは受け入れていなかっただろうか?
焼きあがったパンを籠に入れてテーブルに持っていくついでに鷹の目の様子を伺う。

「鷹の目、コーヒーは?。」
「うむ、貰おう。」

ゾロはあまりコーヒーが得意ではないので用意していない。
ミホークの返事に出来上がったモッツァレラチーズとトマトのオムレツ、ほうれん草のスープ、ビーンズサラダを出してからコーヒー豆をひき始めた。

「やっぱ、コックの作ったのが一番美味い。」
「よい、嫁を貰ったなロロノア。」

ほのぼのとした空気と妙な発言。
嫁発言を突っ込むべきか悩んでいるうちに二人の会話は進んでいく。

「あとは一日もはやく孫の顔を見せてくれ。」
「孫なんて・・・結婚したばかりで気が早いって。」
「嫁はどっちが欲しいといっているのだ?男か?女か?」
「・・まだ、そんな話してないし・・。」
「どちらでもきっとロロノアに似て可愛いだろう。」
「コックに似てるほうが可愛いと思うけど・・。」
「いや、ロロノアの方が可愛い。」
「そうか・・?」
「うむ。『おじいちゃまあれが欲しいの』って可愛い孫娘に強請られたら国の一つや二ついくらでもとってきてやるぞ・・。」
「ミホークは女の子が欲しいのか?」
「ロロノア似の女の子がよいな。」

ゴリゴリゴリ・・・粗挽きのはずの豆が手元で粉になっていく。
二人の会話が怖くて振り返れない。
どちらも本気で話しているのが分かった・・・・。

「元気で生まれてくれたら俺はどっちでも。」

はにかんだように答えるゾロの表情が想像できてジットリと背に油汗がにじみ出てくる。
この二人には何か、普通に生活するうえで必要な何かが・・・・根本な知識が欠けているんじゃないだろうか。

「嫁、昼はイーストブルーの料理がよいな。」
「あ、俺も焼き魚とか食べたい。」
「そうであった・・・私のことはこれからは『お義父さん』と呼ぶがいい。」
「俺も呼んだほうがいいか?」
「ロロノアはそのままで良いぞ。」
「そっか・・・・俺達結婚したんだしな・・。」

回し続けたミルの中にとうに豆の欠片は見当たらない。
妙なゾロの沈黙が怖くてやっぱり振り向けない。

「ハニーはどっちが欲しい?」

照れたような甘い声のその問いかけに俺は答えることが出来なかった。
許容量を越えた未知の怖さに意識を手放してしまったからだ。



大剣豪って・・・・・・・涙。




END++



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これはギャグです(汗
ちなみに裏タイトルは『お父さんといっしょ♪〜嫁に来ないか編〜』でした(^^;
書いてて楽しかったですw
サンジはちょっと不幸(?)かもしれませんけど(笑