* Passion *
ああ・・・と、突然にそれを理解した。
舞い散る花に乱れる感情も。
飛び去る蝶を追う心も。
願いであり、虚である。
それは己の中の・・・望みと同等であると。
ダンッと地を蹴ったその足で、敵陣へと切り込んでいく。
スピードに乗った身体はまるで一つの弾丸のような軌跡を残し、戦闘の中へと飲み込まれていった。
「ゾローー!!」
遠くでルフィに名を呼ばれ、一瞬だけゾロの意識が現実に引き戻された。
だが、その声に応えるつもりなどないのだ。
ゾロはニヤリと口元を歪めると軽く、まるで風をなぎ払うように正面に向かって腕を動かした。
そしてそのままその男の脇を走り抜ける。
ドサリ・・・・。
静かにその動きを止めた男の身体は、ゾロが走り抜けると同時に無様な音をたて地に倒れ伏した。
かすかな沈黙の後、サアアーと細かな雨のような音が周囲を震わせ、木の葉を小雨が濡らしていくように、男の身体から流れ出た命の赤が霧のように大地を染めていく。
ゾロはふっと息を吐き出すと目前の敵に視点を合わせた。
「二刀流、犀回・・・。」
吐息のような、低いゾロの呟きにあわせて切りかかろうとしていた男達が空へと舞う。
一振り。
二振り。
白刃が煌めくその度に、ゾロを取り囲もうとしていた見知らぬ海賊達は時に吹き飛ばされ、切り伏せられる。
彼らにとって此度の出会いは不運だったとしか言いようが無い。
この場が船上であれば、危険は伴うものの海水へとその身を投げこめば無駄に命は失わなくてすんだのかもしれない。
しかし、ここは陸。
麦わらのルフィと海賊狩りのゾロの賞金に目の眩んだ彼らに同情の余地はない。
薄い唇に笑みを貼り付けたまま、思いのままに刀を揮うゾロは、手応えのない彼らに不満を感じながらもその歩みは止めない。
心はもっと手応えのある戦いを求めているが、己に牙を剥いてきた以上、雑魚であろうとも彼らを許してやる義理はない。
晴れ渡る陽光の元、やがてゾロの背後で最後の敵が地に倒れ伏す。
はあ・・。
深い息を吐き出し、ふと、ゾロは視線を上げた。
視線の先で動く、金。
己が求めていた手応えのある、敵の気配。
無意識にペロリと渇いた唇を己で湿らせ、フッと息を吐き出しゾロは一足飛びに相手との距離を詰めた。
無造作に振り下ろした白刃が、些かのブレも無く長い脚に受け止められる。
長い前髪で隠された蒼い瞳と色を深めた翡翠の瞳が静かに交差する。
「・・・・ちっ。」
舌打した敵を手にしていた鬼徹でなぎ払うと、ふわりとした動作で距離を離される。
一刀、二刀、速度のあるそれを危なげなくかわす相手にゾロはゆっくりと唇を歪める。
・・・・ああ、楽しい。
目を細め、技を繰り出しながら、ゾロは心からの微笑みをその口元に刻んだのだった。
キラリと光を反射した白刃をその喉元に突きつけて相手の動き封じる。
あと少し、ほんの少し、この手を動かせばその白い喉元から赤い色が零れ落ちるだろう。
怯えるでもなく向けれられた蒼い瞳にゾロは数度瞬きを繰りかえす。
「・・・クソコック・・。」
唸るようなゾロの声に、ゆっくりと像を結んだ敵が口元を歪めた。
「やっと戻ったかよ、クソ剣士。」
ニヤリと不敵な笑みで男が煙草を取り出し火をつける。
突き付けられた白刃を意に介したふうもなく、美味そうに煙草を燻らす男の姿にゾロの喉がゴクリと音を立てた。
「クソコック・・・。」
火のついた先を白刃がよぎり、火の消されたそれに眉を顰める男にゾロは顔を寄せた。
煙草を咥えている唇を端から舌先で辿り、邪魔な異物を舌で払い落とすと薄く開いた隙間からゆっくりと舌を絡める。
間近で色を増した深い翡翠と、冷たい輝きの蒼が交じり合った。
重なり合った時と同じように唐突に解放された唇に男が苦笑を浮かべる。
「コック・・・足りねえ。」
熱い眼差し、熱い身体で、囁いたゾロに男が笑う。
「ああ、そうかよ・・。」
男の答えはそっけなく、予備動作もなしに横から振り上げられた脚を刀の鞘で受け止める。
「奇遇だな、クソ剣士。俺も全然足りねえよ。」
ふっと笑った男にゾロと同じ欲望を感じ取って、薄くその口元に笑みを刻む。
鞘で止めた脚を振り解くと、軽く身体を捻り刃を繰り出す。
ヒラリと飛んで間合いから逃げた姿を追って、地を蹴ったゾロと男の視線が熱く激しく絡み合う。
空中で二度、三度と激しく睦みあい、地表に降り立ち、なおも互いを見つめ、睨みあう。
ほんの一瞬の静。
そして、再び陽光を反射した白刃と、男の脚が戦いの気配を帯びて激しく交差した。
ああ・・・と、煌めく白刃にそれを理解した。
愛おしいと、守りたいと思う恋情も。
倒したいと、戦いたいと思う激情も。
人であり、獣である欲。
それは己の中の・・・揺るぎない欲のひとかけらであると。
END++
SStopへ
******************************************************************************
2005年ゾロ誕企画で魔獣聖誕祭3に出したお話です。
テーマは魔獣なので嬉々として書きました(笑
どれぐらいの長さで書いてもいいのか分からなかったのでワンシーン切り取りで(^^;
書きながら思ったんですがどうやらゾロを敵と戦闘させるよりサンジと戦わせる方が好きみたいです(笑
(2005/12/11)