トントントン・・・・
一定のリズムで白い指先がテーブルの上を叩く。
トントント・・・
「あ、そうか・・・あれは・・。」
音が止めば今度は小さな呟きが始まる。
ゾロには意味不明な単語をいくつか羅列して、しばらく静かになったと思ったら、また。
トントントン・・・・
テーブルに懐くような格好のままゾロはそれをぼんやりと見つめた。
指先が音を立ててテーブルを叩くたび、微かな振動がぺたりとつけた腕越しに伝わってくる。
右腕をテーブルに投げ出し、その上に片頬をつけ、目線だけあげて左斜め向かいで煙草を燻らせている男を眺める。
「なに?暇なの?」
酒を飲むでもなくテーブルに懐いたままのゾロを不思議そうに見てそう問いかけてくる。
「別に・・・。」
話しながらも休むことなくトントンとテーブルを叩き続けるそれを目で追う。
「・・・眠い?」
テーブルを叩いていた指先がひらりと翻り、口元から取り上げた煙草から灰を落としてちょっと笑う。
「・・眠くはない。」
「ふーん?」
煙草を咥えなおすと先程と同じように手元に視線を落としてペンを走らせる。
そして。
トントントン・・・
「なあ・・・あんたってさぁ。」
笑った気配がしてサンジは独り言のように続ける。
「猫みてぇ。」
ゾロがチラリとその顔をうかがえば楽しそうな表情で見つめてくる。
「だってさ・・。」
ゾロの視界でサンジの指が右に左にゆらゆら動く。
それを無意識に目で追っているゾロにますます楽しそうに笑う。
「ほんとに・・猫みてぇ。」
視界の中でヒラヒラと振られるサンジの指をそのままの姿勢で追う。
猫とは違い、目で追うだけで手が出てこない事に気付いた指先がゾロの顔の前でクルリと円を描いた。
それをやっぱり目線だけで追っているゾロの様子にサンジはますます楽しげに目を細める。
「・・・・楽しい?」
一度動きを止めた指先がゆっくりとした動きでクルリと回る。
パクリ・・・・。
思いがけず口元に近い軌跡を描いた指先をゾロは無意識に口で捕らえた。
唇を掠める位置で動いた指につい食いついてしまったのだ。
「あー・・・・。」
人差し指の第一関節。
指先を咥えたままチラリとサンジの様子を伺えば困ったように見つめている。
「離してくれる?」
「んー?」
力を入れて歯を立てているわけでもないのだし、自分で取り返せばいいのにとゾロは思う。
「ゾーロ?離して?」
「んー・・。」
ますます困ったように笑う顔を見て、口の中の指を舌先でちょっとだけ舐めてみる。
「ゾーロー?」
強引に取り返すでもなくただ言葉を連ねるサンジを見つめ返す。
サンジの指先は予想どうりに煙草の味がした。
「ゾーロ、遊んでないで・・・ね?」
ゆるく握りこまれていた左手が開いて、自由な中指の先でそっと顎を撫でられる。
そのくすぐったい感覚にゾロは喉の奥で笑った。
「おーい、ロロノアさん。離してくれないと襲っちゃうけどいいのかなぁ?」
冗談めいた口振りでペンを置いたサンジの右手が伸びてくる。
頬をそっと右の手のひらで包み込み、親指の腹で下唇をなぞられる。
ゾクリと背を走った覚えのある感覚にゆっくりと目を閉じた。
「ゾーロー。」
優しい手つきで揺るやかな愛撫を受け、うっとりとしていると煙草の香りがきつくなる。
うっすらと目を開けばサンジの体がゆっくりと自分に覆いかぶさってくるのが見えた。
「くち、開けて?」
促されるまま、捉えた指先を開放してやれば、代わりとばかりにサンジの唇が降ってくる。
「誘ったのはあんただからね。」
言い訳めいた言葉を口にして笑うサンジを引き寄せて、ゾロは煙草の味のするその唇を奪った。
若いだけに歯止めの利かなくなるセックスは船ではあまりしない。
陸以上に何が起こるかわからない海の上で、戦闘員である自分が動けない状態になるのだけは絶対に避けたい最悪の事態だからだ。
かといって、若い身体が互いに触れ合ってしまえば・・・・やはり、歯止めはあってないようなもので。
気付くと貪るように互いを食い尽くしてしまっている。
ゾロは力の抜け切った身体をバスタブに沈めて、丁寧に身体を洗ってくれているサンジの顔をぼんやりと眺めた。
「・・・眠い?」
時折、剥き出しになっている肩に暖かな手のひらが湯と共に滑っていく。
どうしてこの男はこうまで優しいのだろうとゾロは不思議に思う。
乱雑に扱ったからといってどうなる身体でもないのに。
「・・・眠い。」
耳の後ろを洗う指先を嫌がって身じろげば、宥めるように耳を引っ張られた。
「こーら、もうちょっとだから・・。」
バスタブの湯を抜きながらそう言われる。
泡立てたスポンジで身体を洗われ、熱めのシャワーで泡を流していく。
大きめなバスタオルで雫を拭われ、着替えを渡してきたサンジの腕を掴む。
「まだ、寝ないのか?」
そう問いかけるとサンジは驚いたようにすこし目を瞠った。
「もう少し、レシピ纏めておきたかったんだけど・・。」
「明日にしろ。」
ゾロは腕を引き寄せて互いの肩を触れ合わせる。
「えっと・・・一緒に寝たいとか?」
それに答える代わりにゾロはそっと口付ける。
「・・・・分かった。」
クスリと笑って回ってきた腕に大人しく従って目の前の身体に重みをかける。
「言っとくが、もうやんねぇぞ・・。」
「了解・・。」
ポツリと呟いたゾロの言葉にサンジの小さな笑い声が重なった。
END++
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甘いです・・・砂吐きそうに甘い、胸焼けしそうです(倒
暗い話の反動でこんなことに・・・(ばく
のんびりとした雰囲気の二人を書こうとして玉砕しました(^^;
= Secret =