◆◆ 翠金と蒼銀 ◆◆









表参道を少し入ればそこは表とは相容れないものたちの住処。
ダウンタウンと呼ばれるそこは、大人から子供まで、大小様々な諍いが絶えない。
所詮は世間からは疎まれ、忌み嫌われる影の世界。
しかし、影には影のルールがあり、そして彼等は生きていく上で貧欲で脆い。










「誰に断ってここで商売してんだぁ。」

罵声と共に積み上げられた木箱が崩れ落ちる音がする。
表参道とは目と鼻の先、派手な音は辺り一帯に響いたはずだが誰もその小さな路地の先を覗こうとはしない。

「う、うるせえ!」

瓦解した木箱に埋もれるようにして、デニムのオーバーオール、そして頭部にバンダナ巻いた長い鼻の少年が気丈に声を張り上げる。
そんな少年の姿を鼻で笑い、先ほど手を上げたスーツ姿の男は唇に獰猛な笑みを浮かて哀れな獲物を見下ろした。

「はっ、度胸だけはいっちょ前か小僧。」

嘲るように笑った男の腕が再度振り上げられ、それを視界に入れた少年は固く目を閉じ身体を強張らせる。しかし少年に振り下ろされようとしていた拳はそのままに、再度少年に向けて降ろされる事はなかった。

「グハッッ!!」

ガツっと鈍い音を辺りに響かせて男の体が壁に向かって飛んでいく。
そして男が壁に叩きつけられたのと、少年の前に赤いデニムのベストを素肌に羽織り、麦わらを被った少年が立ちはだかったのは同時だった。

「グッ・・・・ゲェハッ・・・テ、テメェ・・。」

壁にそって崩れた男が咳き込みながらも壁に手をついて立ち上がろうとする。
その前に何処からともなく静かにもう一人、緑の髪の青年が姿を現した。
その特徴のある緑の髪を見つめた男の目がこれ以上は開かれないだろうというぐらい大きくその目を見開く。

「テメェは・・・・東の魔獣・・・、なら・・あれは、麦わらのルフィか!」

喉をひりつかせ掠れた声で問い掛けた男に答えるかのように青年の唇が皮肉気に歪み見下ろしてくる。
緑の髪の青年の耳元に光る3連のピアスと、その腰にある3本の刀を確かめるように何度も見つめて、愕然とした表情を浮かべた男は、麦わらを被りこちらを睨み付けている少年へと怯えたような視線を向ける。

「ああ、そしてテメェが今ブッ飛ばしたのはその麦わらの身内だな。」

ニヤリと魔獣と呼ばれた青年が唇を歪めて告げるのに、男は無様にもブルブルと大きくその体を震わせた。

「し、知らなかったんだ、すま・・・ゲ、グッゥ!!」

慌てて取り繕うように何事かを訴えかけた男を一撃でその場に沈め、少年が無表情にパチンと両の拳を打ち合わせる。
それにヤレヤレといったふうに笑いながら緑の髪の青年は、長い鼻の少年の元へと歩み寄った。
そして腕を伸ばして少年が立ち上がるのを助けてやる。

「このままチョッパーの所へ行くぞ、ウソップ。」
「・・・すまねえ、ゾロ。」

ヨロヨロとした足取りで歩き出した体に手を添えて、怒りを宿して倒れた男を見つめている後ろ姿へとゾロは声をかける。

「おい、いくぞ、ルフィ。」
「・・・・・ああ。」

ゾロの呼びかけに麦わらを深く被りなおしたルフィがゆっくりとした足取りで近付いてくる。
そしてグイッと反対側からウソップの体を支えるように腕を回した姿にかすかに口元を緩めて、ゾロは路地の奥へと向かって歩き出したのだった。















ここダウンタウンには大人、子供に関係なくある一定のルールが存在する。
そのうちの一つ、中央に十字に走る大通りを挟み、4方に分かれたそれぞれの区域にはそれぞれの地域を支配している主が存在していた。
その東の一角を現在支配しているのは麦わらのルフィと名乗る弱冠17歳の少年だ。
前ボスで、凶暴で有名な男を打ち倒して、東のボスとして納まったルフィは一見すると人懐こいただの少年にしか見えなかった。
ルフィは手下を多く従える事を良しとせず、普段は魔獣と呼ばれる少年と、狙撃手と呼ばれる少年のみとつるんでいる。
威張り散らす事もなく、無駄にその力を誇示することもなく、ルフィは非常に上手く東の地域を治めていた。

「いってぇー!!」

診療所というにはただの味気ない一室で、殴られて出来た傷に消毒液を染み込ませた綿花を当てられた長い鼻の少年が大きな声を上げて騒ぐ。
長い鼻の少年の名はウソップ。
ウソップはルフィがフラリと東の地に足を踏み入れてからの友人で、嘘つきで明るく、パチンコが上手く、もともと表通りに住んでいたごく普通の少年だった。

「イテェ、イテェって、チョッパー。」

ウソップはやくに両親をなくし、その両親が残してくれた小さな雑貨屋を幼いながらも守っていたのだが、悪質な地上げにあったのだ。
子供であるウソップを騙し、二束三文で買い叩こうとした業者は、両親の思い出を手放す事などさらさらなかったウソップに、汚い手段を平然と取った。
彼等は卑劣にも火の不始末による出火を装い、その小さな店に火を着けた。
幸いにしてウソップに怪我はなかったが、燃えていく家族との思い出をウソップは歯を食いしばり、涙を堪えて見つめ続けた。
もしかしたらその邪魔者であるウソップも居なくなってしまえばいいと彼等は思っていたのかもしれない。
子供であるウソップに再建など到底無理、しかも周囲を巻き込んでの火災はその賠償額も膨大なものとなった。
結局、ウソップはその賠償額を肩代わりするといった大人達に自宅のあった土地を少額で譲るしかなかったのだ。

「あ、ここにも怪我してるぞ。」
「あー、それは昨日実験しててやっちまったんだな。イッテェって!!」
「うるさい!ジッとしてろって!動くと終わんないだろう!」

痛い痛いと騒ぐウソップに怒った声を出して、消毒液を浸した布で丁寧に傷口を消毒してはテープを施しながら、ピンクのシルクハットを被った不思議な生物がブツブツとウソップに苦情を述べる。
チョッパーと呼ばれた小さな生物はモコモコの体、そして頭部に生える2本の角、どう見ても人とは見えなかったが、それに驚いたふうでもなく二人のやり取りを見守っている。

「よし、終わったぞ。」
「あああ〜、もう、俺はだめだぁ〜。」

最後にぺたりと頬に絆創膏を貼り付けられたウソップがへなへなと力を抜いて治療中に腰掛けていたソファーへと体を沈める。
それに呆れた顔を見せながらチョッパーは手早く使った医薬品を片付けていく。

「浅い傷ばっかりだ。よし、これでいいぞ、ルフィ。」
「おう、チョッパーありがとうな。」
「エッエッエ、誉められても嬉しくねぇぞ〜。」

ニッと笑って礼を口にしたルフィに特徴のある笑い声を上げてチョッパーが体をくねらせる。
チョッパーは数年前、医者であるヒルルクという男に拾われた。
生体実験の突然変異として、実験体として生きていたチョッパーに人の温かさと、医者の心、そして生きる事の大切さを分け与えたのはヒルルクだった。
ヒルルクの元で医師として勉強を続ける傍ら、数少ない友人であるルフィ達の面倒も見ている。
実際、怪我をしたときだけでなく、ルフィ達がこうして遊びの誘いも兼ねてチョッパーの元に訪れる事も少なくない。

「あ、ゾロ。ついでだ、怪我みるぞ。」

ウソップの治療に付き添って来たゾロを目敏く見つけたチョッパーがそういって、こっそり出て行こうとしたその背中を引き止める。

「いや、もう、治った。」

ヤバイといった顔で動きを止めたゾロにチョッパーが険しい表情を浮かべる。
チョッパーがルフィ達と知り合う事になったきっかけはこの魔獣と呼ばれる青年の怪我が原因だったのだ。

「そんなわけねぇぞ。全治一ヶ月だったんだぞ。」

小さな体で怒ったように詰め寄ってきたチョッパーにゾロが困ったように笑う。
血塗れてルフィに抱きかかえられたゾロが消え入りそうな息をしていたのはほんの一週間ほど前の事なのだ。
意識が戻り、動けるようになった途端に姿を消したゾロの事を心配していたチョッパーは逃がさないぞというようにその顔を睨みつける。

「ルフィ・・。」

困ったようにルフィの名を呼んだゾロにルフィがニッカリと笑う。

「いいじゃねぇか、ゾロ。ついでだチョッパーに診てもらえよ。」

ウンウンと首を縦に振っているウソップと、ルフィの言葉に力を得たチョッパーがジッとゾロの顔を見つめてくる。
しばらくその視線を受け止めてゾロはハアッと諦めたような溜息を零した。

「分かった・・・。」
「ししし・・・良かったな、チョッパー。」
「おう。それじゃ、上着脱いでくれ。」

ウキウキと医療鞄に手をかけたチョッパーを見遣ってゾロは諦めたように着ていたバックプリントの白いTシャツへと手をかける。
スルリと脱ぎ捨てられたシャツの中から均整のとれた、だが、まだ完成されていない肉体が現れる。
その胸に大きく走る傷は見るものに少なからず衝撃を与えるのを知っていて、ゾロは滅多なことでは体を人目には晒さない。

「うん、だいぶ良くなってるな。」

ウソップのかわりにソファーに腰を降ろしたゾロの脇腹に走る傷に蹄を当てて、傷の様子を見ていたチョッパーがホッとしたように笑う。
ウソップがそうであったようにゾロもまた、もともとは裏の住人ではない。
そして魔獣とはゾロがこちらの世界の住人になってすぐにつけられた呼称だった。

「一応、これ、抗生物質。もし傷が熱を持つようだったら飲んでくれよ。」

言い聞かせるようにして渡された小さな蹄に挟まれた薬包紙をゾロは受け取る。
この世界に足を踏み入れる前、当時、ゾロには大切な女性がいた。
愛や恋といったものとは違ったのだが、家族のように、実の姉のように彼女の幸せを願っていた。
その女性は今では幸せな家庭を築いたと風の噂で聞いた。
だが、その彼女の大切な人は、偶然通りかかった小さな路地で、くだらない喧騒に巻き込まれその命を散らしたのだ。
一度として涙を見せたことの無かった彼女の涙に、ゾロは言いようのない怒りを感じて生まれ育った家を飛び出した。
その時ゾロは14歳。
元々大柄で、その歳の少年達と比べて格段に強かったゾロはその腕で彼女の大切だったものを奪った男に制裁を加えた。
あっけないほどに決着のついたそれは、しかしこれからのゾロの人生のレールを表から裏へと返させるには十分な事実だったのだ。
力は無いが権力のあった男の立場がゾロへの無差別な攻撃となって降りかかり、それを払い除けているうちに、血に飢えた魔獣とゾロは周囲から畏怖される存在になってしまっていた。
そのことに気付いた時、ゾロは19歳。
もう表の世界には戻れない血塗れた己の手にただ笑うしかなかった。
それでも人とつるむ事を嫌い一匹狼だったゾロを、多少強引な手段とはいえ、恩を押し付け自分の手元に縛り付けたのがルフィだったのだ。
明るく何処までも前向きなルフィを見ていると、汚いばかりのこの世界も悪くはないとゾロは最近考えるようになってきていた。

「よし、これでいいぞ。」

体のあちこちに散らばる傷に、一通り目を通したチョッパーがニコニコと笑いながら話かけてくるのに、ゾロも笑ってシャツを頭から被る。
そしてゆっくりとソファーから立ち上がった。

「今日はどうする?」

ゾロの診察が終わったと見ると、窓際に置かれていた木製の椅子から飛び降りたルフィがその黒い瞳を輝かせながら聞いてくる。
赤いデニムのベストを素肌に纏い、紺のジーンズを履いたルフィがペタペタと音をたてながら歩いてくる姿を見つめて、ゾロはシャツの裾を直しながら軽く肩を竦めた。

「今日は遠慮しとく。またな。」
「そっかー、ナミも会いたがってたぞー。」

ナミというのはルフィの彼女で生粋のダウンタウンの住人だ。

「そうか、また今度、誘ってくれ。」
「おう。」

ゾロの答えに分かったというふうにルフィが楽しげに笑う。
明るい翳りのない笑顔に、東に住むどれほどの者が救われたのだろうとゾロはそっと心の中で笑みを向ける。

「ウソップはどうするんだぁ?」
「・・・俺さまはだなあ・・・。」

ルフィの問い掛けにウソップが答えている声を聞きながらゾロは開いていた窓から外へと飛び降りる。
トンと重力を感じさせない動作で地に降り立つと窓から覗いた顔に向かってヒラリと片手を上げる。

「またなー、ゾロ。」

元気なルフィの声に笑いながら、ヒラリヒラリと手を振り返し、ゾロは目指す酒場に向けてゆっくりと一つ目の路地の角を曲がったのだった。


















ジャラリと鳴る耳障りな音にゾロはその整った眉を顰めた。
いつものように、行きつけの酒場に行ってジョッキを2〜3杯空けたところで意識が途切れている。
油断しすぎていたのだと自嘲に唇を歪めた所でカチャリと扉の開く音がして、暗かった室内に明かりが灯った。

「お目覚め?マリモくん。」

クスリと笑いを含んだ男の声が耳に届き、ゾロはゆっくりと頭を左右に振る。
意識は覚醒へと向かったが鈍い身体の反応にゾロは何度も目を瞬かせる。

「・・・だ・・・だれ・・だ。」

喉に絡む声で問い掛けて、ゾロはろくに開かない目蓋に焦れてハアッと息を吐き出した。

「おや、もしかしてまだ薬が切れてねぇ?」

動きの緩慢なゾロの様子に声をかけてきた男が不思議そうに呟く。
それにその通りだと教えてやるのも業腹でゾロはゆっくりと何度も息を吐き出した。
少しずつ感覚の戻っていく手足はそれでもろくに動かず、ゾロは冷たく固い床の感触と自由の聞かない手足に状況を把握していく。
どうやら後ろ手に縛り上げられ、コンクリの床に転がされているらしいと、手首に触れる冷たい金属と、頬に触れるザラリとした冷たさにそう結論付ける。
そして、緩く動かした足も同様になんらかの足枷を受けているらしい。
その重さから手首を戒めているものと同様だろうと考えた所でいきなり上半身を引き起こされた。

「・・・・・・っ。」

無理な姿勢で強引に顎に手を掛けられ、その痛みに目を開けた。
暗闇に慣れていた目に眩しい光が飛び込み、ゾロは何度か瞬きを繰り返すと顎を掴んでいる男へと視線を合わせた。

「やっと俺を見たな、ゾロ。」

ニヤリと目の前で笑った男は、その蒼い瞳を楽しげにゾロへと向けていた。

「・・・テメェ・・・・・・。」

ぼんやりと視点のあわなかった視野がクリアに、そしてゾロの視線が一気に鋭さを増す。
射殺さんばかりの激しい色を乗せたゾロの緑の瞳に男は楽しげにその金の髪を揺らして笑った。

「忘れられてなかったか、それは良かった。」

クククと笑った顔を見つめてゾロはギリッと唇を噛み締めた。
忘れようと思っても忘れられるはずがない。
半月前この男はゾロにあんなことをしでかして、翌朝、あっさりとその姿を消してしまったのだ。

「なあ・・・・寂しかった?ゾロ?」

金の髪、蒼い瞳、特徴的なクルリと巻いた眉を細めてゾロを覗き込んでいる男のした仕打ちを忘れる事など出来なかった。

「ああ・・・寂しかったぜ、サンジ。テメェをぶち殺したくてウズウズしてたからなぁ。」

視線に殺気を篭めたまま唇を笑みの形に歪めたゾロにサンジは目を丸くして、そして仕方ないなあとでもいうように笑った。
そして身動きできないゾロを見つめて、ニッコリと微笑むと、静かに顔を寄せてくる。

「なっ、離せ、サンジ!」
「俺はクソ寂しかったぜ・・・アンタに・・・ゾロに触れなくてさ。」
「はなっ・・・・んっ。」

吐息の触れる位置で甘く囁いた唇がそのままゾロの唇を塞いでいく。
はじめはしっとりと重ね合わせ、ゾロの唇が固く引き結ばれているのに気付くと、今度はゆっくりと舌先で唇の形をなぞり始める。

「会いたかった・・・会いたかったよ、ゾロ。」

ピチャリと濡れた音を立てて唇を舐め上げられ、ゾロはゾクゾクと背を走る感覚にビクリと身体を揺らす。

「やめろ、サ・・・ぁ、ん・・・っ。」

くすぐったいのか、何か分からない感覚に抗議の声を上げかけたゾロの隙を縫って、サンジの舌が口腔に忍び込んでくる。
熱く柔らかな舌に、逃げかけた舌を絡め取られ、抗議の声を上げかけたゾロを宥めるように優しく口付けられる。
ピタリと張り合わせたように口内で舌が擦れ、吐息ごとサンジの中へと吸い上げられる。
時折擽るように上顎を舐められ、ゾロはいいようのない感覚に肩を震わせる。
無理に仰のかされた姿勢と自由にならない身体でサンジからの口付けを受け取る。
まるでゾロを味わうかのように丁寧に舌を這わせ、トロリと甘やかな口付けを与えては、奪い取るように激しく官能を呼び起こしていく。

「ぅっ・・・・ふ・・っ、う・・。」

強張っていたゾロの身体から徐々に力が抜け始め、それに合わせてサンジの腕がその身体を抱き締めるように床から抱き起こす。
ピチャピチャと濡れた音を響かせながら、スルリと腰を這った指先にゾロはビクンと大きくその身を震わせた。
怒りに波立たせていた感情も、熱い呼気に呼び起こされた甘やかな感情に呑み込まれていく。

「・・・・ぁ・・・はぁ・・・。」
「・・・・ゾロ。」

思うが侭にゾロを味わっていた唇が名前を口にしてゆっくりと離れていく。
それに甘い声を思わず上げてゾロはいつの間にか閉じていた瞳をゆっくりと開けた。
間近にある蒼い瞳は深い色を湛え、燐粉を塗したようにきらめきを放っている。
同じようにゾロの翡翠のような瞳も深い色を湛え、美しく煌めいているのをゾロは知らない。

「会いたかった・・・会いたかったよ、ゾロ。」

吐息が触れる位置で甘く繰り返し囁かれてゾロは熱に潤んだその瞳をゆっくりと閉じていく。
今更、今更何を言っているのだと、目の前の男に言ってやりたいがそれを口にすることが出来ない。
あの朝、確かにゾロは裏切られたと思ったが、あの夜の行為はこの男にとってなんの意味のないものだったのかもしれないと口惜しさに唇を噛み締める。
噛み締めた唇にチュッと音を立てて口付けられてゾロは再度目の前の男へとその視線を向けた。

「やっと、こっちの仕事が終わったと思ったらアンタがここに運ばれてるのを見かけたんだ。一瞬目の錯覚かと思ったけど覗いて正解だったな。」

話しながらも小さくゾロの唇を啄ばむそれを嫌ってゾロは首を大きく振り、間近で相手と視線を合わせる。

「そっちの仕事の事は知らねぇ。テメェが何をしてようと俺には関係ねぇ・・・だが、俺は・・・・。」

サンジの持っているパーツの中でも、もっとも気に入っていたその蒼い色を見つめながらゾロはグッと言葉を詰まらせ、そして小さく吐き捨てるように言葉を続ける。

「俺はテメェのした事を許せねぇ。」

熱に潤んでいた瞳が鋭さを取り戻し、低く怒りを押し殺したようなゾロの声にサンジの目が丸くなった。

「・・・ちょ、ちょっと待て。」

先ほどまでの雰囲気はどうしたのかと言いたくなるぐらい、いきなり慌て始めたサンジは腕に力を篭め、抱き締めているゾロの顔をマジマジと覗き込むと口を開く。

「俺のした事・・って・・・。」

一瞬言いよどんでサンジはその言葉を口にする。

「俺がテメェを・・・抱いた事か?」

確認するような問いかけの言葉にゾロの唇がなおも固く引き結ばれた。
その固い表情にサンジの顔がどこか傷付いたように情けなく崩れていく。

「だって、テメェ・・・・キス、嫌がらなかったじゃねぇか・・。」

ポツリと漏らされた呟きにゾロはキュッと唇を固く引き結ぶ。
そんなゾロの様子にサンジはヘニャリと特徴的な眉を下げた。

「抱き締めても、キスしても、テメェは笑っていたから・・・俺は、てっきり・・。」

はあっと大きな溜息をついてサンジの蒼い瞳がゆっくりとゾロの姿を映す。

「・・・ひとつだけ・・・・聞いていいか?」

視線は鋭い光を宿したまま、固く唇は引き結ばれたゾロからサンジの身体が少しずつ離れていく。
抱き締めていた腕が緩んで途端にかかってきた手首の重みにゾロは微かに眉を顰めた。

「俺が好きだって、告白した時、頷いてくれたって思ったのは俺の勘違い・・だったのか?」

静かなどこか傷付いた表情のサンジにゾロはゆっくりと記憶を辿る。
あの日、あの夜。
あの夜は、ひどく心地よい夜だった。
ルフィの知り合いで金髪碧眼のサンジが尋ねてきたのは夜半も過ぎてから、2度ほど顔を合わせていただけのゾロの元に一人でフラリとその姿を現した。
いったい何の用だと思いつつ、門前払いを喰らわせるには惜しい手土産だという上物の酒を二人で酌み交わし、他愛も無いバカ話をして、ゾロは珍しく気分が良かった。
北を根城にしているというサンジという男は、ゾロと歳が近いこともあってかルフィやウソップとはまた違った空気を纏っていて、その波長が心地よかったのだ。
そこそこにアルコールを摂取して、気分も高揚していたゾロはふと、いつの間にかサンジが自分を見つめている事に気付いた。
何度かそんなサンジの気配に、何故こちらを見ているのかと問い掛けかけて、なんとなく言葉に出来ず、言葉の変わりにグラスを口に運ぶ。
そんな仕草を何度か繰り返したゾロに無言でサンジが手を伸ばし、そっと、まるで壊れ物を扱うように頬に手を添えられ、やがてその唇が近付いてきた時、ゾロはそれを何の疑問も持たずにサンジからの口付けを受け入れた。
軽く触れて離れていった唇が、もう一度しっとりと重ねあわされた時も、ゾロは鼻腔を擽る煙草の香りと、ただその柔らかさに驚いただけだった。

『好きだ・・・好きなんだ。』

手にしていたグラスを取り上げられて、間近で囁かれた時も、どこかこれはサンジ独特の冗談なのかもしれないとゾロは思っていた。

『・・・ゾロ。』

緩く身体に回されていた腕に力が篭り、唇を割ってサンジの舌が忍び込んできても、ゾロはまだどこかでこれは冗談で、二人で馬鹿笑いをしてまた酒を飲み始めるのだろうと思っていたのだ。

「ゾロ、それにも答えちゃくれねぇのか?」

カチリと間近で視線が絡み、ゾロは小さく息を飲んだ。
あの時、鼻先が触れ合うほどの近くで合わさった瞳に、深い蒼に変わっているその美しさにゾロは見惚れた。
銀の燐粉を塗したような濃い蒼い瞳に自分の姿が映っているのが不思議だった。
それに見惚れて、どこかサンジの気配に飲まれて、気付いた時にはサンジの下で女のように喘ぐ自分が居た。
何が起こっているのか把握できないままに、流されて、受け入れさせられて、ゾロはその夜サンジに抱かれてしまった。
途中、正気に返ったゾロが嫌だと何度口にしてもサンジの手は止まらず、逃げる事も叶わず、ゾロは快楽を与えられ続けた。

「俺達が会ったのはあの夜で3度目だ。」
「ああ・・・。」
「俺がテメェの事を知らないように、テメェも俺の事を知っちゃいねぇ・・。」
「・・・・かもな。」

初めての快楽になす術も無く、ゾロは目の前の男に縋ったような気がする。
行為自体が初めてだったゾロは、今思い出してもグチャグチャでその時の記憶が定かではない。
それでもサンジの腕は優しく、宥めるように合わさった唇はゾロのことが大切だといっていたような気がした。
それなのに、翌朝、目覚めたベッドにはゾロ一人だけしか居らず、すでにこの男の痕跡は一つとして残っていなかった。

「どうして俺を好きだと言い切れる?」

ゾロの質問にサンジはクッと唇を歪めてみせる。

「そんなもん、好きなもんは好きだとしか答えようがねぇよ。」

笑みの形に歪んだ唇がどこか寂しげに言葉を綴るのを見て、ゾロは怒りが薄れていく事に困惑してしまう。
自分はこの男の事をきっと嫌いではないのだ。
だが、好きだという言葉だけで、あの朝から今まで姿を消していたサンジを許すことも出来ない。

「やり逃げで姿を消していた男が傷付く権利はねえぞ、サンジ。」

サンジの質問に迷いながらも何とか言葉にしようとしたゾロに何処からとも無く別の声が答えてくる。
聞き覚えのありすぎる声と、そして現在の自分の状況を思い出してゾロはハッと身体を固くする。

「・・・チッ。」

サンジが舌打ちしてゾロとの距離をとったのと、その影が姿を現したのは同時だった。

「ルフィ・・・。」

東のボスが何でこんなところにいるんだと口にしかけてゾロは口を閉ざす。
多かれ少なかれ自分の事が原因だろうと、現状を考えれば分かる事だ。

「迎えにきたぞー、ゾロ。」

屈託無く笑うルフィの腕が伸びてきて、笑いながらゾロの拘束を解いていく。
手首、両脚とジャラリと音を立てて鎖が床に落ちた。
ゾロに手を貸してその場に立ち上がらせたルフィの手がポンポンと、ゾロのジーンズから埃を払うような動作を繰り返す。

「ルフィ・・・すまねぇ。」

そんなルフィを見つめて謝罪の言葉を口にしたゾロにルフィがニヤリと楽しげに笑う。

「んーん、気にしないでいいぞー、ゾロの迷子には慣れてるからな。」

にししと楽しげに笑っているルフィに固かったゾロの顔がふんわりと笑みを浮かべる。

「・・・チッ。」

ルフィが登場すると同時にゾロを奪われたサンジが舌打ちして床からユラリと立ち上がった。
そんなサンジに冷たい眼差しを寄越したルフィがゾロの手を掴むとグイッと自分の方へと引き寄せる。

「ゾロは俺のだ。」
「・・・なっ?!」

引き寄せられた腕の強さとその言葉にゾロの目が丸くなる。

「知ってる・・。」
「はあ?テメェ、なに言って・・。」

不貞腐れたように呟いたサンジの言葉にゾロの目が慌しく二人の間を行き来する。

「約束は守れよ、サンジ。」
「・・・分かってる、ルフィ。」

蒼と黒の瞳があわさり、一瞬殺気にも似た気配があたりを満たしていく。
状況も内容も分からず、困惑した表情を浮かべたゾロにサンジがニッコリと優しく微笑んだ。

「すぐに迎えに行くからな、待っててくれな、ゾロ。」
「は?迎えって?」
「じゃあな〜。」

ウインクに気障な仕草で、ゾロに手も振ると、大きく口を開けていた扉からサンジの背が消えていく。
何のことだ、どういうことだと混乱しながら、ゾロは唯一その会話内容を知っていそうなルフィへと顔を向ける。

「・・・ルフィ・・・。」

サンジが姿を消すと同時に腕を解放したルフィは低い声で名前を呼ばれたことに苦笑を浮かべる。

「説明しろ。」

鋭い視線と低い声にルフィがにししといつもの様に笑ってみせる。

「あー、サンジが俺のとこに来たのはゾロが欲しくて・、それで交渉に来たんだ。」
「・・・はああ??」
「どうやったら、ゾロを譲ってくれるかっていうから俺はキッパリと断った。」
「はあ?」

いったい何の事だと目を白黒させたゾロにルフィが悪戯っぽい笑みを向けてくる。

「だけどよぉ?ゾロ。サンジって結構諦めが悪くてなあ。」

にししと声を立てて笑ってルフィは楽しげに続ける。

「俺のところに直談判に来たのはゾロも知ってる通り2回だけなんだけどな、それ以外にも文書だったり、貢物だったり、脅したり賺したり・・まあ、本人以外の人物が交渉に来たりと、しつこかったんだ。」
「・・・・・・。」
「・・・それで・・・。」
「・・・・で?」
「ゾロがウンって言うならいいぞって言っちまったんだな、これが。」

ウンウンと首を縦に振りつつ言われた言葉にゾロの額に青筋が浮く。

「俺は物じゃねぇ!」
「おう、そんな事はサンジだって分かってるって。」

思わず怒鳴ったゾロに軽く眉を顰めてヤレヤレといったふうにルフィが続ける。

「俺だってゾロを取られるのは正直イテェ。言っとくが戦力がって意味じゃねえぞ?」

真面目な黒い瞳に気圧されるようにゾロはゆっくりと瞬きを繰り返す。

「ただ、サンジのしつこい押しに、もしかしたらゾロが頷いちまうかもしれねぇって思って、一応保険を掛けといた。」

保険と口にした途端に浮かべられた笑みにゾロの身体が一瞬後ろに逃げかける。
嫌な予感を想像させるその笑みにゾロはタラリと背を冷たい汗が流れていくのを感じた。

「保険ってのはなー、ゾロ。」

ニコニコニコ。
満面の笑みでルフィは楽しげに続ける。

「サンジが北の椅子に座って、ゾロが頷いたら、ゾロを連れて行ってもいいって言ったんだ。」

楽しげに告げられた言葉にゾロは目を丸くする。
椅子とはその区域のボスの事で、つまりルフィはサンジに北のボスになれと条件を突きつけたという事なのだ。

「・・・北って・・・確か・・。」

縄張り争いに興味は無いとはいえ、嫌でもその区域のボスの噂は耳に入ってくる。
北のボスは赫足と呼ばれる男のはずだ。

「無茶だ、ルフィ。」

蹴り技の達人で、男を慕う部下の数も半端じゃなく多かったはずだ。
無理難題をふっかけたルフィにゾロの眉がよる。
思わずといったふうに漏らしたその言葉にルフィがシシシと声を立てて笑った。

「んーん?・・そうでもないんだな、これが。」

にんまり、まさしくニンマリと笑ったルフィがすでに姿を消したサンジの姿を追うように扉の方へと目を向ける。

「サンジは赫足の息子で、あいつ自身もすっげぇ強えぇぞ?本気でやりあったら俺だって無傷ってわけにはいかねぇぐらいに、じゅうぶん強えぇんだ。」

嬉しそうに楽しそうにそう言って、もう話は済んだとばかりにルフィが扉に向かって歩き出す。
入口でいったん立ち止まり、手招いているルフィにゾロは小さく溜息を零す。
そしてぼんやりとその背を追って歩き出しながら、ゾロはすっかり蚊帳の外での密談の内容に深いふかい溜息を零したのだった。

















カンカンカンと、靴音を響かせて階段を登り、ゾロはフッと息を吐き出した。
玄関扉の前に佇むシルエットはやはり予想していた男のもので、ゾロは無言でそのシルエットに近寄っていく。
ゾロにチラリと視線を寄越してきたサンジを無視して、ゾロは玄関に鍵を差込み、ゆっくりと鍵を回した。
カチャリと鍵の外れる音に、玄関扉を背にしていたサンジが身体を離し、静かにゾロを見つめてくる。

「・・・なんか用か?」

ドアノブに手を宛てたまま静かに問い掛けたゾロの手が冷たいサンジの手に覆われる。
次に、大きくその扉を開かれて、強引に室内へと連れ込まれたゾロは眉を顰めた。
バタンと二人の背後で大きな音をたてて閉まった扉にゾロはハアッと息を吐き出す。

「離せ、サンジ。」
「・・・・・嫌だ・・・。」

ゾロは背後から掴まれたままの腕と、腰に回され、固く力の入ったサンジの腕にハアッともう一度息を吐き出した。
グッと力を篭めて振り解こうと動けばますますその腕に力が篭り拘束が強まる。

「サンジ・・・。」
「嫌だ、離さねぇ・・。」

背後から抱き締められるようにしてその耳元で苦しげに呟かれる。
その言葉にゾロはくたりと全身の力を抜いてゆっくりとサンジに身体を預けるように背を預けた。

「・・・ゾロ?」

急に重みが加わった事に驚いたのか、ピクリとその腕が波打ち、ゾロの身体をそっと抱き締めてくる。

「逃げたりしねぇから離せ。・・・せめて部屋に入らせろ。」

怯えさせないように静かに口を開き、開いていた手をそっとサンジの腕に重ねると、きつく腰を戒めていた腕からゆっくりと力が抜けていく。
スルリと解かれた腕から抜け出して、ゾロは玄関先にサンジを残したまま室内へと入っていく。
カタン・・と小さな音を立ててサンジが追ってきたのを気配で感じながらゾロは窓際に並べて置かれているベッドへと腰を降ろした。
そして目線で唯一の一人掛け用のソファーへとサンジを促す。
ゾロの視線に一瞬足を止め、大人しくソファーにその身体を沈めたサンジを眺めてゾロはハアッと何度目かになる溜息を零した。

「ルフィから聞いた。」
「・・・・そう・・か。」

ゾロの言葉に深い溜息のようなサンジの声が答える。
それに軽く眉をよせて、会ったら絶対に言ってやろうと思っていた言葉をゾロは口にする。

「馬鹿かテメェは。」
「・・・なっ!?」

ガタンと派手に音を立てて立ち上がったサンジにゾロはヒタリと視線を合わせたまま続ける。

「俺はルフィのモノじゃねぇし、部下でもねぇ。」
「・・・・・。」
「俺は自分の意思でしか動かねぇ。」

ジッと注がれる翡翠の輝きにサンジの目が困ったように細まった。

「つまり俺は、順番を間違えちまったってことか。」

ドサリと音を立ててソファーに身を投げ出したサンジにゾロは軽く肩を竦める。

「ああ、俺の腕が欲しければ俺に直に言いにくればよかったんだ。」

笑い混じりに告げたゾロに、サンジが弾かれるように顔を上げた。
そしてパクパクと口を開閉させたあと、いきなりガックリと頭を垂れて項垂れる。

「あー、もうっ!。」
「・・・?・・・どうした?」

ガシガシと乱暴な動作で髪を掻き毟ったサンジがガバリと顔を上げる。

「あのさ、俺はアンタの腕が欲しくて、アンタを欲しいって言ってるわけじゃないんだぜ?」
「・・・・?」
「俺はアンタ自身が欲しいって言ってんだ。」

サンジの言葉にゾロの首がゆっくりと横に傾いだ。

「同じだろ?」
「・・・・・違うって。」

ハアっと深く息を吐き出したサンジが立ち上がり、ゆっくりとベッドに腰を降ろすゾロの元へと近付いてくる。
そしてキシリと音をたててゾロの座る横に片膝を乗せた。

「俺は、アンタをトロトロになるまで愛してやりてぇ。」

身体を倒して距離の縮まったサンジの顔を見上げてゾロは即物的なその表現に眉を寄せる。

「金色に輝くアンタの瞳で、俺だけを見て欲しいって思ってんだよ。」

グッと近寄ってきたサンジと鼻先が触れ合うほどの距離でゾロはその言葉に首を傾げた。

「金色?俺の目は緑だ。」

吐息が唇を擽るほどの近距離で疑問だけを口にしたゾロにサンジがクスリと小さく声を立てて笑う。

「この体制で気になったのはそこだけなのか。」

明らかにベッドに座るゾロに圧し掛かるようにして身体を近寄らせているサンジに警戒したふうでもなく聞いてくるゾロにサンジはクククと声を漏らして楽しげに笑った。

「そうか、知らねぇんだな・・。」
「・・・な、なにがだ?」

ますます近くなった顔に仰け反るように身体を動かしたゾロの肩をサンジの腕が楽しげに押す。

「うわっ、て、てめぇ!」

バスっと音を立てて体制を崩し、ベットに沈んだゾロにサンジがニンマリとした笑みを浮かべる。
その笑みに初めて自分達の距離があまりにも近くなっていたことにゾロはサッと顔色を変えた。

「ちょっと、待て、ま・・・っ!」

咄嗟に制止の声を上げかけた唇をサンジの唇があっさりと塞いでいく。
圧し掛かるようにして強引に口付けをはじめたサンジに、ゾロは唸るような声を上げ続ける。

「プハッ。」

強引に割り込まれた舌に散々遊ばれて、解放されると同時にゾロは大きく息を吐き出した。
胸を喘がせて深呼吸を繰り返す、そんなゾロの目と自らの視線を合わせながらサンジがフッと笑みを浮かべる。

「ほら、金色だ。」

クククと楽しげに笑うサンジをゾロは訝しげに見つめる。

「興奮するとさ、アンタの翠に金色が混じるんだよ。」

知らなかったのかと、どこか得意げに笑ったサンジがうっとりとした表情でゾロの瞳を覗き込んでくる。

「ああ、やっぱりすっげぇ綺麗だ。」

そういって笑うサンジの瞳は蒼に銀が混ざり始めている。
そうか、コイツは銀色が混ざるんだなと感想を抱いた所でゾロは静かに降りてきたサンジの口付けを受け入れる。
濡れた水音を響かせ、優しく髪を撫でていくサンジの手のひらにゾロはゆっくりと身体を弛緩させていく。

「んぅっ・・・。」

ピチャリと艶めいた音を立てて離れていった唇が楽しげな笑みを浮かべる。

「俺がアンタを落としたら、アンタは自分の意思で俺のところに来てくれるんだな?」

囁くようなその声にゾロは目を丸くして自分の上に圧し掛かるサンジを見つめる。

「落とせたらな。」

呆れたように呟いたゾロにサンジがニンマリと品のない笑みを浮かべる。

「分かった。アンタ押し弱そうだし、まずは身体から落としてやるよ。」

ニンマリと笑って宣言したサンジにゾロは微かに笑うと、投げ出していた腕をサンジに向けて伸ばした。
そして腕に触れた金の頭を強引に掴み、その唇に噛み付くようなキスをする。
サンジのような技巧のあるキスではないが、十分に官能を呼び起こすキスをたっぷりと施し、解放すると、ゾロは間近で視線を合わせたままニッと唇の端を引き上げてみせた。

「俺がテメェを落としたら、テメェは俺のもんだな?サンジ。」

不敵な笑みを見せたゾロにサンジの目が丸くなって、そして楽しげに破顔した。

「それもいいかもな。ゾロに貰われていくってのもよくねぇ?」
「いや、俺は別にいらねぇぞ。」
「俺はお得な男だぞ、貰って損はないぞ?」
「いや、いらねぇって。」

クスクスと小さな笑い声をたてながらサンジの手はゾロのシャツを捲り上げ、ゾロの手はサンジのワイシャツのボタンへと伸ばされる。
やがてあらわれた裸の胸をピタリと重ねあい、視線を合わせ、どちらともなく唇を重ねていく。

「好きだ、ゾロ。」

真剣な蒼い瞳が銀の燐粉を煌めかせつつ近付いてくるのを見つめながら、ゾロは自分の瞳も同じように金色を帯びているのだろうかと、唇に笑みを浮かべながらそっと目蓋を引き降ろしたのだった。







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サイト開設記念SS第三弾 『翠金と蒼銀』です。
アンケート結果1位 『パラレル設定』

私的テーマは『ちょっとエロ系』
うーん、ちゅうは多めに入れてみましたw(当社比
設定は・・・なんというか、裏社会、明るめで・・・って感じになってます。
パラレルは設定説明だけで内容が増えるので、これでも最小限って感じで削ったんですよ(^^;>説明
読みにくかったらごめんなさい(汗
サイト開設記念SSはこれで終了となります♪
全部で3話。
どれか一つでも楽しんで頂ければ幸いです♪


『翠金と蒼銀』は、2006年8月末までDLFです。
サイトに転載される方は『AFTER IMAGES 千紗』と筆者名を入れていただければ特に報告の必要はありません。
どうぞ、気に入ったら持って帰ってやってくださいね♪

DLFに不向きな長さですみません〜

(2006/08/08)