◇◇ 横顔 ◇◇






コンコンと何処かで小さな音がする。
何の音だと思いながら、机の上の視線を音のするほうへと向ければ去年知り合ったアイツが微かに笑って手を上げていた。
ゆっくりと近寄ってカラリと音を立てて開けた窓の外、緑の髪が柔らかく風に靡く。

「よお、久しぶり・・・・。」

窓越しの笑顔に俺は目を細め、1年ぶりの再会に同じように微かに笑みを向けたのだった。











アイツとの出会いは約一年前、今日のように暑い夏の日のことだった。










今日も一日良く働いたよなぁと思いながら俺は自分が勤める中学の廊下をのんびりと歩いていく。

「せぇーんせ、また明日ねー。」
「おう!気をつけて帰れよ!」

通りすがりに笑いながら手を振る教え子に笑顔で手を振り返しながら、その速度を早めることもなく目的地へと向かって足をすすめる。
いっそ遅刻してやれと思っているそれに急ぐ気もない。

『・・・至急第2会議室に。』

だが、そんな俺の感情とは無関係に放送で呼び出しを喰らい、ますますウンザリとした気分で歩く速度も落ちていく。
だいたい気分も進まなければ、やりたくもない仕事になるであろうそれに何故急がなければいけないのか。

「バイバーイ、せんせー。」
「おう!またな。」

スカートを翻して駆けていった後ろ姿に笑って声をかけると、ヤレヤレと溜息をついて俺は渡り廊下へと足を向けた。
廊下を渡り、一番奥の階段を上がって、第二会議室とプレートの下がった扉へと手をかける。
グッと力任せに開かれた扉は勢いあまってバシンと思ったよりも大きな音をその室内に響かせた。

「・・・サンジ先生。」
「遅れてすみません。」

どこか咎めるような声に形だけ頭を下げて俺はポツンと空いていた席へと腰を降ろす。
隣に座った奴はチラリとも顔を上げず机に広げられている冊子を読んでいるようだった。
その見たことのないような緑の頭に俺は少しだけ驚きながら用意されていた冊子を手に取る。
そしてチラリともこちらを見ない相手の髪の色と、自分の金色の頭を比べて目立つのはどっちだと聞かれればコイツの緑の髪のほうじゃないんだろうかと取りとめもないことを思い浮かべ、微かに心の中で苦笑を漏らす。
人のことは言えないがコイツも教師らしくない外見だと、そしてその横に俺を座らせたこの会議の首謀者の意図も見えてヤレヤレと心の中で肩を竦めたのだった。









最近問題になっている深夜徘徊の見回りの当番決めなど、独身で若い男という条件を持つ俺と、俺と同様の条件らしい隣に座っている緑の頭の他校教師のコイツにほぼ押し付けるという形で会議は終わった。

「ちょーっと、待て、ロロノア・ゾロとか言ったな、てめぇ。」

やはりというか俺の予想通りの内容に、もちろん異論を口にする間もなく会議は終了を告げた。
老齢者のおおい職場で俺達のような若造の意見はあってないようなものだ。
こいつはこの決定に賛成なのかと採決間際でその顔を覗き込んで俺は開いた口が塞がらなかった。
俺が隣に座った時から熱心に冊子を熟読しているなと思ったのは間違いで、何のことはないコイツはただ下を向いて眠っていただけだったのだ。
しかもぐっすりと眠っているらしく軽く肩を小突いたぐらいでは起きもしなかった。
どこかウンザリとした気分で、それでも短いながらもチームを組む事になった相手に話しかけようとしたのだが、相手はさっさと荷作りをして会議室から出て行こうとする。

「・・・・んぁ?」

慌てて強引に腕を掴んで引き止めれば、何処か気の抜けた返事が返ってくる。
腕を掴んだ俺と、掴まれたコイツをチラリと室内に残っている先生達の視線が追って来て、俺は舌打ちしてその腕を掴んだまま歩き始める。
幸いにしてここは俺の勤める学校だ。
校舎内を見知らぬ相手と歩いていても見咎められる事もない。

「ふあぁぁあ・・。」

嫌がるでもなく大人しく歩いていたのは眠かったせいかと俺は呆れたように肩を竦めた。
グイグイと引っ張りながら歩いて、目に付いた音楽準備室へと相手と共に入っていく。

「てめぇ・・・いい加減にしろよ。」

掴んでいた腕を離すと俺は大欠伸をしている相手を苛立つままに睨み付けた。
ちょっとした奴ならこの睨みだけでも十分だと言われる俺の睨みも、我関せずといったふうにコイツの態度は変わらない。
それどころか目尻に溜まった涙を指先で拭ったアイツは、怒りの形相の俺を見つめてほんの少し驚いたような顔になった。

「あ・・・グル眉・・・。」

どこかしみじみと確認するような声に俺の額の血管がプチッと音を立ててる。

「あ?なんだとクソマリモ。」

俺の言葉にアイツの額にも血管がぷっくりと浮き出てくる。

「ああ?なんか文句あんのかよグルグル眉。」
「なんだと藻!」
「ムッ・・・グル眉!渦巻き!!」
「うず・・・・なんだと、ヤル気か芝生!」
「しば・・・喧嘩売ってんなら買ってやるぞ。後悔すんなよグル眉。」

眠そうだった瞳がギラギラとした意志の強い光を湛えて俺を睨み付けて来る。
それに同じくらい鋭い視線を返して俺はくいっと顎をしゃくった。

「そっちこそ後悔するんじゃねえぞ・・。」

そう言って先に立って歩き出した俺は、それから約5分後、別の意味で後悔する事となったのだった。









目の前で美味そうにビールを飲んでいるゾロに出会ったときの話をすれば、少し眉をあげて微かに顔が赤くなる。

「・・・仕方ねぇだろう・・・初めて行ったところだったんだし。」

むくれた顔でビールをあおったゾロに枝豆の乗った皿を差し出して俺も冷えたビールを流し込む。

『喧嘩売ってんなら買ってやるぞ。後悔すんなよグル眉。』
『そっちこそ後悔するんじゃねえぞ・・。』

互いに鼻息も荒くその場を後にした。
もちろん俺はゾロが後ろを歩いているものだと思って振り返りもしなかったのだが、俺が角を曲がって階段を登ったのに気付かずゾロはそのまままっすぐ歩いて・・・・そして校舎内で迷子になっていた。
ここなら目立たないだろと屋上の扉を開いて振り返った俺が呆然としたのは仕方ないと思う。
一瞬逃げたのか?と思ったのだが、屋上から見下ろしたグランドにも門へと向かう道にも特徴的な緑の頭は見当たらない。
しばらく待っても現れないゾロを煙草一本分だけその場で待って、俺はクルリと校舎内へと引き返した。
別にゾロを捜そうと思ったわけではない、その日の鍵番、つまり当直が自分だっただけなのだ。
部室をグルリと見回り、教室の一つ一つの鍵を確かめていた俺の耳が微かな足音を拾い上げたのと廊下いっぱいにゾロの声が響き渡ったのは同時だった。

「くくっ・・・見つけたって涙溜めてクソ可愛いよなー迷子のマリモ君?」
「涙なんか溜めてねぇ・・。」

わざとからかうように口にすればやっぱりバツが悪いのかゾロの顔が赤くなっていく。
廊下いっぱいに響き渡った見つけたというゾロの声に驚いて固まった俺の元に一直線に走ってきたコイツはあからさまにホッとした顔で俺の傍で立ち止まった。
その迷子の子供が親を見つけたような、安堵した表情に毒気を抜かれてしまって結局喧嘩の事はうやむやになってしまったのだ。
その後全部の教室の鍵を何故か他校の教師であるゾロと共に済ませて、俺は当初の目的の通りゾロを誘っていきつけの居酒屋で懇親会となった。

「ほら、拗ねんなってゾロちゃん。」

ニヤニヤ笑いながらこいつのお気に入りの蛸の煮付けの小鉢を差し出してやる。

「ふざけんなグル眉。」

ムッとした顔をしながらも差し出された小鉢に素直に箸をつけるゾロに俺はそっと笑う。
夕方から二人で割り当てられた店舗と地域を重点的に回って、それが終われば揃って夕食を取る。
場所は俺の行きつけの居酒屋だったり、ゾロが良く行くという飯屋だったりするのだが、そういったパターンがかれこれ10日も続けば互いの人となりというものも分かってくる。
その緑の髪は面白ことに地毛で、そして瞳も澄んだエメラルドグリーンをしていて、方向音痴で迷子、酒が好きで、案外笑い上戸だ。

「あーあ、やっと明日でこの面倒な役目も終わりだな。」

適度なアルコールをとり、日が暮れた事で過ごしやすくなった気温に笑いながら、俺は居酒屋を後にゾロと連れ立って駅を目指す。
俺はこの駅から一駅、そしてゾロは三駅ほど先の街に住んでいる。
互いの勤める学校は互いの住む場所から離れていて、たぶんこの見回りが終われば、まるで接点がない俺達はもう顔を合わせることもないだろう。
滑り込んできた車両に乗り込んで隣り合って腰を降ろすとほんの少し肩に重みが加わる。

「おい、寝るなよ、ゾロ。」

呆れたように声をかければ、言葉ならない呟きが返ってくる。
チラリとその横顔を見つめれば意外と長い睫がその顔に影を落とす。
ガタンっと音をたてて車両が動き始め、俺は微かにその重みに目を細めた。
たった一駅、こうしてゾロの重みを肩に受けるようになったのはつい最近の出来事だ。

「おい、起きろって、俺はすぐに降りちまうんだからな?」

はじめは通路を挟んで向かい合って座っていた。
それが同じシートに座るようになって、いつの間にか隣に並んで腰を降ろすようになった。

「おい、ゾロ。」

肩にかかる重みに向かってせいぜい顰め面をして声をかける。
向かいに座っている会社帰りの女性の視線に、仕方ないヤツなんですというふうに困った顔をしてみせる。
女性の視線が俺達から離れたのを確認して俺は肩越しに見えるゾロの整った容貌を静かに見つめる。
頬に触れている緑の髪は柔らかくどこかくすぐったい。
安心しきった吐息を漏らす唇は笑みに綻んでいて見ているだけで心の中が温かくなっていく。
なんだろう、俺の中でいつの間にかゾロが傍にいることが当たり前で、ずっとこのままなんだろうなと思っていた。
ガタンと音を立てて駅に着いたのを淋しく感じながら乱暴に揺すり起こして駅に降り立つ。
振り返ればまだ眠そうだが、きちんとゾロの目が俺を見送っていて、俺はそれに微かに手を上げてホームから出て行く電車を見送った。











最終日、別にこれが今生の別れというわけでもないのだが、なんとなく別れ辛くて俺は最後の酒盛りと称して自宅へとゾロを招き入れた。

「へえー綺麗にしてんだなぁ。」

玄関を入るなり感心したようなゾロの呟きにゾロの自宅の惨状を推して知るべしだ。
俺は苦笑しながらクーラーを入れ、その足でキッチンへと向かった。
所在無げに俺のあとを追ってきたゾロに冷蔵庫から冷えたビールを2缶渡すと適当にテレビでも見ていろと言って冷蔵庫からいくつかの食材を取り出す。
教師という仕事についてから滅多に包丁を握る事はなくなったのだが、俺の実家は地元でも有名なレストランで、幼い時はそこのコックになるのだと思っていた。
幼い時から遊びの延長のようにして覚えた包丁使いは大人になってから役に立っている。

「ほら、簡単なもんで悪りぃけどな。」

手早く作った肴をローテーブルの上に並べて、追加のビールをバケツに入れて持ってくる。
バケツの中には帰る前に寄ったスーパーで貰った氷がたっぷりと入れてある。
何度も冷蔵庫まで往復しなくてもこうしておけば冷たいまま飲むことができるのだ。

「美味そうだな、料理できんだな。」
「ああ、一通りならな。」

感心したようなゾロの言葉にちょっと照れくさい思いを味わいながら答えて、向かい合うようにして腰を降ろす。

「それじゃ、お疲れさま。」
「おう、お疲れさん。」

ベンっと鈍い音を立て乾杯をし、缶に軽く口をつけたゾロが嬉々として皿に箸を伸ばしてくる。

「すっげぇ・・・これ、美味い・・・。」

刺身の鯛をしそと市販のドレッシングにひと手間加え、和えただけの簡単な代物だがゾロの好みにあったらしく目を丸くして嬉しそうに感想を述べてくる。
外で食べる事に比べれば格段に品数は少ないが、その辺は勘弁してもらおうと小さく笑う。
ご飯物もいるかと、炊き上がったばかりの飯に軽くボイルしたイカを乗せ、オクラ、なめこ、辛子明太子を混ぜたものをその上にかけ、ゾロの目の前においてやる。

「うめえ・・・店開けるぜ。」

ガツガツと見惚れるぐらいの食いっぷりでどんぶり飯をかきこみゾロが笑う。

「教師やめたら、店でも開くか。」
「おう、そうしたら毎日でも食いに行ってやる。」

ゾロに断って煙草を口にくわえた俺に悪戯っぽいゾロ顔が向けられる。
それに眉を軽くあげてみせて、俺はおかわりと言って差し出されたどんぶりに笑いながら新しいご飯をよそってやったのだった。






その日、そのままゾロは俺の部屋に泊まっていく事になった。
風呂に入るゾロに予備の下着を渡し、パジャマ代わりにTシャツを手渡す。
狭いベットが嫌いで俺のベットはセミダブルなんだが、さすがに男二人は暑苦しいぞと笑ったゾロは床で眠っている。

「寝相悪すぎるぞ・・。」

さすがに直だと身体が痛いだろうとコタツ敷きを折り、タオルシーツを掛けて簡易の敷布団を作ったのだが、俺が風呂に入ってる間にそこから床に移動して寝ているゾロに苦笑を浮かべる。
一瞬叩き起こして移動させるべきかと思ったが、その気持ち良さそうな寝顔にそれも可哀想かと思いとどまる。
まあ床で寝たからといって風邪を引くようなシーズンでもなし、仕方ないなと布団の上に取り残されていたタオルケットを手にゾロの傍らにそっと膝を折る。

「ゾロ・・。」

小さく名前を呼んで柔らかな髪にそっと手を伸ばす。
いつもはフワフワとした感触を頬や肩越しに感じるだけだったのが、手のひらいっぱいにその感触を楽しむ。
指の間をするりと抜けていく柔らかな毛触りも堪らなく気持ちいい。
スウスウと安心しきった顔で眠っているゾロに俺はなんとなく悪戯半分でキスしてみたくなった。
ゾロの呼吸が安定しているのを確かめて軽くその髪に唇を落とす。
二度、三度とまるで動物の体毛に顔を埋めるようにしてその頭に唇を寄せる。

「・・んっ・・。」

無意識に抱き込むようにしていた事に息苦しさを覚えたのか、ゾロが俺の腕から逃れ小さく唸ってゴロリと床を転がった。
転がりついでに肌蹴たシャツの隙間からむき出しになった腹を指先で掻き、そのまま何事もなかったかのように気持ちよさ気な寝息を立てる。

「プッ・・やっぱ、ガキくせぇ。」

手を伸ばしてちょいちょいっと鼻先を突くとむずがって顔を顰める。
ひとしきりゾロを構い倒して満足した俺はゆっくりと腹の上にタオルケットをかけてやる。

「おやすみ、ゾロ。」

そしてもう一度だけその髪におやすみのキスを落としてベットへと潜り込んだのだった。











ああ・・と、それを目にした時、俺は諦めと絶望といいようのない苛立ちの中にいた。

「はじめまして、ゾロの・・・友人でニコ・ロビンよ。」

にっこりと目の前で笑みを浮かべている黒髪の美女と、その横でマズイといった表情を浮かべたゾロに俺は笑顔を向ける。

「はじめまして、サンジです。」
「ふふっ・・・貴方がサンジくん。」

意味ありげに笑う美女にゾロがますます焦ったような顔で俺と彼女の間に割って入る。

「もう、いくぞ。」
「そうね。そうしましょうか。」

クスクスと笑ったロビンの腕がスルリとゾロの腕に絡まって当たり前のようにその身体が寄り添う。
傍から見ても美男美女のカップルと俺に注がれる周囲の視線は好奇心に満ちている。
そんな美女を伴っているゾロを見ても、何故だろう、羨ましいという感情は俺の中に一つも浮いてこなかった。

「悪りぃな、また連絡する。」
「いいって気にすんな。」

慌てたようにそういって彼女を連れたまま立ち去ったゾロに俺は唇を歪める。
連絡も何も俺はゾロの連絡先も知らなければ、ゾロも俺の連絡先を知らないはずだ。
二週間にも満たない付き合いで、それでも互いに気を許していたと思っていたはずの俺はこの時になって連絡方法の一つ、互いの電話番号さえ知らない事に気付いた。
お互いがお互いに連絡を取ろうと思えば学校に電話をするしかない。
だが、そこまでして連絡をつける用などありもしない。
それなのに俺はずっとゾロとこれからも付き合っていけるものだと何処かで思っていた。

「俺は・・・・馬鹿だ・・・。」

綺麗な白い腕がゾロの日に焼けた腕に絡まる様は扇情的だった。
ここが繁華街、しかも男女のそれを匂わす場所でなければこうまで心が乱れる事はなかったのかもしれない。


ゾロの腕に絡まる白く華奢なその腕を力任せに引き剥がしたかった。

当たり前のようにゾロに寄り添った身体を引き離したかった。

そして俺は・・・・。





この腕にゾロを抱き締めたかった。





気に入っていると、ゾロの事をただ気の合う友達だと思っていた。
だが、それが男女の恋愛のそれだと、いや、それよりもっと深く暗い感情なのだと気付いた時には、俺とゾロの間にはすでに大きな隔たりが出来ていた。


美しいロビンと名乗った女性。
腕を絡め二人が消えていった先は男と女がその欲望を満たすところ。
気付くより先に失恋が決定してしまったと俺は心の中で自嘲する。
涙さえ出てこない自分のプライドの高さに俺は煙草を咥え小さく唇を歪めたのだった。














「よお、久しぶり。」

窓越しに笑うゾロに近付いて俺も笑みを返す。
夜の街で別れてから約1年ぶりに顔を会わせたのだが、その屈託のない笑みに俺の中でキシリと小さな軋みが聞こえる。

「連絡何度か入れたんだけど。」
「あ、わりぃな、タイミング悪くてさ。」

窓枠に降ろされたゾロの指に光るシルバーのリング。
去年にはなかったそれに小さな軋みが徐々に大きくなっていく。

「そうか、仕方ねぇな。」

苦笑を浮かべて、それでも納得したのかゾロはそれ以上の追求をしてはこなかった。
何かを言いたそうにしているゾロに俺は先ほどまで目を通していた冊子の存在を思い出した。
去年ゾロと二人で組んで夜の見回りをしたのだ。
今日ここにゾロが居るということは今年もゾロは見回りとして借り出されたのだろう。

「今年は。」
「俺は今年は参加しねぇんだ。」

ゾロの問い掛けを遮るような形で告げると、少し驚いたような顔で俺を見つめてくる。
たぶん、ゾロは今年も俺と二人で見回りをやることになると思っていたのだろう。

「学校の方で別の事に参加させられててさ、さすがにどっちもってのはマズイっていうことで今年はお役ご免なんだよ。」

笑いながら説明すればそれは大変だなと言ってゾロはあっさり納得してみせる。

「そうか・・・。」
「ああ、そういうわけなんで、頑張れよ。」
「ああ・・・・、サ・・。」

俺の顔を見て何かを言いかけたゾロの言葉を遮るようにスピーカーから呼び出しの放送がかかる。

『・・・・至急第二会議室へ。』

去年の俺と同じだなと笑いながら、ゾロに早く行くように促す。
分かりやすいように道を教えて歩き出したゾロに軽く手を振って送り出す。
少しずつ遠ざかっていく背中にギシリと窓枠が音を立てた。
消えていく、離れていく背中。
まっすぐ振り返ることもなく歩いていくゾロ。
俺は喘ぐように大きく息を吸い込むと、ギュッと腕に力を入れてその背中に呼びかける。

「ゾロ!!」

立ち止まり振り返った横顔に俺は必死で笑みを浮かべて続けた。

「その指輪の人と幸せにな・・・。」

どこか力を入れすぎて、妙な調子になった俺の声にゾロが微かに目を見張って、そしてその目が閉じていく。
微かな間のあと、俺の方へとまっすぐに向けられた瞳はどこか寂しげだった。

「・・・ああ。」

応えは小さく、立ち止まっていたゾロはそう答えるとゆっくりと俺に背を向けて歩き始める。
一瞬だけ、その横顔が泣きそうだと思った。

「どうか、幸せに・・・・ゾロ・・・。」

小さな声で呟いて俺は深く息を吐き出して目を閉じる。






閉じた目蓋の裏にはいつだって柔らかな笑みで眠るゾロの横顔。






いつかそれも思い出になるのだろうかと、泣き笑いでゾロを見送る俺の傍らを、ふわりと柔らかな風が吹き抜けていったのだった。







END++

SStopへ
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サイト開設記念SS第一弾『横顔』です♪
アンケート結果2位 『パラレル設定:教師パラレル、S→Z片想い系』

教師ってのはあんまり関係ないんじゃない?って感じになってしまいました(汗
とりあえず片想いってことで切ない感じを目指してみたんですが・・・どうでしょう?(^^;
こう、ギュっと胸が痛くなったら成功です(何が
すこしでも楽しんで頂ければ幸いです♪


このお話は2006/8末までDLFですw
サイトへの転載の際は『AFTER IMAGES 千紗』と筆者名を入れていただければ報告は必要ありません。

こんな暗いお話貰ってくれる人がいるんだろうか?とおもいますが一応DLFって事で(汗笑


(2006/07/18)