◆ 耳元で愛を囁こう ◆
ここ数日、この船のコックの機嫌は最高潮で、そして、それに対になるように剣士の機嫌が地の底へと向かっていたのは誰の目にも明らかだった。
フンフンと鼻歌混じりに洗濯物を干しているコックの後ろ姿をみかん畑の中から眺めて、ナミはチラリと視線を落とす。
木に寄りかかるようにして目を閉じている剣士のご機嫌はやはり麗しいとは言えそうにない。
「ゾロ、いい加減、低気圧撒き散らすのやめてよ。」
クルクルとまわりながら甲板を移動する道化のようなコックはいいとして(本当は良くないのだが)、とりあえずゾロを何とかしてくれと気弱な長っ鼻の狙撃手に泣きつかれたのだ。
「寝た振りしてもダメ。」
目を閉じていても、自分が傍にくればそれを無視してゾロが眠ったり出来ないと分かっていてナミはこの時間を選んで近付いたのだ。
日向はすこし眩しく、寝るには適さない。
そしてそんな時は風の通りもよく、葉が影を作ってくれるみかん畑にゾロはいる。
みかん畑はナミのテリトリーだ、場所を借りている意識のあるゾロはここでは大人しい。
ナミは動こうとしないゾロの横にそっと腰を降ろした。
「ゾロ。」
手を伸ばして柔らかな髪を撫でると微かに溜息をついてその目蓋がゆっくりと開いていく。
戦闘の時は底冷えするほど冷たい色の瞳だが、普段のゾロの瞳は無垢に澄んだ綺麗なグリーンをしている。
そう、まるで新緑を思わせる暖かい色なのだ。
パチパチと瞬きを繰り返すその目を覗きこんでナミはにっこりと微笑んだ。
「なに怒ってんのよ?サンジくんとうまくいったんでしょ?」
不器用な剣士がいつの間にか女癖の悪いコックに惚れてしまったらしいと一番初めに気付いたのはナミだった。
その次に気付いたのはやはり気配りのウソップ、そして人生経験豊富なロビン。
本人がそうと自覚する前に、サンジを除いたクルー全員がゾロの想いに気付いてしまった。
そして気付いた全員が全員ともに、一瞬驚いたもののその切なすぎる眼差しに恋が実るように応援しようと暖かく見守る体制を作ってしまった。
ゾロが大好きで、絶対に反対しそうなルフィにさえそう思わせてしまったのだから、その眼差しの威力はなかなか凄いものだったともいえる。
むしろそんな眼差しを向けられていた本人がまったく気付いていなかったということがクルー達には不思議でならなかったのだ。
「・・・・・ゾロ?」
サンジの名前に寄った眉間の皺を指の腹で撫でるとまた目を閉じてしまう。
目を閉じると長い睫が影をつくり整った顔が無防備に晒される。
ナミは気を許した人間にしか見せない、そんなゾロの表情や姿を純粋に嬉しいと思う。
ゾロに受け入れられている事実はちょっぴり優越感をも感じさせてくれる。
それに、そんな寛いだゾロの顔は本当に綺麗で、優しくて、なんとなく幸せになってしまうからいつまでも見ていたいと思ってしまう。
「サンジくんに何かされたの?」
ジッと薄く形のいい、淡い色の唇を凝視してしまってナミはなんだか恥ずかしくなってしまった。
一瞬だがその唇にキスしてみたいと思ってしまったのだ。
「・・・されてねぇ。」
ポツリと呟かれた言葉にナミは首を傾げる。
ゾロからサンジに告白して一週間。
隠すことなく、翌朝報告してきた二人におめでとうと皆で言って、船長命令でささやかなパーティーも開いた。
まるで結婚でもするようなそのバカ騒ぎにゾロは眉を顰めて嫌がったが、クルー達はなんだか自分の事のように嬉しくてたまらなかったのだ。
付き合い始めたとはいえ、今までと二人の立ち位置も変わることなく、強いてあげればサンジのゾロを見つめる眼差しが優しくなったことぐらいで。
そんな二人を皆でお膳立てして、2日ほど前に二人っきりにしてあげた。
渋る船長を冒険で釣って、二人を残して島へ降り、まるまる一日をメリー号で二人きりで過ごしたはずなのだ。
手の早いサンジが何もしなかったとは思えないし、あの浮かれ具合から下世話な話、きっと二人は最後の一線を越えたんだろうと思い込んでいた。
「なんで?二人っきりにしてあげたじゃない。」
純粋に疑問に思って口にすれば、ゾロの首がプイッと子供っぽい動作で横を向く。
そしてハタハタと風に靡いている洗濯物へと目を向けられた。
「コックの奴・・・・・・・・キス一つしてこねぇ。」
ゾロの視線を追ってナミは小さく溜息を零した。
風に翻っているのは真っ白なサンジのワイシャツ。
ヒラリヒラリとその裾が翻る。
本当に恋愛経験の少ない不器用な男だとナミはその横顔を見つめる。
「キスしたいならゾロからすればいいじゃない。」
クスリと笑って明るくそう言ってやる。
女の子ならここで困るかもしれないが、ゾロだって男なのだ。
別にサンジにだけ任せなくても自分から行動を起こしても問題はなさそうな気がする。
それに・・・・と、ナミは静かなゾロの横顔を眺めて小さく溜息をついた。
もともと女と軽い恋愛を重ねたサンジは、本気の恋愛経験など、案外ないんじゃないだろうとかとナミは思っている。
浅く広く当たり障りなく、恋愛を楽しむだけならサンジのような男は理想的なのだ。
見た目もよく楽しいし女の子を大切にしてくれる。
きっと、サンジの周りにはそんな女性も多かっただろうと思う。
そんなサンジがゾロの告白を受け入れたのだ。
サンジにとってゾロがきっと初めての本気の恋なのだろう。
問題は恋愛感情が入る前にサンジの方が長い間ゾロを神聖視していた事よね・・とナミは心の中で小さく呟いた。
サンジの中でゾロに性的な欲望を向けるという所は、もしかしていまだに冒涜になるのかしらとナミは首を傾げる。
考え込んでいるナミに視線を寄越しゾロは口を開く。
「テメェにはキスしてるじゃねぇか。」
聞こえてきた小さな不貞腐れたような声にナミはちょっと目を瞠る。
「やだ、あれはただの挨拶じゃない。キスなんかじゃないわよ。」
ゾロに見られていたとは思わなかったが、たまに淋しくなって人恋しくなる夜がナミだってあるのだ。
そんな気分に気付くのはやはりサンジだったし、眠れない夜に優しい家族のようなキスをくれるのもサンジだった。
「アンタがそんなこと気にしてるなんて思わなかったわ。」
もちろん唇を許したことはないし、額に唇が触れたかどうか分からないようなそんなおやすみのキス。
「なら、今度からはゾロにしてもらうわ。」
クスクスと笑って言えばむっつり黙りながらも頷く。
本当に恋は意外な事ばかり起こるものなんだとナミはクスクスと笑い続けた。
「アンタ・・・こんなに可愛いやつだったのね。」
「可愛いっていうな。」
むくれた顔で呟くゾロにやっぱり可愛いわと言ってナミは笑う。
「クソコックの奴・・・・後悔してんじゃねぇのか。」
「なんでそう思うの?」
ナミの問い掛けにゾロは微かに目を伏せた。
その表情にサンジに告白する前の切ない眼差しが宿る。
「俺は男だし、コックの為だけには生きてけねぇ。」
静かな声でゾロは続ける。
「目指すものがある。大切な人との約束だ、それを忘れることも捨てることも出来ねぇ。」
「サンジくんなら捨てろとは言わないでしょう?サンジくんだって同じだわ。」
ナミはこの船に乗ってきた時のサンジと育ての親の姿を思い出す。
サンジもゾロとは違った意味で大切な人との約束を背負ってここに居るのだ。
「違うんだ・・。」
そう言って自嘲の色を浮かべた瞳を空へと向ける。
「違うんだナミ。コックがじゃねぇ、俺が思ってしまうんだ。」
「・・・・・・・。」
「アイツの為だけに生きてやりたいって。」
ゾロの言葉とその透明だけれど切なすぎる眼差しにナミは胸が締め付けられるような気分を味わう。
「俺は死に向かって歩いてる人間だ。女だったら強引でもアイツに子供を残してやれる。だが、俺は男で女じゃない。なら・・・その瞬間まで、アイツの為だけに生きてやりてぇと思う自分がいる。」
「ゾロ・・・・。」
「いや、そんなもの忘れて、アイツだけの為に生きていけたらと何処かで思う甘えた自分がいるんだ。そんな俺に気付いてアイツは後悔してんじゃねぇかと思う。」
ゾロが自分の為に夢を捨てることをしたならば、サンジはきっとその気持ちを受け入れたことを後悔するだろうとナミも思う。
だが、本当に捨ててしまえばの話で、ゾロは夢を捨てても諦めたりもしていない。
「ゾロ、それは考えすぎだと思うわ。」
ナミはほんのかすかな確信を持って断言する。
とりあえず、この男の不器用さに敬意をはらって複雑なサンジの思考を教えてあげようと口を開く。
「あのね・・・サンジくんはアンタを神聖視してんのよ。」
「は?・・・神聖視?なんだそりゃ。」
「だから、アンタを神様みたいに思ってて、神聖なものってサンジくんは位置付けちゃってんのよ。」
ナミの言葉に目を丸くしたゾロが苦笑する。
「神様ってのは言い過ぎかもしれないけど、サンジくんはアンタにそういう欲求がないって思ってんの。」
「何言ってんだ、俺だって男だぜ?」
サンジの気持ちも多少は分からないでもない。
ナミだってゾロとそういう欲望はどうしても結びつかない。
血塗れの似合うこの男は、逆にそういう人間臭い欲望とは無縁に思えるからある意味不思議だ。
「二人っきりになってもそういうアクションを起こしてこなかったって事は、あながち外れじゃないと思うわよ?」
ナミの言葉に考え込んでしまったゾロを見ながら仕方ないと溜息をつく。
サンジの今までの接し方をみれば多少は気付いていても良さそうなものなのに、やはりゾロにはそういった感情は理解できないらしい。
「それでコックはキスしてこねぇのか?」
おずおずとナミに尋ねてくるゾロににっこりと笑ってやる。
「そう、多分ね。」
ついでとばかりに不器用なゾロに打開策を教えてあげようと口を開く。
それが上手くいけばゾロの低気圧も解消されて一応は狙撃手の希望を叶えた事になる。
「アンタからアクション起こさなきゃ、きっとこのままよ?」
「・・・・・。」
「いい、ゾロ?・・・今度ね・・・。」
ナミはゾロの耳元に手を当てるとコソコソとその作戦を伝える。
パッと真っ赤になったゾロにやだなー、こいつ本当に可愛いわーと思いつつナミはニンマリと笑う。
「・・そ、そんなことしないとダメなのか?」
顔は真っ赤で消え入りそうな小さな声にしっかりと頷いてやる。
「何よ、簡単でしょ?」
「・・・・・・分かった。」
「頑張んなさいよ。」
そしてお礼を頂戴と言ってナミはゾロからのキスを頬に一つ貰ったのだった。
夕食が済み、クルーが一人、また一人とキッチンから消えて行く。
そうしてその場に残るのはこの場の主であるコックのサンジと、その恋人のゾロの二人だけだった。
やはり鼻歌交じりの上機嫌でサンジは使われた食器を片付けている。
ゾロはその背を眺めながら、グラスに残っているワインを舐めるようにして飲んでいた。
新しい酒が欲しいと告げれば、その手を止めて準備してくれるだろうと分かっていながらもその一言が言葉にならない。
それに早く片付けてもらわないとゾロとしても困るのだ。
カチャカチャとリズミカルにも聞こえる皿の音を聞きながらゾロは昼間ナミに教えてもらったことを実行しようとひたすらそのチャンスをうかがっていた。
「ゾーロ。」
皿の汚れを水で流しているサンジに名前を呼ばれてビクリと肩を震わす。
「・・な、何だ?」
不自然に震えた声にサンジが笑ったのを感じた。
「そんなに見つめられると俺の背中に穴開いちまう。」
「え?!」
ガタンと音を立てて立ち上がったゾロにサンジは今度は遠慮なく声を出して笑う。
思わずその言葉を額面どおりにとってしまってゾロは恥ずかしさと怒りから顔を真っ赤にしてしまう。
片付けの手を止めることなくチラリと振り返ったサンジがにっこりと笑った。
「可愛い、ゾロ。」
「な、な、な・・。」
パクパクと口を開閉させているゾロにニコニコと笑うとサンジはまた片付けに戻ってしまう。
その背を睨み付けてゾロは不意にそれに気付いた。
ナミに言われたのとは少し違うが良く見れば今のサンジの格好は理想的とも思える。
ゾロはそっと近付いて楽しげに片付けをしているサンジの背後で足を止めた。
そしてナミに言われたようにピッタリと身体を密着させて抱きつく。
正面からじゃないから腕を背に回すわけにもいかず、何処に持っていけばいいのか悩んでとりあえずサンジの腰に腕を回す。
「うわっと、ゾロ?!!」
ガシャンと音がしてサンジが皿を滑らせたのに少しだけ先程の意趣返しが出来たようでゾロは気分が良かった。
ほんの少し振り返って驚いたようなサンジの蒼い瞳にも満足する。
「ゾロ?」
ナミには正面から抱き着いてサンジにキスをして誘惑しろ・・と教わったのだが、取り合えずこれでもいいかと行動に移す。
「好き・・だ。」
ゾロは耳元で囁くと驚きに薄く開かれたままのその唇にキスしようと唇を寄せる。
「・・・・・サンジ。」
あと少しで触れ合うというところで目を閉じて、そして次に唇に触れた感触にゾロは目を開く。
いつの間にと思うぐらいの早業でサンジの唇のあった場所には赤々と熟れたトマトが差し出されていた。
「クソコック・・。」
腹立ち紛れにそれをガブリと食い千切ってジロリとその顔を睨みつける。
「あー、ゴメン。」
ヘラリと笑ったサンジにゾロはピキリと青筋を浮かべる。
「テメェ・・。」
「だから、ゴメンってば。あんまり唐突だったからさ。」
ヘラヘラと笑うその顔は悪気があるようにはみえない。
だが、悪気があろうとなかろうとそれは別の話なのだ。
それなりに勇気を出して、ナミの言うとおりにもう一度告白までして、行動を起こした結果がトマトとキスとは真面目に取り組んだゾロとしては笑えない。
「やっぱりテメェ後悔してんだろ。」
ギュッと腕に力をこめて温かい背中に頬を押しつける。
「後悔って何を?」
ポンポンとあやすように腕を叩かれてゾロはほんの少しだけサンジを拘束する力を緩めた。
「俺が好きだっていったのは、キスもしたいし触りたいってそういう意味だ。」
サンジの背にゴリゴリと額を擦り付けてゾロはそっと溜息をつく。
「テメェの好きは違うんだろう?」
「・・・・・ゾロ。」
ギュッと抱き締めて拘束を解けばサンジの身体が離れていくのを感じる。
その淋しさにこんなことなら無理矢理にでもその唇を1回ぐらい奪っておくんだったと思いながらゾロは視線を床に落として俯いた。
「俺もゾロの事は好きだよ。ただ・・・・考えたことなかった。」
離れていくと思っていた腕にそっと抱き寄せられてゾロは目を閉じる。
「俺さ、確かにあんたの事、大切で、憧れてて、俺の事が好きだって言ってくれて嬉しくてさ、正直舞い上がってた。」
「・・・・。」
「本当に大切なんだよ?」
背に回ってきたサンジの腕に身体の力を抜いて抱かれる。
「キスしたい、触りたいってゾロに言われて・・ああ、それもありなんだって初めて気付いた。」
「・・・俺は、テメェにキスしたいし、キスされてぇ。」
「うん、ゴメン。」
「謝るなクソコック・・・なんか惨めじゃねぇか。」
「うん、ゴメン。」
伏せていた顔を上げれば楽しそうに笑っているサンジがいる。
こうなる前は滅多にみせてくれなかったが、その優しい笑みがゾロは大好きだったなと思った。
「キスしてぇよ、サンジ。・・・・駄目か?」
まっすぐな翡翠の瞳に見つめられてサンジは微かに笑うとそっと唇を寄せる。
初めて触れあったサンジの唇にゾロはウットリと目を閉じる。
目を閉じて触れるだけの口付けを受けているゾロの唇をサンジの舌がなぞっていく。
ビクリと背を震わせて目を開けたゾロにサンジはにっこりと笑った。
「ゾロ。キスしよう。」
近付いてくるサンジに優しく笑いかけられてゾロは小さく頷く。
「今までの分まで、いっぱい、いっぱいキスをしような。」
「サン・・・・ぅん??」
答えようと開いた唇の隙間から柔らかなサンジの舌が入ってくる。
「んっ・・・。」
咄嗟に逃げかけた身体もしっかりと拘束され、深く、貪るように何度もサンジに口付けられる。
容赦のないそのキスに初心者に近いゾロがついていける訳もなく、ろくに出来ない呼吸と、はじめての官能に息も絶え絶えに目の前の身体に取り縋る。
「ゾロ、大好き。」
甘い声で耳元に囁かれゾロは真っ赤になって大人しくキスを受け入れる。
「あっ・・・は・・・ぅ。」
キスをしながらサンジの手がシャツの中に入ってくる。
確かにサンジとキスしたいと思ったし、触ってみたいと思ったが。
だがこれはあまりにも突然すぎるし、走りすぎだとゾロは力の抜けきった身体をサンジに抱えられながらぐったりと目を閉じたのだった。
クルクルと踊るように甲板を行き来しているコックの姿を眺めてナミはみかん畑へと足を向けた。
朝食の時は姿を現さなかったが昨日以上に上機嫌なコックの様子にゾロとうまくいったんだろうと思う。
「・・・ゾロ。」
予想どうりにみかんの木の根元にゾロを見つけて名前を呼ぶ。
薄く目を開いた顔は疲れきっていて、起こしてしまったのが可哀想だったかなとナミはちょっとだけ思った。
どうやら効果がありすぎて、昨夜は散々いたされてしまったのだろうと苦笑する。
「んん、ナミさーん。お食事の用意が出来ましたよー。」
クルクルといつも以上に軽やかなステップで近寄ってくるサンジにナミは微かに苦笑した。
ゾロの疲れた顔もなかなか艶があっていいわねとナミはこっそりと笑った。
「ゾロ、お昼だって、いきましょ?」
「いい。いらねぇ。」
小さなその声に苦笑して、仕方ないとその場にゾロを残してキッチンへ向かう。
途中擦れ違ったサンジの締りのない顔にヤレヤレと肩を竦める。
「ゾーロー、今夜もフルコース楽しみにしててくれよな。」
「いやだー。」
背後からテンションの上がりきったコックの声が聞こえ、それに悲鳴のような剣士の声が被る。
おや?と振り返ればみかんの木に取り縋るゾロの姿が見えた。
青褪めて泣きそうになってるゾロにナミは首を傾げる。
「ナミ!!テメェのせいだからな!!」
助けろと言わんばかりに涙を浮かべてゾロに睨まれて、ナミは呆れたとばかりに浮かれきったコックの背中を見つめる。
どうやら腰が立たなくてゾロはその場から逃げられないらしいと理解して溜息をつく。
そんな顔をしてみせても、この浮かれきったコックを喜ばせてしまうだけだと何故ゾロは気付かないのだろうと不思議でたまらない。
「ゾーロー。」
案の定、両手を広げたサンジに抱きつかれて押し倒されてキスされている。
ジタバタと暴れていたゾロの手足が大人しくなるまで呆れて観賞してしまった。
さすが、エロコックと言われるだけの妙技だわとナミは妙なところで感心して頷く。
すでに抵抗する気力もないのかサンジの腕の中でぐったりと目を閉じているゾロは頬をほんのりと染めて可愛くて色っぽい。
「サンジくん。」
「はい、ナミさん。」
愛想よくした返事とは裏腹にサンジの腕はゾロを抱き上げて運ぼうとしている。
そわそわとしたその様子に軽く額を押さえるとナミは溜息を一つついた。
「ゾロを男部屋に運んだら、すぐにキッチンに戻ってくること。」
「・・・え?」
その言葉に閉じられていたゾロの目が開いてホッとしたような色を浮かべた。
本当に仕方のない二人だとナミはにっこりとサンジに笑いかけた。
「分かった?サンジくん。」
「・・・はい。分かりました、ナミさん。」
少しトーンの落ちた返事に宜しいといって頷いてやると、がっくりと肩を落として歩き始める。
移動の間にゾロに悪戯しないか一応見届けてナミは扉を開けたその背にダメ押しとばかりに声をかける。
「そうそう、サンジくん。日中はゾロとの接触行為は禁止ね。」
「ええー!!ナミさん。」
バッと振り返って抗議の声を上げたサンジににんまりと笑ってみせる。
「もし、破ったら・・。」
「破ったら?」
ナミはサンジの腕の中のゾロに向かって軽くウインクしてみせた。
「ゾロには当分女部屋で寝てもらうから。」
「ナミさーん。」
「この件に関して抗議はいっさい受け付けません。さあ、早くお昼にして頂戴。」
あからさまにホッとした表情のゾロににっこりと笑いかけてキッチンの扉を開く。
背後から情けない声で名前を呼ばれているがそれは取り合わない。
サンジが帰ってくるまでに中にいる他のクルー達にも先程のことを伝えておこうと足を踏み出す。
アタシ達、みんなゾロの味方だから、覚悟しておいてねサンジくん。
END++
SStop
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バカップルを書いてみようと思い立ち、書いてみたらナミさんが主役に(^^;
前回と違って今度はゾロが乙女だし、サンジはどっか抜けてるし(汗
ギャグだしサクッと読み流してやってください〜
みんなゾロが大好きってことで(笑
まあ、一応はラブラブ?(笑