君は僕のLucky Star

コツン・・・と何かが頭に当たってゾロの意識は覚醒に向かった。
欠伸を噛み殺しつつグッと背を伸ばせば振り上げた腕に何かが触れる。

「・・・・?」

疑問に思いつつグルリと視界を巡らせれば己の頭上に浮かぶ不可思議な物体。

「・・なんだぁ?」

くるくる、ぴかぴか。

小さな丸い棘のある形は何処かで見たことがあるような気がする。
白乳色の物体は光ながらほんのりと赤に黄色にうっすらと色が変わる。
それを眺めながらゾロは思い出したように呟いた。

「ああ!金平糖だ。」

形は確かにゾロの知っている金平糖に良く似ている。
ただし、大きさはピンポン玉ぐらいもあり、極めつけに空中にふよふよと浮かんでいたのだが・・。
ゾロは疑問が解決したとばかりに満足してグッと背を伸ばす。
背を伸ばしたついでに目覚めたとばかりに主張する腹の音に、そういえばそろそろ夕飯時かとキッチンへ向かって歩き始めた。

「ゾーロォー、めっしーーぃ。」

ルフィの夕飯を知らせる声が船内に響く。
こうやって声を掛けただけでゾロが起きるわけもなく、結局サンジが起こす為に甲板まで出てくるのだ。
そうしないとルフィはゾロの分まで平らげて、本人曰く来ないゾロが悪いと主張する。
しかし、こうやって声しかかけない段階でルフィのそれはしっかりとした確信犯なのだが・・。

「おう、すぐ行く。」

ルフィの声に同じように大きな声で返してやれば、遠くでルフィの『ゾロが起きてるぞー』と驚いたような声が聞こえる。
ゾロは自分でも珍しいことだと自覚があるだけに苦笑しつつキッチンへ向かう。
今日の晩飯はなんだろう・・・と、ぼんやり考えながら歩くゾロの頭上では、先程の金平糖が、ぴかぴかくるくると回っていた。











すでに戦場の様相を見始めていたキッチンへ足を踏み入れるとゾロはさっさと自分の席へと腰を下ろした。
まだルフィは自分の皿が片付いていないのか、ゾロの皿には手を伸ばしていないみたいでしっかりと料理が乗っている。
久々にみる中身の欠けてないその皿の中にいくつか好物があるのに気付いてゾロは頬を緩めた。

「いただきます。」

両手を合わせて呟くとナイフで肉を一口切り分けて口に運ぶ。
口の中に広がるたっぷりとした肉汁と、香味野菜を使ってあっさりと仕上げてあるソースが絶妙だ。
無表情なまま、内心で美味しいご飯に満足しながらゾロは徐々に食事するペースを速め、ルフィに食べられないうちにと皿を空けることに専念していったのだった。








「なー、ゾロ?」

喧騒の中、食事を終えて片付けに立ったサンジを眺めていたゾロは控えめなチョッパーの声に顔を向けた。

「あ、あのな?」

テーブルについていた右肘を退け、チョッパーの方へと向き直る。

「どうした?」

チョッパーは少し困ったようにゾロを見つめていて、ゾロは腕を伸ばしてチョッパーを膝の上に抱き上げた。
腕の中でゴソゴソと向きをかえて、ゾロと向き合うように座りなおしたチョッパーは控えめにそっと蹄の先をそれに向けた。

「さっきから気になってたんだけど・・・・それなんだ?」

チョッパーの示す先にはくるくるぴかぴか光るソレ。
ゾロの頭の周りでふよふよと浮いては光っている。

「さあ?こいつが頭に当たって目が覚めたんだが・・・。」

ジッと眺めてゾロはそれに向かって腕を伸ばした。
伸ばした分だけそれは離れていき手のひらは空を掴む。
数度攻防を繰り返し、完全に手の届かない位置に留まるとくるくるぴかぴかとソレは光った。

「・・・・・・。」

ゾロは無言でチョッパーを床に降ろすとゆっくりと立ち上がる。
無表情に間合いを計るゾロの瞳にキッチンの中に言い知れぬ緊張感が走る。

「・・・・・・。」

そしてソレに向かって再度ゾロは腕を伸ばした。
ふよふよとした動作のわりにその腕からするりと逃げ、ソレはぴかぴかと光る。

「・・・・・・・。」

とうとう無言で腕からバンダナを外したゾロを見て、チョッパーは脅えてテーブルの影へと隠れる。
先程からそのやり取りを面白がって見物していたほかの面々も被害が及ばないようにと壁際に避難する。

「なーに、馬鹿やってんだ。」

片付けを終えたのか、煙草に火をつけながら呆れたような声がかかる。
サンジはチラリとゾロとその近くに浮いている物体を眺めてちょっと肩を竦めた。

「なんだよ、これ捕まえるのかよ?」

煙草の灰をトントンとシンクに落としながら空いた左手をソレに向かって無造作に伸ばす。

「・・・え?」
「・・あ・・・。」
「あら?」

捕まえるでもなくポンと手のひらに飛び込んできたソレにサンジは首をかしげた。

「・・・・・アレ?」
「それ・・・サンジくんのだったの?」
「違いますよー。」

ナミの言葉にサンジは手を横に振ると否定してみせた。

「なんだよー。もう終わりかぁ。コンジョーねぇぞ〜ピカリン。」
「ピカリンって・・・。」
「ぴかぴか光ってたじゃねぇか。不思議星のピカリンだ♪」
「だったら、ただの不思議星でいいじゃない。変な名前付けないでよ。」

不服そうなルフィの声に呆れたようなナミの声が重なる。
サンジは己の手の中に納まった小さめな卵ほどの大きさのソレを手のひらで転がしてみる。
暖かな色合いのわりに手触りは冷たく鉱石を思わせた。

「なー、サンジ、ピカリン逃がしてやれよ。」
「俺が捕まえたいわけじゃねぇよ。」

親指と人差し指の間で挟み眺めているサンジはルフィの声に苦笑してゾロに声を掛ける。

「ほら、マリモ。手ぇ出せ?」

バンダナを持ったまま動きの止まっていたゾロに近付くとソレを持った手を差し出した。
サンジの顔と、そして差し出された左手を見比べてなかなか動こうとしない様子のゾロに苦笑を浮かべる。
ちょっと強引に左手を掴むとサンジはその手のひらに自分の手を重ねた。

「これ、捕まえたかったんだろうが?」

開いた手のひらを重ね合わせるようにすればゾロの手の中に硬質なソレが落ちてくる。
ゾロの手の中に納まったのを確認してサンジはそっと手を離した。

「ありがとう・・・。」
「いえいえ・・どういたしまして。」

仏頂面でお礼を口にしたゾロにサンジはニンマリと笑ってみせた。
ゾロはソレを握ったまま、隠れて様子を伺っていたチョッパーの元へ足を進める。

「チョッパー、これ。」

そして先程のサンジと同じようにしてチョッパーに手渡そうとした瞬間、その微かな隙間を抜けてソレは一気にゾロの頭上まで飛び上がった。
あっという間に手の届かない位置で光り始めたソレにチョッパーは小さく溜息をつく。
その様子に再度捕まえるために腕を伸ばしかけたゾロを見やってチョッパーは声を掛けた。

「ゾロ・・・もう、今夜は遅いしいいよ。」

チョッパーの言葉にゾロはそっとその頭を撫でる。

「それに、今夜はゾロが不寝番だぞ?見張りいいのか?」
「あ、ああ・・・。」

気にならないといえば嘘になるが、これ以上余計な体力を使わせるのも悪い気がしてチョッパーはそう指摘する。

「やだ・・もうこんな時間なの?」

チョッパーの言葉に慌てたようにナミがその場を去り、次いで残りのメンバーもキッチンを去っていく。
シンクにもたれて煙草をふかしていたサンジとゾロだけがいつものように取り残された。

「ま、あとで美味い夜食持っててやるよ。」
「分かった・・・待ってる。」

聞いた事のない言葉に驚いて、なんと返すべきか悩んでいるうちにゾロも扉から出て行く。

「・・・なんだよ?・・・なんか変なもんでも食ったのか?あいつ?」

首を捻りながらもサンジは明日の下準備と、差し入れを作るために冷蔵庫へと向かった。













サンジは見張り台を見上げてクスリと声を立てて笑った。
ゾロの頭に張り付いている不思議星がぴかぴかくるくると忙しなく動いているのが下からでも見える。

「目印にはもってこいだな、ピカリン。」

スルスルとマストを登って覗き込めば3本刀を腕に抱え込んで目を閉じているゾロがいた。

「おい、クソ剣士。差し入れだ有り難く受け取りやがれ。」

ちょっと怒ったような声を掛ければうっそりと面倒くさそうな動作で手を伸ばしてくる。

「サンジ様特製、酒飲み剣豪仕様つまみセットだ有り難く食え。」

皿を渡して開いた片手を端に掛けると一足飛びに見張り台の中に入る。
そして隠し持っていた瓶を取り出して見せた。

「ほら、これも差し入れだ。」

深い緑の瓶の中で揺れるのはキリリとした口当たりの清酒。

「肴も食えよ。」

無言で差し出してきた腕に渡してやりながら注意すれば小さく頷く。
黙々と箸を動かしては瓶に口をつける様子に満足げに煙草に火をつけ、手持ち無沙汰にサンジはぴかぴか光るソレを眺める。

ぴかぴか、くるくる、ふわふわ。
落ち着きなく動き回り光るソレ。

ゾロが酒を一口飲むと黄色く派手にぴかぴか。

肴を口に含むと少し勢いなくちょっと青にぴかぴか。

「・・・・?」

チラリと手元を覗き込めばゾロがあまり好まない肴が乗っていた。
煙草の煙を吐き出しつつ視線をやれば、何故かほんのり赤くぴかぴか光る。

「ゾロ。」

サンジはゾロの頭上を指差すとぴかぴか光るソレに視線を向けた。

「それ、眩しくないのか?」

月明かりだけでなく互いの表情がはっきりと分かるぐらい周囲が明るいのはそれのせいだろうとサンジは指差す。
ゾロは頭上のそれをちょっと見上げると首を横に振った。

「いや、別に、眩しくはないぜ?」

マストにサンジが現れてからはじめての会話らしきもの。
ゾロが答える間にドンドン赤みの増したソレはぴかぴか、くるくると派手に動いて光り始める。

「んー?うざったくないか?」

煙を吐き出しつつ問いかけたサンジの言葉に今度はそれが一気に青くなったと思ったらぴかぴかも急に弱まる。

「気にしてないんなら俺は面白くていいけどね。」

サンジはそういうと微かに笑う。
その言葉にぴかぴかと勢いを増して黄色に赤に光るそれに何とはなしにソレを理解した。

この不思議星はゾロの感情に反応して光っているのだ。
サンジはニンマリと心の中で笑みを浮かべるとゆっくりとゾロの横に腰を下ろした。
ぴかぴかと赤みを増してくるくる踊る不思議星と無表情なゾロを見比べる。

「それ、美味いだろう?」

つまみとして作ってきた中で一番ゾロの好みの肴を指差してみる。

「ああ・・。」

黄色く派手にぴかぴか。

「こっちのはちょっと味が濃かったか?」
「そうでもない。」

ちょっと勢いがなくなってぴかぴか。

「これとか、どうよ?」
「・・・美味かった。」

くるくるぴかぴか。

「こっちのは?」
「・・別に。」

青くなってぴーかぴか。

サンジは面白くなって片っ端から問いかけてはぴかぴか光るそれの反応を楽しんだ。
答えるゾロの声に特に抑揚もないから余計に面白くてやめられない。
分かっていれば夕食のときも観察できたのにとサンジは少しだけ残念に思った。

「ごちそうさまでした。」
「おそまつさまでした。」

もともと量のあるものでもなくあっという間に空になった皿を受け取って、サンジは満足げに立ち上がった。
予定外に面白いものが見れて上機嫌で何気なくゾロに笑いかける。

ぴかぴか、くるくる、ぴかぴか、くるくる。

え?と思う間もなく赤く光りながら不思議星は派手に踊りだす。
ゾロは別に気にした風もなく無表情にサンジを見ている。

「あー、それじゃ、皿片付けるから・・。」
「ああ・・・。」

ぴーかぴか。

「毛布持ってきてやろうか?」
「いや・・いらねぇ。」

ぴかぴかくるくる。

「そうか・・・。」

ぴーかぴか。

「あー、朝まで付き合おうか?」
「・・・・。」

ぴかぴかくるくる。

サンジはストンとゾロの正面に座り込むとジッとその顔を見つめる。
ゾロの頭上では赤くなった不思議星が派手に光って踊っている。

「もしかしてさ・・・。あんたって俺のこと好き?」

無表情だった顔に微かに朱がのぼってきてサンジは自分の予想が当たっていた事に満足げに笑う。
赤くぴかぴか光る不思議星は楽しげに踊っている。

「俺も好きだよ。あんたのこと。」

にっこりと笑いかけてやるとゾロの上でますます派手に星が赤に黄色に踊りだす。

「ちなみにこういう好き。」

サンジはそっと近付いて柔らかくゾロの唇を奪う。
言葉もなくみるみる赤くなっていくゾロと派手に踊り続ける不思議星。

「・・・・・・俺も・・・だ。」

真っ赤になって横を向いてのゾロからサンジへの返事。
サンジはちょっと笑って、もう一度そっとゾロに口付けた。

ぴかぴかくるくる踊る不思議星の下で、初めての恋人のキスを交わす。



『カッシャーン』



不意に硬質な澄んだ音と共に砕け散った不思議星。
キラキラと降り注ぐその欠片。
月の灯りを反射して二人に降り注ぐ。

「やっぱり毛布持ってくるな。朝まで一緒にいようぜ?」

ゾロの返事も待たず身軽に縁から降りかけて、サンジはひょっこりと端から顔を覗けた。

「酒も持ってきてやるよ。」

サンジはそういって笑うと今度こそ見張り台から飛び降りた。
空の皿を片手に見張り台を見上げれば、ゾロの頭上で楽しげに踊る不思議星の幻が見えた気がした。











「結局あれってなんだったのかしら?」

ナミはパラソルの下で寛ぎながらマストに寄りかかって眠っているゾロを眺めた。

「あら?わからなかったの?」

アイスティーを口にしたロビンがクスリと笑う。
ストローで氷が解けるのも構わず掻き混ぜながらナミは肩を竦めて降参の意を表す。

「あれが何であったかは分からないけど・・。」

ロビンはそう言ってゾロに視線を向けた。

「あれが剣士さん自身であったことは確かよ。」
「え?ゾロ自身って・・・。」
「ええ・・・・そう。」

ロビンは可愛らしく首を傾げると続ける。

「磁石みたいなものかしら?同じだから反発して個であろうとする、だから剣士さんにはあれは捕まえられなかったのよ。」
「なるほどね・・・。」

ロビンの例えにナミは小さく頷いた。

「あの光も剣士さんの感情に反応していたみたいだし、本人よりとっても素直で分かりやすかったわ。」

ぴかぴか光ってはくるくる回っていた不思議星。
派手に光っていたのは好物を口にしたときだった。

「・・・ちょっとまって、ロビン。」
「なあに?航海士さん。」

グラスに直に口をつけ一息に半分ほど飲み干すとナミはチラリとキッチンへと目を向けた。

「ゾロの感情ってことは・・・あの時、サンジくんの手の中にあっさり飛び込んだのは・・・。」
「惹かれてるってことでしょう。」

あっさりと自分の考えが肯定されて驚くよりも呆れ返る。

「もしかしてあたし達・・・・目の前で惚気られてたの?」

ナミの言葉にロビンはちょっと困ったように笑う。

「磁石のS極がN極に引かれるのは当然だと思うわ。」

ロビンの言葉にナミはストローで氷を掻き混ぜる。

「無くなった・・ってことは、想いが叶ったってことかしら?」

ナミの言葉にロビンは曖昧な笑みを浮かべる。

「あ、このことはゾロは気付いてないわよね?」
「ええ・・剣士さんは。」

優雅な動作でお茶を楽しんでいるロビンを眺めてナミはそっと溜息をついた。

「剣士さんは・・・ってことはサンジくんは気付いたのね。」

否定も肯定もせずロビンは微笑んだ。

「そうか、それであの浮かれっぷりなのね・・。」

ちょっと呆れたように呟いた視線の先には、いつの間にか現れた料理人の姿と嫌そうな表情の剣士。

「地に足着いてないわね、コックさん。」

いつの間にか惹かれあった対極の二人。
ナミはグラスをとりあげるとにっこりと笑った。

「前途多難なバカップルに乾杯♪」


END+++




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まずはごめんなさい(汗
七夕ということで思い立って急遽書いたのですがぜんぜん関係ありませんでした(キッパリ
ええ、見事に七夕とは無縁かと(爆
そして『ぴかぴか』うるさい(怒)・・・と思った方ごめんなさい(^^;
書いていて某電気ネズミが頭の中でピカピカ喋ってくれて非常に五月蝿かったです(自業自得