―番外編―
隣接した船から海兵が飛び移ってくる。
「舵を右に・・抜けて!!」
わずかな隙間を縫って、突破口を開こうとナミの厳しい声が飛ぶ。
怒声と激しくなる剣戟の響きと続く砲弾の音。
「ナミ、俺が行く。」
「ええ、お願い。」
激しくなる戦いの気配に我慢が出来なくなったと、ニヤリと笑ってルフィは腕を回す。
ナミは戦況を見極めるための報告を次々と受けながら指示を飛ばしていた。
『なーんか、苦戦してるみたいじゃねぇか?キャプテン。』
不意にふわりと漂ってきた紫煙の香りに、ナミとルフィは弾かれたように振り返った。
見れば戸口には見たことのない海兵が咥え煙草で立っている。
「いつの間に!!」
咄嗟に短銃を構えたナミに、男は敵意のないことを示すように軽く両手を挙げてみせた。
さらりと流れたプラチナの髪と、咥え煙草のその姿に、ルフィもナミも一瞬懐かしい記憶を刺激される。
『おい、クソゴム、あいつのアレは何処だ?』
心臓に向けられた銃に脅えることもなく、その男はそうルフィに問いかけた。
その言葉の意味を図りかねナミはルフィと男の顔を見比べる。
そして、正面から視線を合わせるように男の顔を覗き込んで、前髪から覗く瞳の色が自分達の良く知っている色とまったく同じことに気付いた。
「まさか・・・・。」
『・・っし。ナミさん、名前は呼ばないでください。』
目を見開いて両手を口で覆ったナミに男は困ったように笑いかける。
そしてもう一度ルフィに向かうと繰り返した。
『アレは何処だ?』
ルフィは無言で立ち上がると壁の板を外し、丁寧に布に包まれた3本の刀を取り出した。
そして押し付けるようにその男に手渡す。
布を取り外して中を確認して男は満足そうに笑った。
『それじゃ、行って来るぜ、キャプテン。』
そう、それは戦闘に赴くときの彼の口癖。
微かな煙草の香りを残して姿を消した男を思ってナミは涙した。
「おい、何やってんだ、行くぞナミ!!」
「ルフィ・・・。」
グイっと腕を掴んで走り出したルフィに半ば抱えられて戦闘の中心部であろう甲板へと引っ張り出される。
「ルフィ・・・。」
「いいか、ナミ、あいつが持っていったのは刀だ。」
ルフィの言葉に視線を巡らせば甲板ではゼロが刀をふるっている。
「・・・見ろ・・・。」
先程の男が華麗な足技を仲間に食らわせながらゼロに近付いていく。
海兵たちは仲間からの攻撃をまともに受けては吹っ飛んでいく。
やがて、男はゼロの間合いへと入っていった。
微かににらみ合った後、予備動作もなく放った男の蹴りをもろに喰らってゼロはがっくりと膝をついた。
「ルフィ!ゼロが・・。」
腕の中で悲鳴のような声を上げたナミを見つめてルフィは静かに呟いた。
「いいから・・・見てろ、ナミ。」
膝を着いたゼロに男は無造作に近付くと抱えていた刀の一つをゆっくりと差し出した。
和道一文字。
手渡されたその刀をゼロが受け取った瞬間・・・・・。
辺りを満たしていた空気は変わった。
ゼロは軽く頭を振ると、手にしていた2本の刀を鞘に納め、近くにいたその男に手渡す。
引き換えに受け取った刀を3本帯刀してゆっくりとした動作で立ち上がった。
そして慣れた手付きでゆっくりと、鬼徹を、雪走を、和道一文字を抜いていく。
キラリと光を反射して輝く刀は久方の主の帰還に喜んでいるかのようだった。
そこからは、はっきり言ってたった一人の男による独壇場だった。
白刃を煌めかせ、3本の刀を自在に操り、敵をなぎ倒していく。
その強さはナミやルフィが記憶していた以上のものだった。
敵も味方も呆然とその圧倒的な強さに魅入られたように動けない。
やがて形勢が不利になったと判断した海軍が去っても、誰もその場から動こうとしなかった。
血を拭い、刀を鞘に納めると、張り詰めいてた殺気を霧散させた剣士はゆっくりと振りかえった。
「じゃあな、ルフィ。」
「またな、ゾロ。」
ちょっと目を見張って子供のように笑うと剣士は軽く片手をあげて背を向けた。
途端、糸の切れたように崩れ落ちたゼロに向かって慌てて仲間が走り寄る。
「サンジくんは?」
ナミは慌てたように呟いて先程の海兵の姿を探すが何処にも見当たらない。
ルフィは少し淋しそうに笑うと帽子のつばを上げて空を見上げた。
「・・・行っちまった・・・・仕方ねぇ、ゾロだけじゃ迷子だからなぁ。」
ナミはルフィの視線の先を追いかけて、そうねと小さく微笑んだ。
---END---
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ここまでお付き合い有難うございました(^^
ちょっと変わった感じで進めた手紙シリーズですがこれで本当に終わりです(笑
戦闘シーンは雰囲気だけです(^^;
ゾロもサンジも出てこないお話でしたが読んでくれた方本当に有難うございました(礼
蛇足ですが、サンジが海兵に憑いていたのは波長が合うのがたまたま海兵に居たってだけで深い理由はありません(^^;