親愛なるナミさん
お元気ですか?
僕は毎日元気に楽しく働いています。
早いものでゾロが居なくなって今年で10年が経ちましたね。
あの時、この場に残りたいと言った僕の我儘を聞いてくれて、父さんにもナミさんにも本当に感謝しています。
おかげで僕はオーナーの元で毎日楽しくいろんなことを教わっています。
ただ、なんだか料理の腕より足技の方が上達が早いみたいで・・・
たまにオーナーにぼやかれていますが・・・・
あ、ゼロは元気にしてますか?
あいつもたまには手紙ぐらい書いてこっちに寄越すようにいっておいてください。
変なところで大雑把で面倒くさがりなのは父さんに似たんでしょうか?
風の噂ばかりじゃなくて、たまには自分の口で報告に来いって伝えておいてください。
海賊王の元にいる二刀流の魔剣士ってゼロのことでしょう?
翡翠の魔獣って・・・
魔獣って呼び名を見てオーナーが懐かしいと言って笑ってました。
実は、ナミさん。
オーナーと、サンジさんとの、連絡が途絶えました。
3週間ほど前に、定期航路でオールブルーに向かった船に乗船し、そのあと2度ほどカモメ便がこちらの様子を伺う手紙を届けてきたんですが、帰港予定日を5日過ぎてもその船は帰ってきません。
途中いくつかある島への問い合わせにも芳しい返事は来ませんでした。
そして昨日、カモメ便に預けたサンジさん宛の手紙が手元に返って来ました。
明日にはその航路に向かって捜索の船が出ます。
同じ船に乗っていた家族の人や、友人など親しい間柄の人が乗船して最悪の事態に備えて捜索に向かいます。
店のコック数人もオーナーを探しにその船に乗ることが決まりました。
僕も乗り込むように勧められたのですが、僕はここで待つことにしてナミさんに手紙を書くことにしました。
昨夜、夢かもしれません・・・でも、僕はゾロに会いました。
オーナー不在もあって僕のやることはいろいろと増えて疲れていました。
昨夜も、数人のコック達と仕込みを終えて、明日のレシピの書き出しをしようとキッチンのテーブルに向かってから意識がありませんでした。
どうやらその段階で眠気に負けて僕はいつの間にか眠ってしまったみたいでした。
カチャカチャと食器の擦れる音、暖かないい香り、懐かしい煙草の匂いもそのうち漂ってきて、僕はサンジさんが帰ってきたんだ・・・と嬉しくなりました。
起き上がってお帰りなさいと言いたいのに、中々開かない目に葛藤していると硬い手がそっと僕の肩に置かれたのを感じました。
その手は・・・・。
硬くて大きくて熱くて・・・
大好きな、大好きな・・・大好きだった人の手・・・
記憶していたよりその手を小さく感じたのは僕が大きくなったからでしょうか?
涙が出そうでした・・・。
もう二度とは会えない、大好きな人。
二度と会えないと思っていた大好きな人。
目を開けたらきっと消えてしまう。
消えてしまうのを恐れて、僕は固く目を閉じました。
そんな僕を見てその人はかすかに笑ったようでした。
そして、ゆっくりと優しくその手が僕の頭を撫でてくれました。
『ゾロ・・・ゾロ、ゾロ!!』
僕はサンジさんから料理を習っているよ。
サンジさんみたいな一流のコックになっていろんな人に美味しいって言ってもらうのが目標なんだよ。
ゼロはルフィさんの元で剣の修行をしているよ。
まだ、ダメだっていってゾロの刀はもらえないみたい。
でもね・・・かなり強くなったんだよ?
二刀流の魔剣士だって、翡翠の魔獣だって。
魔獣って聞いてサンジさんは懐かしいって笑ってたよ。
心の中で必死に話しかけて・・・。
優しい手のひらに涙が溢れてきたのが眠っていても分かりました。
『・・・甘やかしてんじゃねえよ。』
不機嫌そうな声と良く知った煙草の香りに、頭を撫でてくれていた手が消えました。
『何、拗ねてんだよ?・・クソコック。』
『・・誰が、拗ねるか、クソ剣士・・。』
呆れたような笑い声に僕はたまらず目を開けてその姿を見ようと顔を上げました。
『目ぇ、覚めたか?』
カウンターに背を預け、少し猫背気味に煙草をふかす姿は僕の良く見知ったオーナーのもので、呼びかけようとして声が出ないことに気付きました。
そのオーナーは、僕の見たことのないスーツを着て、今より少し髪が長く、僕よりほんのすこしだけ年上に見えました。
そしてその隣に写真でしか見たことのない姿のゾロがいました。
白いシャツに緑の腹巻、黒のボトムに軍隊靴、そして腕に黒のバンダナ。
そして耳に2本の金のピアス。
ゾロから貰った、僕達がお守りのように大切にしてるピアス。
『お、そうだった。ほらこれ。』
僕の視線を辿って、思い出したようにオーナーの手がゾロの耳に触れると、そこには3連のピアスが揃っていました。
『刀は無理だから、まあ、それだけでも持っていこうぜ。』
オーナーの言葉にゾロは微かに笑ったみたいでした。
『エス・・。』
二度と聞く事がないだろうと思っていた声に名前を呼ばれ僕は声の出せない代わりにゆっくりと頷きました。
『悪いがこいつは貰っていく。』
『本当に悪いなんて思ってんだかねぇ・・こいつ。』
『うるせぇ。』
ああ、行ってしまうんだ。
そう思って小さく俯いた僕の頭にかわるがわる大好きな人の手が触れていきました。
大好きだったよゾロ。
大好きでしたオーナー。
ボタボタと落ちる涙を見つめているとゾロが思い出したようにこう聞いてきたんです。
『何かして欲しいことがあるか?』
僕はその問いかけに首を横に振りました。
だって僕はサンジさんからいっぱいいろんなものを貰ったから。
ただ、叶うなら、ゼロはゾロの本気の剣をみたことがないからゼロに会ってほしい。
『分かった・・・約束だ。』
幼かった僕達の頭を撫でながら何度も繰り返されたゾロの言葉。
どうか幸せになってください・・。
貴方のことが大好きな僕達の為にも・・・。
どうか幸せに・・・。
最後に二人の笑った気配がして、僕の記憶はそこで途絶えました。
次に気が付いたときは、僕はキッチンのテーブルにうつ伏せたままで、書きかけのレシピは涙でぐちゃぐちゃになっていて到底使いものにはなりそうにありませんでした。
時計を見ると少し眠ってしまっていただけのようで、思ったほど時間は経っていませんでした。
しかし、今夜はレシピ製作は諦めて、自室に帰り休もうとして、不意に夢でオーナーが言っていたことを思い出しました。
刀は無理だから・・・・・と。
夢の中、ゾロの耳に光っていたあのピアス。
まさかと思いながら、僕はゾロのピアスの仕舞ってあるケースを開けて呆然としました。
誰も触った形跡はありませんでした。
微かな重みで沈んでいたビロードの皺もそのままに、確かにあったはずのピアスは消えていました。
僕は信じられない思いで、慌てて部屋を飛び出すとオーナーの部屋へと向かいました。
オーナーの部屋のキャビネットの中の凝ったカッティンググラス。
その中に、ゾロのあのピアスが無造作に入れられていたのを知っていました。
そして、それは今朝部屋を掃除したときに、確かにそこにあって光を反射していたはずなのに・・・・。
僕のピアスと同じく跡形も無く消えていました。
ナミさん、きっとゼロが貰ったピアスも無くなっていると思います。
でも、ゾロは約束してくれたから・・・・
きっと、ゼロに会いにいってくれると思います。
・・・・・・オーナーも一緒に。
オーナーの大切にしていたこの店を僕はこのまま守っていこうと思います。
まだまだ、料理の腕は未熟ですが、いつかいろんな人に美味しいといってもらえるように。
食べた人が幸せになってくれるように。
オーナーのサンジさんの名に恥じないように・・・・。
ナミさん、父さん、いつかゼロと一緒に僕の料理を食べに来てください。
大好きなみんなへ エス
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【設定裏 パート2】
サンジ45〜6歳ぐらいの設定ですね。
お子様達はそれぞれ17歳になりました。
エスはゾロが亡くなって、その報告に来た時にそのまま料理を習うためサンジの元に残ります。
一年ぐらいはゼロも一緒にいたんですが、来る客に何度も『ゾロ』と驚かれるので嫌になって早々にGM号に帰りました(笑
ゼロの外見はゾロと瓜二つです。(子ゾロ)
外見はそっくりですが、ゼロは方向音痴ではありません(笑
エスもよく見ればゾロと似ていますが、明るい茶の髪に琥珀の瞳と優しい面立ちをしています。
そして足技はサンジ譲りで優しげな容姿と違ってとても強いです(笑
エスはこれからもオールブルーにあるサンジの店を守っていきます。
料理の腕も徐々に上がっていくでしょう(笑
彼の物語はここから始まります。
がんばれお子様♪
【 手 紙 】