【 手 紙 】
親愛なるサンジくん
元気にしているかしら?
私たちは相変わらずよ。
サンジくんがこの船を降りてからもう11年が経つわね。
この前お店に寄ったのはいつだったかしら?
・・・・・なんだか寂しいわ。
あのルフィが海賊王になって7年、ゾロが大剣豪になってからちょうど10年かしら。
ゾロが大剣豪になって変わったのと言えば賞金額が上がったぐらいよね。
ルフィにしても、アイツにしても小さなGM号で皆で旅してた時とぜんぜん変わらないんだもの、なんだかあたしだけが歳を取っていくみたいで・・・・・。
そうそう、この前ね、ウソップとカヤさんに3人目の子供が出来たんだそうよ。
運よくというか、(ルフィのなんだか分からない悪運かも)近くの海域でばったり会って・・・やっぱり宴会になっちゃたわ。
ウソップの船は見るたびに人が増えていくみたい。
新しく増えてたのは海軍からの転職者(?)で、どっかの海域で海軍とやりあったときに沈めたその船の乗員だったそうよ。ウソップに助けられてそのまま居ついちゃったみたい。
計算に強い人らしくてかなりウソップの仕事が楽になったとか言って笑ってた。
だからかしら・・・ウソップ海賊団はますます海賊というよりは、護衛艦付き商船みたいな感じになっていたわ。
・・・・・まあ・・この船も、船長が変わっているから人のことは言えないんだけど。
そうそう、ウソップが近いうちにお店に行くからって言ってたわ。
サンジくんも楽しみにしててね。
新しい家族の一員はとっても可愛い女の子。
ウソップには悪いんだけど、カヤさんに似てて良かったわって本当に心から思っちゃった。
女の子ですものね・・・・。
さて、本題に入る前にちょっとだけ深呼吸させてね・・・。
いきなり届いたあたしからの手紙にきっと変だってサンジくんも思ったわよね?
ウソップの話はついでで、ここからが手紙を書くことにした本題。
もしかしたら風の噂でサンジくんは知っているかもしれないけれど、共に旅したGM号のクルーとして、親しい友人として、きちんと伝えなきゃって思ってペンをとります。
本当は会って伝えたかったけれど・・・・
航路の関係でどれほど急いでもそちらに着くのは来年の春になりそう。
サンジくんに会えるまでに、まだ半年以上もかかってしまうわ・・・。
だから・・・・・・・・・・・・・・。
『ゾロが死んだわ。』
あいつ・・・戦って、敗れたんじゃないのよ?
だから大剣豪の称号も、そのままあいつが持って逝っちゃった。
チョッパーは寿命だって教えてくれた。
あの頑丈で化け物のような男が寿命が来たからって死ぬと思う?
とてもじゃないけどその言葉を信じようとは思わなかった。
だって・・・・ゾロは前の日もいつもと変わらない仏頂面で黙々と鍛錬をしてたのよ?
だからなかなか起きてこないのも、いつもと変わらず意地汚く寝ているのだと思って・・・・。
いつまで経っても姿を見せないゾロに誰も疑問さえ抱かなかった。
チョッパーからゾロの死を説明されてもしばらくは信じられなかった。
実際、ただ眠っているみたいだった・・・。
耳元で怒鳴って殴りつけてやれば不機嫌そうに目を開けて『うるせぇぞ』って・・・・・。
あの泣き虫のチョッパーが泣きもせずに優しく説明してくれるのを聞きながら、唐突にこれが現実なんだって理解したの。
チョッパーが医者の顔でゾロに触れたときに、ああ・・・もう居ないんだって思ったわ。
ふふ・・・・あいつったら知ってたのね。
今度眠ったら自分が次に目覚めることはないってこと。
最後まで獣みたいだった男。
枕元にはいつもしているピアスが外されてメモの重石のように置かれていたの。
たぶんそれは皆に宛てたメッセージ。
『悪いな・・先に行ってる』
ですってよ。
失礼しちゃうと思わない?
私たちが同じ所に行くとは限らないのに。
迷子になったってすぐに探し出してあげられないのに・・・。
それとその紙に走り書きのように。
『一つのピアスはゼロに、もう一つのピアスはエスに』
形見分けってことかしら・・・一応父親だものね。
あと、3本の刀はルフィが預かることになってたみたい。
不満そうにしてたゼロに必要になったら渡してやるとかいって笑ってた。
ゼロは悔しいぐらいあいつにそっくりよ。
見た目だけじゃなく、まっすぐに目標に突き進んでいく姿勢が本当にそっくり・・・。
必死でゾロに向かって行っては、傷だらけになってよく動けなくなるまで片手で遊ばれてたわ。
ごめんね、サンジくん・・・。
あたしあの時嬉しかったの・・。
あたしはルフィが好き、愛しているわ。
でも、ゾロの事も好きだった・・・・。
ルフィの子供が出来ないことは一緒になる前にチョッパーから聞いて知っていたし、好きな人とずっと居られる約束が出来て嬉しかった。
ルフィと居ることが純粋に嬉しかったし、子供なんて居なくてもいい・・・って実際思ってた。
・・・・・・・でもね。
でも・・・・あの時。
ルフィが海賊王になったその夜にゾロはあたしにこう言ったの。
『俺の子供を産んでくれ』・・・・って。
冗談じゃない、女を何だと思ってるのかって目の前が真っ赤になるぐらい腹が立ったわ。
それに、ただ子供が欲しいだけなら適当に陸に降りて作ってくればいいじゃない、なんであたしにそんなことを言うんだって。
華やかな宴の最中に呼び出されて、薄暗い船の片隅でこんなに気分の悪い話をするなんて・・って。
ゾロはあたしの怒りが収まるまで黙って聞いていた。
そしてあのまっすぐな眼差しで静かにこう言ったの。
『ナミに産んで欲しい。』
真剣な言葉に嘘はなかったわ。
もともと嘘のつけるような器用な奴じゃあないものね。
あいつは本気であたしにあいつの子供を産んで欲しいと望んでいるんだってわかった。
ゾクリとしたわ・・。
その言葉がプロポーズとか、愛してるからってわけでもないのも分かっていた。
でもね、嬉しかったの。
あの強い男の血をこの世に残せるのかと思うとゾクゾクした。
ルフィの血は残してあげられないから・・。
強い雄の血を残すのは雌の最高の望みなんだって思った。
その夜あいつに抱きしめられながら、これじゃ、あいつのこと獣よばわりできないじゃないって可笑しかった。
・・・・・・・ごめんね。
チョッパーからあたし宛のあいつの手紙を貰ったの。
色の褪せたそれはかなり長い間チョッパーが保管してくれてたみたいだった。
中にはゼロとエスのことと、あいつが貯めていたお宝の隠し場所と子供が欲しかった理由が書かれていたわ。
ミホークを倒したときにチョッパーに寿命が長くないことを知らされたこと。
保って5年と言われて初めて残す者への未練が出来たこと。
残していく者達に子供を託そうと決めたこと。
『一番好きなやつは子供を産んでくれそうにないから。俺が知ってる中で一番綺麗で強いお前に産んでもらうことに決めた。』ですって。
『予定より長く生きて楽しかった。』って
ただ一言多いのよね、あいつって。
『一度に二人も産んでくれるとは思わなかった。お前にしては気前良かったな。』ですって。
・・・・・・・もう、笑っちゃう。
ゼロもエスも貴方に会えるのを楽しみにしてるわ。
ゾロが口癖のようにサンジくんの作ったご飯の方が美味しいって言ってたから。
エスは、サンジくん自身に会うより、その料理の方に興味があるのかもしれないわ。
ふたりともゾロのことが大好きだったから。
そうそう、同封の手紙はゾロからサンジくんへ宛てたものよ。
メモの下に置いてあって、手紙に宛名はなかったけれどきっとサンジくんに宛てたものだと思う。
振るとかすかにする音はもう一つのピアスだと思うから・・・・・。
ゾロの身体は、あいつの希望通りに灰にして海に流したから・・・・きっと私たちより先にサンジくんの元へ行くんじゃないかしら?
ああ・・・ダメだわ、あいつ最後まで究極の方向音痴だったからこの広い海の中じゃ完璧な迷子よ。
もし無事に辿り付けたらずっと食べたがっていた美味しいご飯とお酒飲ませてあげてね。
まだまだ話したいことはいっぱいあるんだけど、今度会った時にサンジくんの美味しいご飯を食べながらにするわね。
ナミより
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【設定裏】
ゾロの年齢が35〜6歳ぐらいの設定です。
手紙で言ってる『一番好きなやつ』ってのはサンジのことです。
ただ、ゾロも男だし、子供が欲しいって思ってもサンジの子供を産みたいとは思わないんじゃないかな?ってことでナミに産んでもらいました。
本当はゾロってこういう自然死だと死に際とか見せそうにないですが、(朝起きたらいなくなっていたとかありそう)ルフィとかきちんと目で見て確認しないとゾロの死ってのを納得しそうにないなーって事で眠るように逝ってもらいました(汗
あと、子供の名前はとくに捻りもなくそのままです(^^;
ナミさんはゾロの子供を産みますが、ルフィと夫婦のままです。
ゾロと結婚はしてません。
ゼロとエスはゾロのことはゾロ、ナミのことはナミさん、ルフィのことを父さんと呼びます。
彼らはナミのことを母親だと知っていますが、ナミが名前で呼ばせています。
ゼロはこれから剣士を目指し、エスはサンジの元で一流コックを目指します。
ゼロはゾロから一本の刀も譲り受けていません。
誰かが誰かに手紙を書くことで進んでいくちょっと変わったストーリーです。
過去の回想でしかゾロもサンジも出てこないので苦手な方はごめんなさい(^^;;