◆◆ KissKissKiss 2 ◆◆






「何か欲しいものはないのか?」
「・・・・はぁ?」

真面目な顔で突然話しかけてきたゾロに今まさに口付けしようとしていた俺の動きは止まった。






あの夜、あまりに穏やかな空間と、無防備すぎるゾロの姿に衝動に襲われるままにその唇を奪い、俺はその甘さに酔った。
酒を酌み交わし、他愛ない話をして笑っていたゾロが何かの時にフワリと微笑んだのだ。
自分に笑いかけられたわけではないと分かっていても身体を駆け巡った衝撃は大きくて、俺は気付けばゾロに触れていた。
始めは軽く、ただ本当に触れ合うだけキスだった。
だが、二度目にその唇に触れたとき、俺はもう誤魔化しの効かない自分の感情に気付いた。



ゾロが好きだ。



伝えることの出来ない想いは自分でも想像できないぐらい大きくて、冗談交じりに触れた唇を離すことは出来なかった。
俺のキスに甘い声を上げ、ゆっくりと熱を上げていった熱い身体を忘れられない。

あの日から、ふとした瞬間にゾロを抱き締めキスを交わす。

あれから数え切れないぐらい唇を重ねてきたが、ゾロは何も言わないし、俺も何も言葉にしない。
どれほど激しくゾロを求めても、離れた瞬間にその関係は元に戻る。
何度口付けても抗うことのないその唇は何もサンジに語ってはくれないのだ。


だから俺たちの関係は同じ船に乗る仲間のまま。







「今日、誕生日なんだろう?」

ゾロの質問を無視して重ねようとした唇を首を動かすことで交わされて続けられる。
ゾロが俺の誕生日を知っていたのは驚きだったが、それは誰か他のクルーあたりに聞いたのだろうと結論付ける。
しかし、欲しい物と言われても咄嗟に浮かばないし、それを問い掛けてくるゾロの意図も分からない。
目の前の綺麗な翡翠の輝きにその言葉を理解しようと俺は口を閉ざした。

「何かないのか?欲しいもの?」

ゾロが喋る度にフワリと甘い吐息が唇を掠めていく。

いつもそうだ。

ゾロからは甘い蠱惑的な香りがする。

「欲しい物・・・・。」

ゆっくりと頭の中で考えてみるがこれといって何も浮かばない。
もともと物欲は低いのだ。
生きていく上でそれほどに重きをおいてはいない。

「コック・・・。」

考え込んだ俺の前で静かに両の目蓋が降ろされていく。
それに惹かれるように顔を傾け、その唇を吸い上げる。
薄く形のいい唇を挟み込むようにして吐息を絡めると固く閉ざされた入口がかすかに綻ぶ。
綻んだ唇から甘い息を絡めとり、熱い口腔に舌を侵入させて蜜を強請る。

「・・・んっ・・・ぅっ。」

俺にされるがままに口付けを受けるゾロの顔が徐々に官能に染まっていく。
まるで花開く前の固い蕾のようなその色を俺の手で鮮やかな色に咲かせていく。
俺のキスに感じて漏れる声も、乱れた呼吸も、熱くなり始めた身体もこの瞬間は俺だけのものだ。

「ぁ・・・・はぁ・・。」

濡れた水音を残して解放した唇が乱れた呼吸を整えようと大きく息を吐き出す。
腕の中、俺に身体を預けたまま息を整えるゾロの媚態に欲望はいつも終わりが見えない。
どれだけ触れても、もっとと望む貧欲な俺がいる。
はあっと大きく息を吐き出したゾロがコンっと音を立てて俺の胸元に額を当ててきた。

「・・・なあ・・欲しいもの・・・本当に何もないのか?」

静かな、けれど先ほどまでの口付けに甘く掠れた声が問い掛けてくる。
間近にある熱を宿した翡翠に俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


欲しい物・・・・。

欲しいもの・・・。

・・・・・・欲しい者。


俺が欲しい者はたった一人しか居ない。
それは未来の海賊王でもなければ、賢くも可愛らしい航海士でもない。
それでも・・・・・望んでもいいのだろうか?
この止まる事のない、果てのない欲望に・・・・ただ一人の人を欲してもいいのだろうか?

「・・・・サンジ?」

小さく名前を呼んだ唇を俺はその感情のままに奪う。

「んっ・・・は、・・・ぅぅ・・っ。」

優しくはない口付けに震えながら縋るように伸ばされた手がシャツを握り締めてくる。
かすかに漏れる息は甘さを含んで俺を煽るばかりだ。

何度も何度も抱き締めてきた身体。

布越しでも分かるほどに熱い命を宿した身体。

「あ・・・ふぁっ・・・サン・・。」

キスの合間に名前を呼ばれてその身体を抱く腕に力が篭る。
激しい鼓動はゾロに聞こえているだろう。
それでも、俺はその一言が言い出せなくて、仲間という居心地のいい今の関係を崩す一歩が踏み出せずに居るのだ。
チュッと音を立てて離れた俺を濡れた翡翠が見つめてくる。
しっとりと艶を増した唇がゆっくりと深い息を吐き出す。

「・・・・・・欲しいものは?」

なにもかも分かっていると言いたげな優しい瞳と、甘えるようなゾロの言葉にドクンとひとつ鼓動が跳ね上がる。
欲しがってもいいのだろうか?
あの日、あの夜から、求め続けてきたたった一人を。

「俺が欲しいのは・・・・。」

口を開きかけ、言葉に詰まった俺の唇にゾロの指先が触れていく。
微笑を刻んだまま俺を見つめている愛しい人。

「欲しいのは・・・ゾロ。・・・・ゾロが欲しい。」

絞り出したような声は、喉に絡んで擦れてしまっていたが、ゾロに届いたのだろうか?

「なんで欲しいんだ?」

ふわりと笑った唇が重ねて問い掛けてくる。

「・・・・・好き・・・だから。」

欲しいと口にしたよりもっと小さくなった俺の声はゾロに聞こえたのだろうか?
ほしくて、欲しくて、ホシクテ、気が狂わんばかりにゾロを欲しがっていた自分がいたのを知っている。
そして失くす怖さに何も言えなかった自分も。

「コッ・・・っぁ、ま・・・っ。」

何かを言いかけたゾロの唇を咄嗟に塞いでしまうぐらい、俺は怖いのだ。
その唇から拒絶の言葉を聞かされるのが。

「あ・・・やっ、め・・・ぅぁ。」

深く口付けて甘く蕩けたゾロを見つめてうっとりと溜息をつく。
俺のキスに喘ぐゾロは可愛くて、愛おしくて、堪らない。
抗議にか胸元を叩いていた手から力が抜けたのを見計らって唇を解放してやる。
潤んだ眼差しに睨み付けられてその目蓋にもそっと唇を落とす。

「・・・や・・る・・。」
「・・・・・・・。」
「そんなに、・・・欲しいんなら・・やるって、言ってんだ。」

荒い息の中で熱に潤んだ瞳で睨み付けたままゾロの唇が言葉を綴っていく。

「誕生日プレゼントに俺をやる。」
「・・・あ・・・・・。」

言われた言葉に思考が停止してしまう。
今、ゾロは俺にくれると言わなかっただろうか?
俺が欲しいと望んだゾロを・・・。

「はは・・・なんて顔してんだ、クソコック。」

息の整ったゾロが楽しそうに笑って見つめてくる。

「いらねぇのか?」
「いる!!!」

叫ぶように答えてきつく抱き締めると腕の中でゾロが笑ったのが分かった。
ひとしきり肩を震わせ笑ったゾロがゆっくりと俺の背に腕を回してくる。

「・・・・遅せえよ、サンジ。」

静かな小さな抗議の声に俺はごめんと負けないぐらい小さな声で謝罪する。

「大事にしろよ?」

腕の中で身じろいだゾロが見上げてくる。
そして俺が望んだ優しいその瞳のままに俺を映す綺麗な翡翠。

「誕生日おめでとう、サンジ。」

欲しがってもよかったのだと、祝いの言葉と共に貰った初めてのゾロからの口付け。
優しいそれに俺は心の底から感謝の言葉を口にする。

「ありがとう、ゾロ。」






初めて心からの祝福にを受け、そして・・・・・・

俺たちの関係は変わった。






END++

(2006/03/02 Happy birthday Sanji)

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サンちゃん誕生日おめでとう♪・・・と、いうことでさり気にゾロ誕SSの続きでカップルになった2人です (笑
甘さは少し控えめにしてみましたー(たぶん