◆ 焔 〜ほむら〜 ◆
潮に乗って吹く風を肌で感じながらゾロはウトウトとした眠りの中に居た。
気持ちの良い風に頬を撫でながらの穏やかな眠りは、意識の端に捕らえた気配にフッと浮かび上がる。
そして待つほどもなくその気配の持ち主はヒョッコリと船縁から金の頭を覗かせた。
「おい、これやるよ。」
チラリと視線を送ったゾロに、顔を会わせるなりそう言って投げて寄越したそれを受け取ってゾロは首を傾げた。
「・・・・なんだ・・これ?」
サンジが言葉と共に投げ渡してきたのは片手で握りこめるぐらいの球体。
その透明なガラスの中にチラチラと蠢くなにやら色が見える。
「お土産。」
よっと掛け声をかけて荷物を手に甲板へと登ってきたサンジにゾロは眉を寄せる。
土産を頼んだ覚えもなければそれを投げて寄越したサンジの意図もさっぱり分からない。
メインマストに背を預けたままのゾロの目の前を横切って、その手にした荷物を倉庫へと収めていく。
手伝えと言われなかった事をこれ幸いにゾロはそのままの姿勢で手にした球体へと目を向けた。
透明な球体は冷たく、ずっしりとした重さを伝えてくる。
その透明な中にチラチラと揺れ動く色。
いったいなんだと覗き込むように顔を寄せてゾロは眉を顰める。
「どうよ?綺麗だろう?」
パタンと軽い音がして、扉を閉めたサンジが咥え煙草でゾロの元へと歩いてくる。
歩きながら話しかけられた内容にゾロはチラリと視線を上げた。
「焔玉っていうんだってさ。」
「・・・焔玉?」
ゾロの手の中のひんやりとした触感にその名前は相応しくないような気がする。
そんな感情が顔に出ていたのかサンジがクククと小さく笑ってゾロの手の中からそれを奪い取った。
「この玉の中で赤い色が動いてるだろう?」
長い指に挟まれて陽にすかされたその中の色が甲板の一部を染め上げる。
「本当か嘘かわかんねぇけどよ。この玉の中にあるのは神の火なんだってさ。」
軽く肩を竦めてポイっと投げられたそれをゾロは手の中に受け取る。
説明した本人さえその言葉を信じていないのはバレバレで、じっさいゾロもその説明を鼻で笑っただけだった。
「なんだか・・・未来永劫この形のまま燃え続けるって言ってたな。」
「・・・胡散くせぇ。」
軽く鼻で笑ったゾロにサンジも同じように笑う。
「ああ、俺もそいつは嘘だろうと思う・・・が、まあ・・・それ、綺麗だろう?」
目を細めゾロの手の中の焔玉を見つめてサンジは咥えていた煙草に火をつけた。
ゆっくりと吐きだされる煙の先を目で追って、ゾロは微かに唇に笑みを浮かべる。
「まあな。綺麗なのは認めてやるが・・・・だが、何で俺に寄越すのかわかんねぇ。こういうのはナミかロビンにやれよ。」
ニヤリと笑ったゾロにサンジが軽く唇の端を上げて笑い、ゆっくりと煙を吐きだす。
特にそれに対するコメントがないのを知ると、ゾロは一度太陽に透かし、そしてそれを腹巻の中へと仕舞う。
言葉とは裏腹にゾロが焔玉を仕舞うのを満足そうに見ていたサンジは、咥えていた煙草を床へと落とし靴先でにじり消した。
「なあ、それより・・・さ?」
カツッと靴音を響かせてマストに寄りかかるゾロの目の前まで近寄ったサンジがゆっくりと腰を折る。
上から覗き込むように顔を寄せてきたサンジにゾロはかすかに目を細めた。
「今日の買い物は済んだし、テメェの用事はないんだろう?」
伸びてきたサンジの手のひらがスルリと頬を撫で、ゾロの眉間に皺が寄る。
「クルーは出払って当分帰って来ねぇ、今は俺とアンタの二人だけ。」
近付いたサンジがそう言って楽しげに笑うのにゾロはハアッとこれ見よがしに大きな溜息を着いてみせた。
「だから?」
「うん、だからさ。部屋、行こうぜ?」
ニッコリと笑って軽く唇を重ねてきたサンジにゾロはかすかに呆れたような目を向ける。
まだ陽も高いと口にしかけたが、機嫌よく笑っているサンジの目に欲を感じ取ったゾロは、諦めたように溜息を零した。
「・・・・仕方ねえヤツ。」
「どうとでも。」
飄々と答えて、再度降りてきた唇にチュッと音を立てて唇を吸われ、ゾロは微かに笑みを浮かべると伸ばされた腕に掴まってゆっくりと立ち上がった。
立ち上がると当たり前のような顔をして腰を抱き寄せてきたサンジの腕を軽く叩いて振り解き、ゾロは男部屋へと向かって歩き出す。
その背を目で追って苦笑を浮かべたサンジが後を追って歩き出した時だった。
ドン・・・と、それは低く重い音をあたりに響かせた。
サンジが飛びのき、ゾロが抜刀し、切り裂いた砲弾は左右に分かれ空中で大きな音と共に煙を上げた。
「チッ、邪魔者のお出ましかよ。」
忌々しげに呟いたサンジがポケットから煙草を取り出して口に運ぶ。
それに笑いながらゾロは砲弾の飛んできた方角へと視線を向ける。
「軽い運動ぐらいにはなるんじゃねえか。」
楽しげに目を細めた先には明らかに同業者とわかる旗を掲げた船が1隻。
「あー、身体を使った運動ならもっと有意義にやりたかったぜ。」
そんなゾロの顔を見ながらサンジが煙草に火をつけ、近付いてくる船へと目を向ける。
今回の寄航で、メリー号を街の港に入れず、少し離れた入り江に錨を下ろしたのはそうたいした意味はなかったのだが、それが仇となったのか他船を誘い込んだのだろう。
サンジの言葉に一瞬呆れたような目を向けたゾロにサンジはニヤリと笑ってみせる。
「・・・・エロコックが・・・。」
ヒュッと風を切る音がして、また左右に切り分けられた砲弾が爆音を残して海中へと落ちていく。
「ゾロ!さっさと片付けて、続きしような?」
ゾロに向けてパッチンとウインクを寄越したサンジに呆れながらゾロは刀を振るう。
綺麗に二つに分かれた砲弾がまた一つ爆音を上げて消えていく。
狙いを外したわけではないのだが、当たらない砲弾にそろそろ相手がイライラとしてきたころだろうと徐々に近付き、その姿を現した海賊船に笑う。
「コック!!」
カツっと音を立てて敵船から鉄索が投げ渡される。
敵船からこちらの船に乗り込むための足場はそのままこちらから相手へ船に乗り移る足場にもなる。
ゾロの声にサンジが索を渡り一気に敵船へと乗り移った。
そして同じように索を渡り敵船へと降り立ったゾロはそのまま刀で鉄で出来たそれを切り落とす。
途端に向けられた無数の刃に、二人は顔を見合わせてニヤリと笑うと楽しげに敵陣へと切り込んでいったのだった。
油断していたと言うわけではないが、予想外の動きに一瞬ゾロの対応が遅れたのは事実だった。
「ゾロ!!」
脇腹に吸い込まれるようにして切っ先が入るのをゾロは小さな舌打ちと共に目に映す。
腹筋に力を篭めて余り深く刃をめり込ませないように、そして受ける衝撃を受け流そうとしたゾロの耳に不似合いなカシャンと澄んだ音が響いた。
何かが砕ける音だと、その音の正体を探るより先に、ゾロは崩しかけた体制を整え、返す刃で敵の懐を斬りつける。
「・・・ゾロォ!!」
ドサリと音を立てて敵が崩れ落ちたのと、まるで悲鳴のような声でサンジに名前を呼ばれたのは同時だった。
「なっ・・・・。」
その瞬間、誰の目にもゾロの姿が赤く染まって見えた。
「ゾロ!!」
一瞬にして突如と現れた炎にその身体を包まれたゾロにサンジは戦闘を放り出し駆け寄る。
敵さえも、唐突なその出来事に呆然と見守る中で、ゾロの身体を包み込むようにして燃える炎は頭の先から爪先、果てはその3本の刀まで、すべてを燃やし尽くさんとその腕を伸ばす。
「ゾロ!!」
ジャケットを脱ぎ、火を消す為にそれをゾロに叩き付けようとしたサンジの方へとゾロがゆっくりと顔を向ける。
その顔は苦痛も何も表してなく、どちらかというと困惑したような表情を浮かべてサンジを見つめていた。
「熱くねえ・・・。」
「・・・はっ?」
一瞬言われた言葉が理解できず、間の抜けた声を上げたサンジを見遣ってゾロはくっきりと眉間に皺を寄せた。
「だから、熱くねぇって。」
「はああああ??」
ゾロは視線を腕に落とし、そして身体を取り巻く炎に首を傾げる。
確かに身体を包む何かを感じるのだが、それは熱くも冷たくもない。
視線を降ろし見つめる先の腕を覆う赤い炎が舐めるように燃えているのは視覚的分かるだけになんとも複雑な気分になってしまう。
「そんなわけあるか!」
ゾロの言葉に同じく複雑な表情になったサンジが右手を伸ばしゾロの腕を掴む。
「うわっ!」
勢いのままに掴んだサンジが手に這い登ってきた炎に声を上げて慌ててゾロの腕を離す。
右手の炎を左手で振り払えば、宛てたその手にも引火したように炎が上がってくる。
「ちょ、マジ?・・なんで・・熱くねえ?」
「だろう?」
サンジの指先から舐めるように這い上がってきた炎はゾロの炎ほど勢いはなかったのか両肘の辺りでその勢いを止めたが、腕全体を取り巻くように赤い炎を上げている。
かたや身体全体を炎に焼かれている男と、両手を炎に舐められるように焼かれている男は、いったいこれはどういうことだと顔を見合わせ首を捻った。
首を捻る二人に、やっと現実に立ち戻ったのか取り囲んでいた海賊が奇声を上げて刀身を振り下ろす。
「・・・まあ、とりあえずは。」
「そうだな。片付けちまおう。」
背後から切りかかってきた刃を弾き、そのまま相手を弾き飛ばしながら呟いたゾロに、同じように長い脚で敵を昏倒させたサンジが気の抜けた返事を返してくる。
「二刀流・犀回・・・。」
「パーティーテーブル・キックコース。」
敵に向かって二人の身体は滑るように左右に分かれていった。
胸ポケットから取り出した煙草に火をつけたサンジの元へ刀を納めながらゾロがゆっくりと近付いてくる。
その姿はいつもの姿と変わりなく、身体を取り巻いていた赤い炎はサンジと同じくいつの間にか消えてしまったようだった。
「チッ、手応えのねえヤツラだ。」
煙を吐き出しながら呟いたサンジにゾロが苦笑を浮かべてトントンと甲板を靴底で叩いた。
「臨時収入にナミは喜ぶんじゃねえのか?」
そう言いながら悪戯っぽく笑った顔にサンジの眉が上がる。
「そうだな、手間賃ぐらいは貰っておくか。」
ゾロの言葉にもっともだと頷いたサンジが船の中へと消えていく。
そしてお宝を手にサンジが船内から姿を現すまで、ゾロは折り重なり打ち倒された敵へとその気を向けていたのだった。
数人を叩き起こし、強引に帆に風を孕ませ船の傍から敵船を追い払った頃、ルフィを連れたナミとロビンが船へと帰ってきた。
目敏く戦闘の後に気付いた三人はそれぞれに反応を返したのだが、あとは取り立てて何かが変わったという所も無かった。
二人だけでずるいぞ〜と散々二人に纏わり付き、駄々を捏ねた船長はサンジによって速攻甲板に蹴りだされ、ナミが何かを言うより早くその手にはゾロの手からお宝の入った袋が進呈され、何も言わずテーブルについたロビンには薫り高い紅茶が提供された。
「ただいまーサンジ。」
「ただいま、ゾロ。」
「おう、遅かったな、二人とも。」
襲ってきた敵船からせしめたお宝にナミがウキウキと上機嫌で消え、静かになったキッチンで夕食の支度に取りかかったサンジと、そのままキッチンに残っていたゾロの元にウソップとチョッパーが声を掛けるなり楽しげに近寄ってきた。
ルフィが共に行動してない状態で、この組みあわせの二人が最後に帰って来るのはとても珍しい。
「なにかいいものでもあったか?」
目を輝かせ、楽しげな二人の様子にサンジが微かに笑いながら尋ねる。
「おう、これ見てくれよ。」
そう言ってウソップが得意げに取り出したのは大き目のビー玉。
「・・・なんだ?」
ただそのビー玉はすべてが何らかの色が着けられていた。
「焔玉っていうんだってさ。まあ、子供の玩具みたいなもんなんだが、なんかに使えそうだなって思ってさ。」
袋の中からコロコロといくつも取り出してみせたウソップにゾロが眉を少し上げる。
「焔玉?」
「おう、一応名称は焔っていうけど、まあ煙玉だな、こりゃ。」
「エッエッエ、面白いんだー、この色の煙がモクモクって。」
ウソップに続けてチョッパーが目を輝かせながら補足する。
その説明に興味を惹かれたのか、コンロの火を止めたサンジが手を休めて3人の下へと近寄ってきた。
「色つきの煙が上がんのか?」
「ああ、地面に叩きつけて割ると、この硝子についてる色の煙が上がるんだ。」
「へえ・・・。狼煙みたいなもんか。」
「それがそうでもないんだな。」
手を伸ばして取り上げ、手の中で転がしながら呟いたサンジにウソップが何故か少し胸をはる。
「長時間は無理なんだけどよ、空島の雲、あんな感じになるんだ。」
「へえー。」
サンジの手からゾロの手の中へと移ったそれを見ながらウソップは続ける。
「値段もそこそこしたからよ、こんだけしか買えなかったけどな。」
少しだけ残念そうに呟いたウソップに苦笑しながらゾロはそれを返す。
そして先ほどから思っていたことを素直に口にした。
「俺が貰った焔玉とは違うんだな。」
「ゾロが貰った?」
ゾロの言葉に首を傾げたウソップに今度はサンジが苦笑する。
「ああ、俺が街で売ってたのコイツにやったんだよ。」
「割れたら火が出て、少し驚いたけどな。」
戦闘時、敵の刃に当たって砕け、破片になっていた焔玉を見て、中に火が入っているといった言葉は嘘ではなかったのかとゾロもサンジも驚いたのだ。
割れた破片でゾロが怪我をすることがなかったのは、二度は刃を身体に受ける事がなかったというそれだけの事だったが。
サンジがゾロにやったという言葉に驚いたのか、それともその内容に驚いたのかウソップの目が丸くなる。
二人の説明にナミと共に帰って来てから、静かにテーブルで購入してきた書物へ目を落としていたロビンがふとその顔を上げた。
「・・・・・火?」
「どうかしたのロビンちゃん?」
興味深げに呟かれた一言にサンジは内心ドキリとしながらその顔を見つめる。
戦闘の時のどさくさと、いつの間にか互いの火が消えていたことから、結局それ以上は深く考えなかったのだが、ロビンが興味を示したという所に不味いものだったのだろうかと心の中で焦る。
「ねえ、それって神の火とか聞かなかった、コックさん。」
「・・・うん、そう聞いたけど・・・なんで知ってるのロビンちゃん。」
まさか本当になにかヤバイ代物だったのだろうかと、不安を感じながら問い掛けたサンジに逆にロビンはクスリと小さく声を立てて笑った。
「ふふっ。それは珍しいものを手に入れたのね。」
その笑顔は楽しそうでサンジはホッとしたような息を吐き出した。
「そんなに珍しいものなのか?だったら俺も見てみたかったな。」
ロビンの言葉に残念そうなウソップの溜息交じりの声が被る。
それにニッコリと笑ってロビンは続けた。
「それが本物だったら悪魔の実と同じぐらい珍しいものよ。」
「・・・え?・・・でも、アレ、露天で売ってたけど。」
ロビンの説明にサンジが困惑したような声を上げる。
事実、サンジが寄航して足を向けたのは島の市場だけだ。
テントが立ち並び、野菜や果物、肉や魚、活気のある露天の一角に布を広げただけのアクセサリーを並べた露天商を見つけた。
ひどく目立たない場所に店を開いているんだなと思いながら、せっかくだし何か掘り出し物でもないかとサンジは足を止めて、その綺麗な硝子玉に興味を惹かれたのだ。
「それなら、偽者かもしれないわね。」
サンジの言葉にやはりニッコリと笑ったロビンにゾロの眉が微かに動く。
ロビンの説明とすでにないという事実に興味が失せたのか、ウソップとチョッパーは手早く袋に焔玉をしまうと、それをルフィに見せるといってキッチンを後にする。
騒がしい二人が出て行くのに合わせて、それじゃ私も部屋に帰るわねと言ったロビンも書物を手にキッチンを立ち去ってしまう。
騒がしかった室内が一転して静かになり、ゾロは深く息を吐き出した。
カタンと音を立てて立ち上がるとこちらを見ているサンジに静かに告げる。
「外で寝る。」
「ああ・・・飯出来たら起こしてやるよ。」
「頼む。」
静かに扉を開いて立ち去ったゾロの後ろ姿をしばらく眺め、サンジはシャツの袖を捲くると、中断されていた夕食の準備を続ける為にまな板へと向かったのだった。
ゴトゴトと特徴的な音を立てて、舳先へと向かい、船縁に背を預けて目を閉じたゾロの元へ何の前触れも無くロビンが現れたのはゾロがキッチンを立ち去ってから小一時間ほど経ってからだった。
予め予想していたのか、驚いた様子も無く、柵に背を預けたまま目を閉じているゾロにそっと笑うと、その隣に佇みロビンは静かに口を開いた。
「神の火は熱かった?」
「・・・いいや。」
そのことを聞かれるのだろうと思っていたゾロは目を閉じたままその応えに答える。
それに海を眺めたままフフッと小さく笑ったロビンが独り言のように続ける。
「神の火は裁きの炎。罪人はその赤い炎で灰になるまで焼き尽くされるというわ。」
「・・・・・。」
「神の火は冷たかった?」
「・・・いいや。」
船体に打ち付ける波の音が子守唄のようだと眠りに誘われながらもゾロは律儀に答える。
「神の火が冷たいならば、その身体の一欠けらまで凍りつき砕け散るというわ。」
そう口にしたロビンの視線が自分に向けられたのを気配で感じてゾロは静かに閉じていた目蓋を開いた。
「神の火がどちらでもなければ、それは祝福の炎。」
どこか羨ましそうに眩しそうにゾロを見つめたロビンが柔らかな笑みを浮かべる。
「神に愛されているのね、剣士さん。」
ロビンの言葉にゾロは眉を寄せるとふっと息を吐き出す。
「俺は神は信じねえ。」
「ふふっ、そうね。」
サラリと風に靡いた髪をロビンが押さえて微笑むと、来た時と同じく静かに身を翻してその場から立ち去っていく。
その姿を見るともなしに見送っていたゾロの視界に濃い影を纏った料理人の姿が入り込む。
計ったようにロビンと擦れ違うようにして姿を現したサンジの複雑な表情を見てゾロはかすかに笑う。
「良かったなクソコック。」
「はっ?何が?」
何処から話を聞いていたのかしらないが、ロビンと二人で親しげに話していた事が気になるのだろうとゾロは笑う。
「テメェの手は神の祝福を受けたらしいぜ?」
ゾロのその言葉に一瞬蒼い瞳を丸くして、サンジは柵に背を預けて座るゾロへと手を伸ばした。
そしてその祝福を受けたとゾロが言った手のひらでその頬をそっと包み込む。
「俺は神の祝福よりアンタの祝福の方が嬉しい。」
蒼い目を細めて囁くように口にしたサンジにゾロは呆れたような表情を浮かべる。
そしてクッと唇を歪めると、次の瞬間には遠慮なく声を上げて笑った。
「そのうちな。」
スルリと振り解くついでにその指先に小さなキスを寄越したゾロに破顔して、サンジは夕食が出来たと口にする。
そしてキッチンを目指して歩き出した背を見つめながらゾロはゆっくりと唇を笑みの形に変える。
「俺も・・・抱かれるなら、神の焔よりテメェの焔のほうが心地いい。」
小さな吐息のような声が波の音にとけるように消えていく。
「ゾロ?」
ゾロの足が止まっている事に気付いたサンジが静かに振り返り名前を呼んで促してくる。
その顔にふっと笑みを返して、ゾロはゴトゴトと特徴的な足音を響かせながら立ち止まった男の下へとゆっくりと歩き出したのだった。
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SStopへ
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サイト開設一周年記念SS第2弾 『焔』 をお届けします。
アンケート結果2位 『海賊設定』
私的テーマはしっとり大人系を目指したんですが・・・ただのバカップルに(汗
オーソドックスに『アンタの(テメェの)中に焔がみえる』って感じのお話にするかな〜とタイトルが決まった時には思っていたんですが、気付けばアイテムになってました(笑
なんというか・・・一周年のお礼なのに恩を仇で返しているような気がヒシヒシと(汗
遊びに来てくださった方に少しでも楽しんで頂ければ幸いです(^^;
『焔』は、2006年8月末までDLFです。
サイトに転載される方は『AFTER IMAGES 千紗』と筆者名を入れていただければ特に報告の必要はありません。
どうぞ、気に入ったら持って帰ってやってくださいね♪
(2006/07/31)