## 激情と衝動の真実 ##







ボケッと船縁から海を眺めている男の後ろ姿にゾロはその整った眉を寄せた。






昨夜、真剣な眼差しでサンジが口にしたのは、『クソ愛してる。だから俺に抱かれてくださいクソ剣士。』という、ゾロが欲しいという主張。

「・・・・馬鹿コックが。」

壁を背に、眉を寄せ、目を閉じることでその姿を視界から追い出しゾロはなおも溜息をついた。
欲しいから欲しいと我儘な子供のように主張したサンジを悪いとは思わない。
実際ゾロもナミに対してだが『あれは俺のもの』という自己満足な主張をしている。
だがゾロはサンジの女になるつもりはない。
同じ男としてその生理現象も心理も分からなくはないのだがやはり譲れない部分はあるのだ。
だから、ゾロが出した答えは。









「ふざけんな、クソコック。」

入口近く、向き合うままにゾロは一瞬の間をおいて口を開く。
それは意図した以上に冷たい響きに怒りを交えた返答だった。

「ふざけてなんかいねェ。」

真剣な今まで以上に真剣な雄の眼差しに触発されてゾロの視線も自然と厳しくなる。

「俺はテメェの女になるつもりはないと言ったはずだが?」

間近で睨み合う様に視線を合わせてゾロはキッパリと告げる。
そんなゾロの答えにサンジの視線も鋭さを増す。

「俺だってテメェを女扱いするつもりはねェ。ただ、どうしてもアンタが欲しい。」

低くなったサンジの声にゾロはゆっくりと距離を取る。
煽られて切羽詰って押し倒してきたサンジを交わすのは造作もないが、真剣な様子でゾロの出方を伺っているサンジを軽く交わしてしまうことは難しそうだった。

「なんでダメなんだ。キスはいいんだろう?」

唸るようなサンジの言葉にゾロは視線の強さを少し緩めた。
確かにサンジがいうようにキスは受け入れているし、ゾロからも与えている。

「なら、聞くが・・・。テメェは俺に抱かれる覚悟があるのか?」

ゾロの問い掛けにサンジの目が軽く瞠られる。
想像もしていなかったという顔にゾロは内心苦笑しながらサンジの顔をジッと見つめた。

「テメェだけが欲しがってると思うなよ?」

サンジほどではないとはいえゾロも考えないわけではない。
好きな相手が居て何も感じないほど子供でもない。
ただ、サンジほど切羽詰った欲求を感じていないだけで・・・。

「愛してるんだ、ゾロ。」
「知っている。」
「テメェが欲しい。」
「・・・・・。」
「テメェを感じたい・・・・ゾロ。」

低く絞り出すようなサンジの独白が続く。
それを静かな眼差しでゾロは受け入れる。

「抱きたい・・・・ゾロ。」

絡みつくように向けられた視線は欲情した雄のもの。
いつも澄んだ青空のような瞳が色を増し深い海のような色に変わっている。

「バッ!・・・止せ!」

思わずその色に見蕩れてたゾロの腕を掴んでサンジが顔を寄せてくる。
噛み付くような口付けを受けて、ゾロは視線を強める。
重ね合わせた唇からは官能を誘う吐息が漏れ、濡れた水音が響く。
それでも、近距離であわせた互いの視線は戦いに挑むかのように鋭さを残したままだ。

「・・・ふっ・・・。」

息継ぎに離れたゾロの唇を追ってサンジの顔が近付いてくる。
それと同時に腕を解放され、替わりに腰に回された腕で身体の距離が縮まる。
グイッと強引に重ねられた下肢が熱く固く欲を誇示してそれにゾロの眉が寄る。

「離せ、クソコック。」

キスを避けたゾロの頬に舌を這わせているサンジへと目を向けると、チラリとこちらの様子を伺うだけでその行為は止まらない。
左頬を舐めていた舌はやがてゆっくりと移動して、ピアスのある耳元へと這い上がっていく。
カチリとピアスがサンジの歯に当たって小さく音を立てたのを合図に、ゾロは両腕に力を篭めてサンジの拘束を振り解いた。
そして振り解いたサンジの腕を逆にそれぞれに戒めてゾロは勢いよくその身体を背後の扉へと押し付けた。

「・・っぅ!」

ダンっと派手な音が外にも漏れたはずだが真夜中にキッチンを訪れるような物好きはこの船に乗っていない。
激しく扉に背中をぶつけて低く呻いたサンジの唇をゾロは噛み付くようにして奪った。

「んっ・・・。」

先ほど自分がされたように相手の舌を探り出し、濡れた音を響かせながら相手の官能を掘り起こす。
舌を絡め、その口付けに答えながらもゾロの腕を振り解こうと力の篭るその手をきつく握り締める。
至近距離で互いに目を開けたまま探り合うような口付けは続く。

「・・っ・・・はぁ。」
「・・・んっ・・・ぁ。」

閉じられる事のない瞳には互いの欲に溺れた顔が映し出され、濡れた音がキッチンを満たしていく。
ほんの少しゾロの腕が緩んだ隙をついてその手を取り返そうとしたサンジを勢いよく扉に押し付けてゾロはその唇を解放した。
ハアハアと荒い息を互いに吐きながら視線を合わせる。

「・・ハァ・・・ま、だ、俺を抱きたいか・・。」

サンジの唾液に濡れた己の唇を舐め上げながらゾロは荒い息のまま問い掛ける。

「ああ・・・・当たり前だ・・。」

同じように呼吸の整っていないサンジがそう言って睨み返してくる。
奪うような口付けに身体は熱をあげているが、心はどこか殺伐としている。
喰うか喰われるか・・・・。
至近距離で翡翠の輝きと蒼い輝きが交じり合う。

「なら、俺がテメェを抱いてやるよ。」

先に動いたのはゾロだった。
力任せにサンジを扉から引き剥がし、テーブルの上に引き倒す。
ガタンと派手な音を立てて足元にあった椅子を蹴飛ばしてゾロがその体の上に圧し掛かる。

「ハッ、テメェ勃つのかよ。」

乱暴な仕草でネクタイを剥ぎ取られたサンジがそういってゾロを見上げてくる。
それに唇の端を引き上げる事で答えてゾロはワイシャツのボタンに手を掛ける。
諦めたのか抵抗らしい抵抗をしてこないサンジからワイシャツを剥ぎ取り、易々と裸にしてゾロはその日に焼けていない白い肌に手を這わせる。

「テメェが俺を抱くのか?」

胸元から臍へ、その引き締まった腰へと手を滑らせたゾロにサンジの目が細まる。
パタリと両脇に投げ出されたサンジの腕を見遣って、ゾロは体を起こすとシャツに手を掛け一気に脱ぎ捨てる。
サンジの上に跨る格好で上半身を露わにしたゾロにゴクリとサンジの喉が音を立てた。
ゾロの胸に走る大傷をじっくりと下から舐めるようにサンジの視線が這っていく。

「エロい身体だなぁ、クソ剣士・・。」
「・・・テメェもな・・。」

組み敷かれ、それでも間近にあるゾロの肢体に喉を鳴らしたサンジに呆れたようにゾロは答えると本格的に抱く為の愛撫を与えようと手を伸ばす。
その手をやんわりと捕らえられその口元に招かれる。
ゆっくりと開かれた唇から赤い舌が覗き、先ほどの熱を宿したままにゾロの指を舐めていく。
ピチャピチャと音をたてながらねっとりとその熱を移されていく。

「・・っ・・・!」

カリっと小さく甘噛みされて思わずその行為を眺めていたゾロの背に甘い刺激が走った。
ビクリと身体を揺らしたゾロにサンジの腕が伸びてくる。

「ひゃぁ・・っ!!」

警戒していなかった背中をスルリと指先で撫で上げられ、力が抜けたゾロがサンジに覆いかぶさるようにして崩れ落ちる。
そんなゾロの姿にサンジはクククと楽しげな声を立てて笑った。

「すっげぇエロくて感じやすい身体。」

重なりあった裸の胸にサンジの手が伸びてくる。
そしてキュッとゾロの突起を摘み上げられる。
途端に跳ね上がった腰を強引に掴んでサンジがニヤリと笑ってくる。

「こんなに感じやすくちゃ、テメェに俺は抱けねぇんじゃねぇの?」

そう言って笑いながら口付けてきたサンジを強引に振り解いて体を起こすとゾロはキッとその顔を睨み付けた。

「・・・馬鹿に・・・馬鹿にするんじゃねえ!!!」

バシンと派手な音を立ててサンジに平手を食らわすと、ゾロは脱ぎ捨てたシャツを手に掴むとその場を逃げ出すように後にしたのだった。









あの場でどうしてもサンジを抱きたかったわけではない。
抱かれたくなかったから、それならば抱いてやろうと思っただけだったのにあの馬鹿コックはゾロの油断を誘うために大人しく組み敷かれていただけだったのだ。
そんな姑息な態度に気付きもせず肌を晒し、危うく相手の手に落ちるところだった。
ただ背中を撫でられただけだったのに身体の力が一気に抜けてしまった。

「クソコックが・・。」

目を閉じたまま小さく悪態をついてフウッと息を吐き出す。

「・・・・ゾロ・・・。」

人の気配に続いてフワリと香るのは甘いオレンジの香り。
薄目を開けたゾロの目の前に艶やかなそれが差し出されていた。

「ふふ・・・これあげるから機嫌なおしなさいよ。」

はいと言って差し出されたそれを受け取ってゾロは軽く身動ぎ座りなおす。
そんなゾロの横にストンと座ったナミがクスクスと小さく笑った。

「見事な所有印ねー、アレ。」

外皮に爪を入れると爽やかな香りが強くなる。

「なにをやったのかは分かんないけど、そろそろ許してあげたら?」

クスクスと笑うナミの視界にはいつの間にかこちらの様子を伺うように見ているサンジの姿。
2人の会話が気になっているとその目は言っているが近寄ってこようとはしない。
そのサンジの右頬には大きな湿布が貼られていた。
今朝、あまりにも見事な真っ赤な手形をつけているサンジにチョッパーが悲鳴と共に貼り付けたのだ。
くっきりと女性の手にしては大きなその形にナミは苦笑し、ロビンは意味ありげな視線をゾロへと向けてきた。

「ふふ・・・気になってるのに近付けないからイライラしてる。」

ナミの解説どおりにこちらの様子を伺うのに苛ついたのかサンジは背を向けて煙草を咥えたようだった。
その背をジッと睨み付けてゾロは剥き終わったオレンジをひと房口に放り込んだ。
酸っぱさと甘さが口に広がりトゲトゲしい気分が収まっていく。

「あんまり苛めちゃダメよ?」

クスクスと笑うナミに眉を顰めて残りのオレンジを手に立ち上がる。

「いいんだ。あれは俺のモノだからな。」

ニヤリと笑ってオレンジをまたひと房口に運びゆっくりと背を伸ばす。
ちょっと呆れたようにこちらを見ているナミに背を向けて海を眺めている男へと向かってゾロは足を進めた。

「反省したか?」

ピタリと背後で足を止めて問い掛ければ無言で煙が吐き出される。

「諦めたか?」

頑なにこちらを見ようとしない背中が強張ってひたすらに煙を吐き出すのをただ見つめる。

「抱かれる気になったら言え。」

ゾロの言葉に海に煙草を投げ捨てた男がゆっくりと振り返る。

「・・・・誰が・・。」

その瞳の色が深い蒼のままに自分を見ている事にゾロはゆっくりとその唇に笑みを浮かべる。
そしてその視線が唇に向かったのを確認してペロリと舌先で己の唇を湿らせた。

「可愛がってやるぜ?」
「・・チクショウ。」

不敵な笑みを向けたゾロにサンジが吐き捨てるように悪態をつく。

「絶対アンタを抱いてやるからな。」

蒼い瞳が凶暴な色を乗せてゾロを見つめてくる。
それにゾロは目を細めてクスリと笑った。

「せいぜい頑張ってみるんだな。」

食い殺しそうな激しいサンジの視線を絡め取ったまま、ゾロはゆっくりとその唇に己の唇を重ねたのだった。







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誤解と曲解の真実の続きです。
ええっと、こんなはずではなかったんですが、甘い所か殺伐とした空気が(汗
しかも、これって表?という疑問が(汗汗
裏にって程でもないし、表にしてはちょっとやりすぎ?
まあ、前回のゾロの返事は・・・・ってことで、これで終わりです(笑


(2006/04/01)