ゾロはとってもモテル。
いつ見ても寄せてる眉間の皺とか・・
そこらのチンピラも裸足で逃げ出しそうな目つきの悪さとか・・・
不機嫌さを隠そうともしない仏頂面とか・・・
いつも差してる物騒な3本刀とか・・・
どう贔屓目に見ても人から怖がれる要素はあってもとても好意を寄せられそうにはみえない。
なのに・・・
なのに、なのに、なのに・・・
ゾロは何処に行ってもモテルのだ。
寄航するたび、綺麗な女性と港に帰ってきたことが数回。
親しげな男達と酒樽を抱えて帰ってきたことが数回。
たまに子供やら、かなりの年配の人やらとメリー号へ帰ってくる。
「なんだよ。もしかして、マリモくんってばモテモテ?」
いつだったかふざけて声をかけた俺にゾロはかすかに苦笑してみせた。
「お前だって似たようなもんだろうが・・。」
確かに一見よく似てるよ。
・・・・・・だけど。
俺が港に帰ってくるときは食料買出しのあとだから、お前とは違うんだよ。
綺麗な女性は大抵、お店の関係者で納品の確認と集金。
酒樽担いだ男どもはただの配送人。
その辺のガキなんて近付きもしないし、お年寄りに構うほど時間も余裕もない。
ナンパをしてもお茶を飲んだら『サヨウナラ』ってのがほとんど。
純粋な好意で港まで足を運んでくれるお前の取り巻きとは違うんだよ。
ほら・・・
やっぱり、今回も、取り巻きとご帰還だ。
笑顔で手なんか振っちゃってさ。
あーあ、クソ可愛い顔しやがって。
「クソコック!!てめぇ見てんなら取りに来い!!」
おいおい、あの大量の酒樽はどういうことでしょうかね。
横に積んである木箱って、そこから覗いている果物とか大量の野菜とか。
あのでっかい布は肉屋のロゴが見えるんだけどなぁ。
「おい!目ぇ開けたまま寝てんのかよ、クソコック!!」
そりゃあね、実際助かってるよ、うん。
ウチには底なしの胃袋を持つ妖怪が一匹生息してるからね。
足りなくて困ることはあっても、ありすぎて困るって事はないから。
ただ俺がこの状態に割り切れないだけ。
「クソコック!!」
「うっせーよ。マリモくん。」
船縁から見下ろしている俺をゾロが睨み付けてくる。
のんびりと煙草を吸ってただけじゃねぇか、やれやれ。
さっきの取り巻きに見せてた可愛い顔でおねだりしてくれたら速攻駆け寄るけどね。
抱擁もつけてさ。
なんでそんなに怖い顔ばっかりするかねぇ。
まあ、せっかくの食料、痛まないうちに加工してやんねぇと勿体無いか。
煙草の火を揉み消し、船縁に足を掛け飛び降りようとして、ゾロに走りよる人影に気付いた。
「なんだぁ?」
高そうなスーツをきっちり着込んだパッと見、色男が息を切らせてゾロに走りよってくる。
その慌てたような焦ったような姿に俺は呆れたように笑った。
なるほど・・・
たまにある、とっても迷惑な取り巻きがこの島にいたって訳か。
それで先程からゾロは早く取りに来いと何度も俺を呼び付けて・・・。
会話は聞こえないが、必死に何事かを訴える男と、あきらかに迷惑そうな仏頂面のゾロ。
チラリとこちらに視線を送ってくるのを分かって無視していると、馴れ馴れしく男の腕がゾロの手を取ろうと伸びたのが見えた。
あーあ、仕方ないなぁ・・・。
「ゾーロ、何やってんだ。」
ゾロの真後ろに音を立たずに飛び降りて、そのままその身体を腕の中に引き寄せてやると、その腕を取ろうと伸ばしていた男の指は滑稽なほど空を掴んだ。
「あー?どちらさん?」
これ見よがしに背後からゾロの腰に腕を回して抱き締める。
やっぱり細い腰だなあ、簡単に抱え込めるぜ。
ゾロもこの手のトラブルにはいい加減慣れっこになっちまって、ちょっと力を抜いて俺に身体を預けてきたりして、本当に役者だよなあ。
「街でちょっとな。」
「ふーん?」
視線に力を込めて男を見つめれば慌てたように視線をそらす。
「先程は、私の部下がこちらの方に大変失礼を致しまして。」
無駄に汗を掻きつつ言葉を並べる男の様子に呆れる。
たぶん、この大量の荷物はゾロが『失礼な事をした奴ら』をブッ飛ばしたお礼で、この男はその『失礼な事をした奴ら』の親玉なのだろう。
報復するつもりが、ゾロを見て、逆にゾロが欲しくなった・・そんなところか。
「別に気にしてないって、な、ゾロ?」
甘い声で問いかけてやれば、ゾロは微かに頷いた。
あ・・・ゾロの奴、一瞬俺を見て呆れたような顔しやがった。
しかも、コイツ鳥肌立ててやがる。
ムカつくあっちこっち触ってやる。
「わざわざご丁寧に・・・って事で、お引取りくださって結構ですよ?」
慇懃無礼に告げて俺はチラリと積まれている荷物に目を向けた。
腰に回していない左手で抵抗の無いゾロの身体を堪能する。
「あれ、せっかくなら早く処理してやりたいんでね。」
男はちょっと考えるようにしてゾロと俺を見比べた。
ゾロ、ちょっと顔引き攣ってるな。
「処理と言いますと・・・貴方はこちらのコックさんか何かで?」
俺が腕に抱いてるのは剣士で、俺の職業はコックさん。
同じような身長でも、細身できっちりスーツを着込んだ俺がコイツと比べられたときにどう相手の目に映るかなんて百も承知。
ほぼ100%の割合で御し安しとナメられるんだよ。
「そうですよ。俺はこの船のコックです。」
わかっててそう答える俺も親切なんだか不親切なんだか。
あーあ、なんだか希望持っちゃったみたいだよ、コイツ。
きっとこの後何事もなかったかのように引き上げて団体さんとお出ましって所かな。
「では、お詫びを兼ねてとっておきの食材をお届けしますよ。その方と一緒に召し上がってください。」
「それは、ご親切にどうも。」
苦笑交じりの俺の返事も、うんざりしたようなゾロの視線にも気付かず、頭を一度だけ下げると慌てたように立ち去っていく。
これでこの後の茶番は決定だ。
それをそのままの姿勢で見送っているとパシンと渇いた音をたててゾロに手の甲を叩かれた。
ピクリと引き攣った笑みを浮かべた唇にキスしたいかな?
「いつまでこうしてるつもりだ、エロコック。」
「うーん、もうちょっと、堪能してから。」
スリスリと肩に頬を擦り付けてギュっと腰を抱く腕に力を入れる。
本当に気持ちいいんだよな、この身体。
あ、ちょっと汗臭いかな?
「暑い、クソコック。いい加減離せ!!。」
鼻先を髪に埋めるようにして、抱き心地を楽しんでいると、本気でうっとおしくなってきたのかゾロの腕で容赦なく振りほどかれる。
チッ、気持ちよかったのに。
「おい、全部しまっていいのか?」
まるっきり俺を無視して、ひょいと酒樽2個と木箱を担ぎ上げたまま聞いて来る。
俺は残りの木箱一つと布袋を担ぎ上げた。
「酒は片付けといてくれ。残りのは中を見てから片付けるから甲板に降ろしてくれたらいい。」
アシの早いものは今夜の食卓に乗せることになるだろうし、メニューは大幅に変更だろうな。
予定より豪華になった晩飯にルフィは喜ぶだろうけど、ナミさんあたりはこの茶番劇にまた呆れるんだろうな。
軽く梯子を上って先に到着していた木箱の傍に同じように荷物を降ろす。
さて、早く片付けないと俺にはこの後の茶番というもう一仕事が待ってるのだ。
「おお、こいつは。」
煙草に火をつけて何気なく木箱の蓋を取って思わず歓喜の声を上げる。
肉厚のこの島特産のパプリカ。
買出しに行った先で味見をさせてもらったけれど美味かったんだよな。
甘くて青臭さがなくて味が濃厚で・・・。
ただ、ちょっと予算とあわなくて断念したヤツ。
いや、買えたんだけど、これを買うとどれかを削りって状態だったから諦めたんだ。
生も美味かったけど、火を通しても美味いって言ってたし、今夜はこれを使うかな。
ウキウキしながら片っ端から発掘作業をしているといつの間にか傍にゾロが立っていた。
「その中にこれぐらいの赤いの入ってなかったか?」
取り分けてあったライムを指差して問いかけてくる。
ゾロの言葉に記憶を手繰るがそれらしきものを見た覚えがない。
赤いものといえば開けてすぐに出てきたパプリカぐらいか。
「なら、こっちか。」
答えなかった俺に見ていないと判断してゾロは無造作に残りの木箱の蓋を開ける。
そしてガサガサと遠慮のない動作で中を探り始めた。
「うわー、ちょっと待てクソ剣士!!せっかくの食材が痛んじまうだろうが!!」
悲鳴を上げんばかりに飛び掛って箱から引き剥がせばちょっと眉を寄せて立ち竦む。
「いま、探してやるから。」
零れ落ちたいくつかの野菜に溜息をつきながら手早く分類しつつ取り出していく。
木箱の底、イモ類に混じって真っ赤な実が顔を出す。
ゾロが探しているのはこれだろうと掴み取ってその硬さに驚いた。
見た事がないのは当たり前としても、これはいったいなんなのか皆目見当がつかない。
「・・・これか?」
ゾロに差し出せば素直に手を出して受け取る。
ゴソゴソと箱を漁れば全部で3個、同じものが出てきた。
「それなんだ?食いもんなのか?」
一通り分類が終わって一服とばかりに煙草に火をつける。
これ吸い終わったら冷蔵庫に放り込んできた肉の処理をして、今夜のメニューを大幅に作り直さなければ。
「レッドストーンって言うらしい。」
「赤い石?」
確かに石の様に硬かったが、曲がりなりにも食材に石って名前はどうかと俺は思うんだが。
差し出してきた一つを受け取って眺めるも、やはり調理法の一つも浮かばない。
いったいどんな味がするんだろう。
「それの調理に必要なものも一緒に箱の中にあるはずだ。これが調理法。」
腹巻の中から折りたたまれた羊羹紙が出てくる。
それと残り2個の実を受け取ってさっそく目を通す。
「へえー、なるほどね。」
加熱することで食べることが出来るらしい。
調理方法を見る限り根菜みたいだな。
加熱しない場合は半年常温でこのままでも持つって非常食か。
「つまり、今回の喧嘩の場所は市場だったんだな?」
「ああ・・。」
個人で出すには多い御礼と食材の多さに確信する。
「で、相手は何人?」
「5人、刀抜くまでもなかった。」
ニヤリと笑った顔に心配するまでもなかったかと苦笑する。
たった5人のゴロツキ程度にこの剣士がどうにかなるはずもない。
「おーい、羊の船のコックさーん。」
うーん、思ったより早く戻ってきやがったな、さっきのヤツ。
「羊の船のコックさーん。」
チラリと声のするほうを見てニヤニヤとゾロは笑っている。
はいはい、分かりましたよ。
「おう、あんたか。何だ?」
船縁から顔を出して声を掛ければズラズラとむさ苦しい姿が揃っている。
1、2・・・ざっと20人か。
手にした武器見えてるぜ、襲撃者さん達。
「先程のお礼を持ってきましたー。申し訳ないんですがー降りてきてもらえませんかぁー?」
普通さあ、武器を隠した箱でも用意するとか、もうちょっと何とかしないか?
お礼っていってもそれらしい物も見当たらなくて、それでその要求は誰も応じないと思うぜ?
まあ、俺の場合は船を壊すとウソップが泣くから応じてやるけどな。
「ちょっと待ってな。今行くから。」
愛想よく答えて梯子に手をかける。
さっさと済ませて片付けの続きしないとな。
「いつでも助けてやるぜ?」
頭上からゾロの楽しげな声が降ってくる。
「おお、期待してるぜ。」
その言葉にニヤリと笑って返し、地上へと降りていく。
ゾロが刀を振り回せば海軍以下海賊狩りまで出てきて大騒ぎになることが多い。
その代わり俺が出張って蹴散らせばタダの喧嘩で収まることが多い。
ナミさん命令の茶番劇なんだが・・・、やっぱり理不尽だ。
足が地面につくと同時にズラリと周囲をむさ苦しい面に囲まれた。
やはりというか、想像通りの状況なんだが、あんまり嬉しくない。
「で、・・・・お礼は?」
煙草の煙を吹きかけながら一応は聞いてみる。
持ってきてるとは思えないが。
「悪いがコックさん。貴方に彼はふさわしくない。」
「・・・・・・。」
「彼にはこの船を降りて私の元に来ていただく。」
そうそう、こういうのがいるから困るんだよな。
こっちの都合を無視して独りで盛り上がってる奴。
「あのさぁ、あんた等、あいつが刀抜いたの見てないんだろ?実力を見たわけでもないのに、それなのにあいつが欲しいわけ?」
ちょっと呆れたように言ってやれば視線を険しくしてくる。
実力云々じゃなくて顔と身体に興味引かれたんだよな?
「俺が相応しくないとか言っちゃってるけどさ。つまりそういう意味であんたはあいつが欲しいって事で?」
「・・・・・・・彼は・・・・・魅力的だ。」
俺はその言葉に我慢できず吹き出した。
うんうん、ウチの剣士は魅力的だねぇ。
本人、無自覚で色気垂れ流してるし、それに引っかかったアンタが悪いとは言わないけど。
「・・・・・・いやらしい。」
ポツリと小さく呟いてやれば一瞬にして男の顔が怒りで真っ赤に染まった。
「うるさい!私にそんな口を聞いた事、後悔してもらうぞ!!」
俺はその言葉にニヤリと笑って煙草を投げ捨てることで答えた。
いっせいに踊りかかったヤロー共を蹴り飛ばして、タバコに火をつける。
ただのコックだと侮った方が悪いんだぜ?
掠りもしない相手の攻撃に苦笑する。
確かに、刀を抜くほどもないと言わせてしまうほど手ごたえのない奴らだ。
一人、二人と蹴り飛ばしながら船縁から見物しているゾロを思う。
刀を抜かないあいつを見て、それで満足してるなんて俺から言わせれば馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。
ゾロは刀を抜いて戦ってるときが一番綺麗でいやらしい。
あの鋭い眼差しで見つめられた時はその快感に死ぬかと思った。
血塗れのあいつにゾクゾクするほど感じた。
精神が侵されるってのはこういうことかと理屈じゃなく思った。
そんなあいつを知らないで、臆面も無く欲しいと思えるこいつは幸せかもしれないなと、海に蹴り落としながらしみじみする。
あのアイツに惹かれたら、あとは地獄しか待ってないから。
一通り地面に沈めて見上げればあるはずの姿がない。
見るのに飽きて部屋にでも戻ったんだろう。
やれやれ、最後まで責任は持てよな。
「どうやらアンタもあいつに相応しくないようだぜ?」
煙草に火をつけながら這い上がってくる男にそう告げてやる。
男は夢から覚めた様な顔で俺を見た後、俯いたまま手下を引き連れて引き上げていった。
捨て台詞の一つもないところを見ると案外まともな思考の持ち主だったのかもしれない。
煙草を投げ捨てて足で揉み消し、今夜のメニューを考えながら梯子を上る。
案の定ゾロの姿は甲板にはなく、その場に放り出されたままになっていた食材を片付けていく。
片付けながらゾロから貰ったレッドストーンがないことに気付いた。
そういえば降りるときに押し付けたような気がする。
今夜のメニューに使う材料を持ってキッチンの扉を開ければテーブルの上に放り投げてある赤い実と羊羹紙。
一応、ここまで持ってきてくれたわけか。
苦笑しつつ材料を置いて、ゾロがいるだろう船尾に向かう。
棚にあった酒瓶が1本姿を消していたからな。
「おいお前、いい加減、ろくでもないの引っ掛けて帰ってくんなよ。」
甲板に座って瓶から直に酒を飲んでいるゾロに声を掛けつつ近付く。
チラリと寄越した視線と、酒に濡れた口元がちょっと色っぽい。
いかにも身体目当てですって言ってる様な、ろくでもないヤツラばっかり引っ掛けてきやがって。
俺だって毎回茶番に付き合ってやるわけにはいかないんだからな、と呆れたように言えば小さく鼻で笑われた。
「確かに、ろくでもないのはお前一人で充分だ。」
あれ、もしかして俺の態度ってバレバレだったのか?
ヘラリと笑ってゾロを見れば、呆れたように言われた。
「バレバレだ、エロコック。てめぇの視線はエロいんだよ。」
「いや、俺は身体だけが目当てじゃないから。もちろん身体もいるけどさ。」
ばれてるなら遠慮はいらないとばかりにゾロににじり寄れば、可愛らしい笑顔で容赦なく床に沈められた。
ちくしょー、いつか腕の中で啼かしてやるからな。
END++
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女王様ゾロと下僕サンジを目指したらこんな中途半端なものが出来ました(爽
微妙に壊れたセクハラサンジ(笑
今までのカップル(?)とは微妙に違うかな?
まだ甘いですか?(笑
◆ Oh my darling ◆