=11月11日=。。19時。。





11月11日 19時

朝から料理にかかりっきりだったサンジが用意したご馳走が所狭しとテーブルに並べられる。
すっかり日の落ちた甲板には眩しいぐらいの月明かりが天から注がれ、今夜は他に灯りはいりそうになかった。

「さあ、飲むわよ。」
「肉ぅー、飯ぃー、ゾーロ、早く来ないと喰っちまうぞぉ〜。」
「長鼻くん、準備は?」
「おおよ、バッチリだぜ。」
「すっげぇー、美味そうだなあ。」

各々すでに席について準備万端とばかりにゾロの到着を待っている。
珍しくもサンジまでが席についてグラスを手にしたのをなんだかくすぐったいような気持ちで見つめた。
真っ白なテーブルクロスの上に作り物でない花が飾られている。
促されるままにゾロはシャンパンの注がれたグラスを手に持った。

「未来の大剣豪の生まれた日に、カンパイ!!」

天高く掲げられたグラスが澄んだ音を立てて重なり、間をおいて空に花火が打ちあがる。
ドーン、ドドーンという空気を響かせて夜空に花開く光の華は色とりどりの光のシャワーを海面に降らせていく。

「たまやー!!」
「おおおおお!!」

歓声とも雄叫びともつかない声を上げるルフィとチョッパーに笑って、ゾロはその製作者に声を掛けた。

「ありがとう、ウソップ。」
「どーだ、綺麗だろ?」
「ああ、綺麗だ。」

パラパラと降り注ぐ光の雫を目で追ってゾロは笑みを浮かべる。
その顔に満足そうにウソップは笑った。

「おめでとう、ゾロ。」
「・・・ありがとう、ウソップ。」

ふたりで顔を見合わせてニッと笑う。

「よーし、喰うぞぉ!!」

花火に見蕩れていたルフィが本来の目的を思い出したとばかりに声を上げる。

「あんたは少しは遠慮して食べなさい!!」

大きな骨付き肉を両手に、さっそく齧り付いたルフィにナミの声がかかり、そして、あっという間にいつもの騒がしい食事風景へと突入した。

「ゾロ、こっちの唐揚げすっげぇ美味いぞ。」

大きな肉を二つペロリと平らげて、皿に盛ってある唐揚げに手を出したルフィがそういってゾロに声を掛けてくる。
ルフィが口いっぱいに詰め込んだ唐揚げは、パプリカを細かく切ったものにスパイスたっぷりの甘辛いソースを掛けてある物だ。
このテーブルに並んだ数々のご馳走の仕上げもやはりゾロの目の前で行われた。
香ばしいいい匂いのするそれらは味を見るサンジの口に運ばれ、そして当然のようにゾロの口にも運ばれた。
もちろん、味見として食べただけだから量としては全然物足りないものであったが、どれもゾロの好みに仕上げてあって、どれも美味かった。

「あー、こっちのマリネも絶品。」

幸せそうな笑顔でナミが口に運んでいるのは、ウソップが早朝、片手間に仕掛けておいた網にかかった魚のマリネだ。
ケッパーと香草を混ぜ、オリーブオイルと酢の変わりにレモンを絞ったもので和えてある。
隠しにアルコールを飛ばした米から出来た酒を使ってあるのだ。

「あら、味噌スープかと思ったのだけれど・・。」

カップに注がれたスープを飲んで不思議そうに呟くロビンの口元も綻んでいる。
味噌ベースのスープに豆乳を入れたものは少し不思議な食感で美味い。

「このコロッケも美味いぞ。」

ニコニコと上機嫌で丸く作られているコロッケの中身はスープに使った豆乳を絞ったあとの豆だ。
しっかりと味を含ませたそれは、それだけでも十分ゾロは美味いと思ったのだがそれをサンジは一口大の丸いコロッケにしていた。

「あー、こっちもうめえよ。」

甘い味噌に漬け込んであった魚はじっくりと網焼きされて香ばしい香りを放っていた。
香りのアクセントに木の芽を刻んだものがふり掛けてある。
ガブリともう一口齧りついてウソップが涙を流さんばかりに感激している。

「ほら、主役、もっと喰えよ。」

銘々が美味いと連呼しながら食事をしている風景をグラスを傾けながら眺めていたゾロの元に、皿にいくつかの料理を取り分けた物をもってサンジが近寄ってくる。
ニヤニヤと笑っているサンジにチラリと視線をやってゾロは大人しく差し出された皿を受け取り口に運ぶ。
さりげなくゾロがもっとも気に入ったものだけを皿に取り分けてきているサンジに驚き半分、畏怖半分だ。
口に出して言ったつもりも、特にそれらしいそぶりも見せなかったのにやはり料理人の目は誤魔化せないらしい。
無言でパクついているとニヤリと嬉しそうに笑われた。





あれも美味い、これも美味いと欠食児童さながらに食べつくし、一通り腹が満ちたところで本日のメインイベント、バースディケーキの登場となった。

「綺麗・・・。」
「本当、雪?いえ、雲かしら?」

女性達の歓声に微かにサンジが笑ってチラリと視線を送ってくる。
サンジが手にしているのは艶のあるチョコレートでコーティングしてあるチョコレートケーキ。
ただし、それにはふわりとした雲のような白い飴細工が被せられていた。
飴細工を一度ケーキの上から取り外し、船長には大きめに、女性達は少し小さめに、残りは均等に切り分けられ皿に乗せられる。
そして軽く手でほぐす様にしてふんわりとその白い飴細工をケーキに被せていく。
もう一つのケーキは表面を白い生クリームに覆われ、飾りとして淡いグリーンの葡萄が飾られていた。
そちらも同じように切り分けて各皿へと盛られ、サンジの手によって各々へ給仕される。

「これって、喰えるのか?」

手渡された皿の白い飴細工をキラキラとした目で見つめて訊ねてくるチョッパーにサンジが笑いながら食べられると答えている。
ゾロはフォークの下でパキリと微かな音をたてて壊れていくそれを見つめながらケーキと一緒に口に運ぶ。

「・・・・どう?出来は?」

談笑の輪からそっと抜け出したゾロの傍にサンジが笑みを浮かべて歩み寄ってくる。

「・・・美味い。」
「良かった。」

もう一口、雲の欠片のような飴細工を口に運んだゾロにサンジが楽しげに笑う。
最後の仕上げとしてこの飴細工を作り始めたサンジに、どうしてもと強請ってゾロが替わりにこの飴細工を作ったのだ。
レードルを渡した間に、素早くフォークを振って溶かした飴を糸の様に渡らせていく。
目の前で少しづつ容積の出来ていくそれは簡単そうにみえて難しかった。
途中からゾロが手伝った場所は糸が不揃いで太さもまちまちだったが、こうして飾ってしまえばそれさえも味のある演出のように見えてしまう。

「楽しかった?」

クスリと目の前で笑うサンジにゾロはしっかりと視線を合わせた。

「ああ、楽しかった。」

意識せずに笑みになったゾロにサンジも楽しそうに笑う。
クルーの目がこちらに向いていないことを確認して、ゾロは素早くその唇に軽くキスをした。
驚いた顔を向けているサンジにゾロは笑うと、もう一口雲の欠片のような飴細工を口にと運んだのだった。





END++

(2005/11/11 Happy Birthday Zoro )

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ゾロ誕SS 11月11日 19時 パーティ真っ最中のお話です。
なのに、この方達何やってんでしょう(^^;
世界は二人の為に・・・みたいな、甘い虫歯になりそうなほど甘い空気がヒシヒシと・・・・