=11月11日=。。15時。。




11月11日 午後3時


本日はおやつは無しだと告げたサンジに甲板からルフィのブーイングが上がっていたが、それもしばらくしてすぐに静かになった。
何を言って大人しくさせたのか興味はあったのだが、キッチンの窓から眺めてみても背中しか見えないサンジの口元を読むことは出来ない。

「・・・・早く帰ってこい、クソコック。」

後ろ姿を眺めながら意識せずに漏れた言葉にゾロは咄嗟に手で口を塞ぐ。
甲板に居るサンジに聞こえるはずはないと分かっていても、サンジがいないと寂しいとその背中に告白してしまったようで思わず顔を赤くしてしまう。

軟禁状態のゾロはこの部屋から出ることが出来ないのだ。
いや、出ることは出来るのだが、せっかく己の為にと準備しているクルー達をガッカリさせるのは忍びない。
本当はこうして窓から外を伺うのもよくないんだろうなと狭い視界の中でほんの少し様変わりを始めた船の様子を見つめる。
ふと視線を感じたような気がして下方の甲板へと顔を向けるとサンジがこちらを見ている。
慌てて窓から離れて後ろに下がり、そういえば今の時間、太陽光の反射でキッチンの窓は鏡のようになっていて甲板から中の様子を伺うことはほぼ不可能だった事を思い出した。
だが、きっとサンジには外を眺めていたことを気付かれたんだろうなと思い溜息をつく。
クルリと向きを変え、テーブルの上を眺めてゾロはまた一つ溜息を零した。





テーブルの上にはルフィに見つかったら丸呑みされそうな甘い匂いを放つスポンジケーキが2種類置いてある。
その生地の過程から見ていたゾロは茶色のスポンジがチョコレートスポンジというのだということも学習した。
本人の前で一番のイベント物であるケーキの仕上げをするのはどうかと思うのだが、別段ゾロもそれほど拘っていないし、別に見ていていいとサンジが言うのだから遠慮なくみせてもらっていた。
ケーキの横にはこれから飾り付けに使うのだろう、ジャムやチョコレート、栗や葡萄、砂糖漬けやブランデーの香りを放つゾロには分からない果物らしきものもある。

「摘み食いしてねぇだろうな?」

カチャリと鳴った小さな開閉音と、カツカツと床を叩く靴音に続いてそんな声が掛けられる。

「ルフィじゃあるまいし、喰うわけないだろう。」

扉から戻ってきたサンジに呆れたようにゾロは答えてグルリとテーブルを回り、邪魔にならない位置に腰を降ろす。

「お、減ってないな。いい子だ。」
「ふざけんな。」

ニコニコと笑って軽口をたたくサンジにゾロは眉を顰めて顔を逸らす。
その仕草が思ったよりも子供っぽくなってしまいゾロはかすかに朱を散らした。

「まあまあ、怒るなよ。ご褒美やるからさ。」

シンクで手を洗い、テーブルへと戻ってきたサンジがニヤリと笑う。
ご褒美という単語にどう反論してやろうかと考え込んでいたゾロの口元にふわりとブランデーの香りが漂う。
口元には濃い茶色のような果物。
チラリと上げた視線の中ではサンジが楽しそうに笑っていた。

「はい、アーン。」

白い指に挟まれた一口大の欠片をしぶしぶ口を開けて迎え入れる。
口いっぱいに広がったブランデーと歯を立てたそれからじんわりと染み出す甘さに首を傾げる。

「あ?・・・・柿?」
「正解。」

サンジはそういうと、途中止めになっていたクリームを作る作業へと戻っていく。
生クリームが必要なだけ手に入らなかったらしく、一つは生クリームを使い、もう一つはチョコレートでコーティングするのだとそう言っていた。
バースディケーキなのに何故2個も作るんだと聞いたゾロに、サンジは笑いながら本当は出会ってなかった分すべて作りたいんだけど、食いきれないだろう・・と言って笑っていた。
器の中で綺麗な飴色になっているそれをいったい何処から手に入れたのだろうと不思議な思いでサンジを見つめる。

「それさ、見かけた時に保存食のひとつだって教えてくれただろ?」
「ああ・・。」

いつだったか、冬島に寄った時に家の軒先にぶら提げられている柿を見て首を傾げているサンジに干し柿を作っているのだと教えた。
なんとなくゾロが育った場所と環境が似ていたその島でサンジは漬物を一通り教わってきたらしく、それ以降の夜の肴にたまに出てくるようになった。

「そのまま食うのもいいんだけどさ、干してあるんだから戻してみようかと思ってブランデーに漬けてみたら意外に美味かったんだよ、これが。」

クリームを泡立て終えたのか、今度は包丁を取り出しスポンジをカットしている。
すうっと吸い込まれるように刃先が滑り、あっという間に3枚にスライスされたそれを眺めていると、やってみるかと包丁を手渡された。

「半分に切ってくれ。多少歪んでも大丈夫だぜ、クリーム塗るし。」

ニヤリと笑って告げられた言葉にムッとしつつ見よう見まねでゆっくりと刃を入れていく。
ふんわりとした手応えのないそれに切れたのかどうか疑問を感じながら滑らせていくと、刃にかかっていたかすかな抵抗も消えた。

「お、さすがに刃物使わせたら上手いな。」

スポンジの中央に綺麗に入った線を眺めてサンジがにっこりと笑う。
それに笑い返してゾロはその手に持っているボールの中に興味を惹かれて覗き込む。
中には細かく砕かれたナッツと、先ほどの柿と栗が刻まれ混ぜられていた。

「コレにこうして。」

ゾロの目の前で先ほど泡立てられていた生クリームがそれに混ぜられていく。

「はい、味見。」

どこから取り出したのかスプーンでひとすくいしてゾロの口元に差し出す。
今度は躊躇なく口を開けたゾロに笑いながらスプーンが差し込まれる。
ナッツの歯ごたえと柿や栗の甘さがほんのりとブランデーの香りをまとって口の中で甘く広がる。

「美味いだろ?」

サンジの言葉に思わず頷いてゾロはボールを見つめる。
もう一口食べたいと思ったのだ。

「あとは完成してからな。」

クスクスと楽しげに笑われてそんなに物欲しそうに見ていたのかとゾロは赤くなる。
サンジはそれを先ほどゾロがカットしたチョコレートスポンジの間に塗り、甘い匂いをさせているボールを手に戻ってくる。
そしてそのスポンジの上からコーテイング用に溶かしてたチョコレートをかけていく。
スポンジの表面がアッというまに光沢のあるチョコレートで覆われていく姿をマジマジと眺めてしまう。
過程は知らないが何度かチョコレートに覆われたケーキをおやつで食べたことはあるのだ。
こうやって作っていたのかと妙に感心していると足の長いカクテルグラスに入った丸いものを差し出される。

「コレはゾロにだけ特別。」

器に近付いて匂いを嗅ぐとそれは葡萄のような気がする。
ただ、ツルンと丸い紺に近い紫のそれはテーブルの上に用意されている薄い緑のものとはあきらかに違う。
悪戯っぽい笑みを浮かべているサンジの顔を見て、ゾロは一つ摘み上げ、口に放り込む。

「冷た・・・。」

摘み上げた時によく冷えていると思ったのだが、冷えているのではなく凍っていたのだと口に入れて気付いた。
ショーベット状まで解凍されていたそれはシャリシャリという音を立てて口の中で噛み砕かれていく。
生で食べるのとはまた違った葡萄の甘さに思わず口元が綻んだ。
フッと視界が翳り、視線を上げた時にはサンジの唇が触れて去る。

「もう少しだけ大人しくしててくれよな。」

文句を言おうと口を開きかけ、サンジのその言葉にやはり窓から覗いていたのを気付かれていたかと口を閉ざす。
上機嫌でケーキのデコレーションに戻ったサンジをチラリと見て、さすがに早く帰って来いと思いつつ眺めていた事までは気付かれていないだろうと考えた瞬間、まるでタイミングを計っていたかのように微笑まれ、顔を赤くする。
ゾロは慌てて顔を背けると熱くなった頬を冷ます為にもう一つ、凍った葡萄を口の中へ放り込んだのだった。





END++

(2005/11/11 Happy Birthday Zoro )

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ゾロ誕SS 11月11日 15時をお届けします(ぉぃ
つまりはおやつの時間なんですよね、午後3時。
イチャイチャしててもうそれだけで結構ですって言いたくなりませんか?(笑
葡萄は凍らせて食べるのが好きですw