=11月11日=。。10時。。




11月11日 AM10時。

前夜、10日にサンジにラウンジに連れ込まれてからゾロは、本日一歩も外へと出させてもらえない。
扉から外へと出る時は目隠しに付き添いとしてサンジがぴったりとついてくる。
暮らしなれたメリー号の中で目隠しをしたからといって一人で歩き回れないということは無いのだが、嬉しそうに手を取り歩くサンジを邪険にも出来ずゾロは大人しく従っていた。
暇を持て余したゾロの目前では忙しそうにひとりサンジが動き回っているだけだ。
冷蔵庫を開けては何かを取り出し、木箱を探ってはまた何かを手にシンクへ向かう。

「おい・・・。」

目覚めてからずっと背中ばかりを見ている気がするとゾロは面白くない気分でサンジに声をかけた。

「んー、なんだあ?」

振り返ることなく訊ねてくるサンジにちょっと口を尖らせる。

「おい。」
「んー?酒なら机にあるやつ飲んでればいいぞ。」

ゾロの前のキッチンテーブルの上にはグラスと3本の酒瓶。
鍋の蓋を取り、中を覗き、サンジは軽やかに包丁を振るう。
一向に振り返ることのないサンジの様子にゾロはムッと眉を寄せた。

「おい、クソコック。」

きつめに呼びかければ、軽く溜息をついた背中が仕方ないとばかりに振り返る。
そんな仕草もやっとこちらを向いたサンジに怒りも沸かない。

「あ、おつまみ?どっかその辺の棚にピーナッツでもあるからそれ摘まんで・・。」

机の上の酒瓶がほとんど手付かずに残っているのに首を傾げながらサンジが棚を指差す。
それにゆっくりと首を横に振ってゾロはにっこりとサンジに笑いかけた。

「クソコック、ひーま。」

ゾロの言葉に一瞬ポカンと口を開け、ガックリとサンジの肩が落ちる。
サンジからすれば現在の状態は猫の手も借りたい忙しさなのだろう。
ただ、ゾロにしてみれば暇を持て余して退屈で仕方ない。

「クソコック・・・暇で死にそう。」
「・・・クソマリモ。テメェは・・・どの口がそんなこと言いやがる。」

ユラリとサンジの周囲に立ち上った怒気に気付かないはずはないだろうにそれを無視してゾロはあっさりとそう繰り返した。
ついでとばかりに可愛らしい表情でちょっと小首を傾げてゾロはサンジににっこりと笑いかける。

「暇だから、かまって?」

唇を突き出して舌ったらずに呟やいた言葉にサンジが再びガックリと肩を落とした。
こんなことなら昨夜の酒に一服盛って、いやいや、夜までベットから起き上がれないぐらいやっておけばよかった、とかなんとかサンジがブツブツと呟いている。
それを呆れたように聞きながらゾロはその顔を見つめた。

「ロロノアさん、俺が忙しそうにしてるのはなんでか知ってらっしゃいますよねぇ。」
「知ってる。俺の誕生パーティーの準備だろう?」

小さな船でサプライズは難しい。
ならば出来るだけ本人に見せないように準備をしようというのが今回のコンセプトだとウソップとナミが張り切っていた。
ゾロをキッチンに閉じ込めて、他のクルーは甲板でパーティーの準備をしているはずなのだ。
たぶん、今の時間は掃除と食材補給もかねての釣りと、そんなところだろうと外の騒ぎを聞きながらゾロは思う。
サンジはパーティの料理と、ゾロの監視を含めてこの場で一人奮闘しているのだ。
飾り付けが終われば誰かが手伝いに来るだろうが、それも食器を準備したりと調理には関係のない部分で覗きにくるぐらいだ。

「クソコック、暇なんだ。」
「なら、寝てろ。」

ゾロの言葉にあっさりと返したサンジにちょっと眉が寄る。
一応はクルーの気持ちを汲んでゾロが鍛錬にも向かわず大人しくしている事はサンジだって知っているのだ。
ほんの少し構えと言っているだけだろうとゾロはジッとサンジを見つめた。

「クソコック・・。」

逸らすことなく見つめていると蒼い瞳が困ったように揺れている。
よく考えれば久しぶりの二人っきりの夜だったというのに、昨夜は何もしてなかったなとゾロは思い出した。

「・・・なあ・・。」

吐息のような小さな呟きで呼びかけると目の前の身体が誘惑に揺れたのが分かった。
サンジの葛藤には気付いたが、ゾロは自分の欲望を優先することにしたのだ。
目だけで誘うと溜息を一つついたサンジが諦めたように手を止めてゾロに近付いてくる。

「へいへいマリモ姫。ご要望はなんですか?」

諦めたように苦笑交じりのサンジを見上げてゾロはニッコリと可愛らしく笑った。

「キスひとつ。」
「はあ?」

目を丸くして間抜けな声を上げたサンジにゾロはもう一度ニッコリと可愛らしく笑いかけた。

「だから、キ、ス。」

暇であるということは確かに事実なのだが、よく考えれば目覚めてからこっち碌にゾロを見ようともせず、もちろん構う事もなくシンクに向かってしまったサンジに不満を感じていたのだ。
自分のために忙しそうにしてくれているのは分かっているのだが、その為に放置されている今の状況を理不尽に感じる。

「ほい。」

マジマジとゾロの顔を見つめて、はあーっと溜息をついたサンジがちょんっと唇にキスをする。
そしてあっさりと背を向けて仕事に戻ろうとしたサンジにゾロはムッと顔を顰めてその腕を掴む。

「なんだよ、キスしただろうが?」

たいして力は入れていないが足を止め振り返った蒼い瞳にゾロはもう一度繰り返す。

「きちんとしたキスしろ。」

その言葉にサンジ微かに苦笑したようだった。
ゾロの手をそっと腕から外し、鍋の火を緩めると再びゾロの元へと戻ってくる。
ジッとその動きをみているゾロにサンジがふっと柔らかな笑みを浮かべて手を伸ばしてくる。
片頬を優しく包まれてゾロはゆっくりと瞬きを繰り返した。

「珍しく甘えてくれてるあんたに俺だって構いたいけどさ、年に一度の、俺にとっても今日は大切な日でもあるわけだ。」

優しい笑みを浮かべて諭すように言われてゾロが小さく頷く。
そして笑みを湛えたまま近付いてきたサンジの唇に目を閉じる。

「誕生日おめでとうゾロ。」

囁くようなサンジの言葉と共に優しく唇が重なってくる。
先程と違い今度は深く口を合わせ、互いをより感じる為に口付けを交わす。
甘いけれど官能の香りのない口付けの合間にゾロはクスリと小さく笑う。
その声を合図に、もう一度だけ唇に軽く触れて離れたサンジをゾロは目を開けて追った。

「俺に祝わせてくれよ、ゾロ。」

嬉しそうな楽しそうなサンジの顔にゾロは笑みを浮かべた。

「ああ、楽しみにしてる。」
「よし、任せろ。」

ニッと笑ってシンクへと向かったサンジの背を今度は黙って見送ってゾロはゆっくりと唇を笑みの形に引き上げる。
目覚めてからゾロに構わなかったように、どうやら煙草の一本も吸っていないらしいサンジの唇はひどく甘いものだった。
いつもはするあの香りも味もないのは不思議な気分だったが、それさえも思いつかないほど没頭して料理を作っているサンジの邪魔をこれ以上はする気はない。
大人しく酒の肴にその仕事ぶりを眺めているのも楽しいだろうとゾロは封を切っていない酒瓶へと手を伸ばす。
そして忙しなくパーティ準備をしているその背中と甘い空気に包まれながらゾロはゆっくりとグラスを口に運んだのだった。





END++

(2005/11/11 Happy Birthday Zoro)


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ゾロ誕SS、11月11日 10時のお話です(^^;
まずはゾロ視点で始まりましたが、甘さ先駆けという感じで甘い空気が漂ってます(笑
もっと甘くなりますよ、大丈夫ですか?
ゾロ誕だし、いいよね?ってことで(汗