◇◇ KissKissKiss ◇◇



近付いてきた顔を見つめて、微かに首を傾げて目を閉じる。
始めはふわりと、次にしっとりと重なってくる唇を目を閉じて感じる。

「・・・コック・・。」

離れかけた身体に腕を伸ばし引き止めて囁くように呟けば、今度は唇を割って深い口付けが与えられる。

「・・・・んん・・。」

熱く柔らかい舌に夢中になって、いつも気付かないうちにアイツの服を掴んでしまう。

「ゾロ・・・。」

唇が離れた瞬間に、囁かれる自分の名前がひどく好きだ。
少し煙草の味のする苦いキスも、だんだんと溶けだしていく思考もひどく心地いい。

「ゾロ・・・・。」

二人の間にあった空間を腕一つで掻き消し、腰を抱き寄せられて密着したアイツの身体が徐々に熱を帯びてくる。
絡めとる息ごと熱くなっていくのが嬉しい。

「はっ、・・・。」

唇を離すその一瞬。
下唇をその唇でほんの少し挟みこむようにして離れていく、そんな癖にも気付いた。

そんなささいな癖さえもいつのまにか熟知してしまうほどアイツと唇を重ねた。

数え切れないぐらいキスをした。

そんな、俺とアイツの関係は、同じ船に乗るただの仲間。







初めて、アイツとキスをしたのは喧嘩の罰として船番兼、メリーの修理にと船に二人で取り残されたときだった。

喧嘩の原因など今考えても思い出せないほど些細なことだったのだろうと思う。
喧嘩で壊した壁を修理して、やることもなくなって木蔭で眠っているところを夕食だといって起こされた。

「クソ剣士、飯だ。」

珍しくも脚の出ない静かな起こし方だったのだが、眠るというほど意識が沈んでいなかった俺は素直に目を開け、コックの後をついてキッチンへと向かった。
そんな俺に一瞬だけ拍子抜けしたような顔をみせたがコックも何も言わずに俺に背を向けた。
食事をとり、船番のためにマストに上がった俺の元へ、いつものように夜食を持って顔を出したコックが食器を提げることもなく、その夜は共に酒を飲み始めた。
適度に酒も入り、馬鹿話をしては笑っていたのだが、話の内容が恋愛体験談となり、あまり場数を踏んでいない俺は聞き役に徹して酒を飲んでいた。

「なんだよ、ノリ悪りィなクソ剣士。」

あっという間に酩酊状態になったコックは自分だけが喋っていたことに気付いたのか、そう言って見張り台の縁に凭れてこちらを見てくる。
そんな様子に苦笑して瓶を傾けるとフッと笑って腕を自分の体に巻きつけてニヤリとコックは笑った。

「あーあ、こう胸が熱くなるような恋がしたいぜ。」

自分の身体を抱き締めるようにして笑っている姿に適当に合わせるように声をかけた。

「ナミはどうしたんだ?」
「んー、ナミさん?彼女の事は好きだよー。」

ケラケラと陽気に笑っている様子に相槌だけ打つ。

「可愛いし、頭もいいし、胸もでかいし、綺麗だ。」
「・・・・・。」
「でもなぁ、悲しいかな彼女には恋は出来ないんだよなあ。」

ふうと息を吐き出したコックに首を傾げながらもう一人の女性クルーの名を出してみる。

「なら、ロビンとすればいいだろう?」

俺の言葉にコックはニヤリと笑った。

「分かってないなあ、クソ剣士。恋ってのはしようと思って出来るもんじゃねえんだぜ?・・・こう、ビビッとくるもんだ。」
「・・・そういうもんか?」
「ああ、好きなんだって気付いた時には恋になってるもんさ。」

一転してしんみりとした雰囲気を纏ったコックになにか聞いてはいけないことを聞いたのかと無言で酒を飲み干した。
カタンと微かな音を立てた酒瓶を無意味に眺めていると笑っていたコックの顔から笑みが消えていることに気付く。
陽気に笑っていた影も無く、どこか飢えたような目をしていると思った。

「・・・なあ・・。」

凝視されるように見つめられてその視線に息苦しささえ覚える。

「キスしていいか?」
「・・・・・は?」

何を言われたのか分からずマジマジとコックを見つめているとゆっくりとその距離を縮めてくる。

「・・・冗談・・・?。」
「んっ、冗談だ。」

同じように腰を降ろしていたせいで近寄ってきたコックを避けることも出来ず、あっという間に距離が縮まる。
カサリと渇いた感触にそれがコックの唇だと理解した時には、触れただけのそのキスは終わっていた。
目の前で閉じられていた目蓋が開かれ至近距離で蒼い瞳を見つめ返す。
どういう意味があったのか、問いただそうと混乱している間に離れていったコックの顔がもう一度近付いてくる。

「・・・・ゾロ・・。」
「・・やめっ・・・・ぅ。」

名前を呼んで重なってきた、二度目の口付けは深く濃厚なものだった。
唇を割ってきた舌を呆然と受け入れて、抵抗も軽くいなされて、いつの間にか抱き締められるままにそのキスを受け入れてしまった。
優しく、甘く思考をゆっくりと懐柔していくような、けれど有無を言わさぬ口付けは俺が今まで知っていたものとはあきらかに違っていた。
女と交わすそれとは違い、コックのキスは身体すべてが蕩けそうに気持ちいい。
甘やかすような柔らかい口付けを何度もされて、俺は素直に目を閉じた。
ほんの数時間前まで喧嘩をしていた相手とキスをしている事実は不思議で堪らない。
どんな意味があるのか、何故嫌悪感が欠片も起こらないのか俺にはわからない。

「っうぅ・・・・ん。」

何度も確かめるように舌で口内をなぞられ、絡められ、吸い上げられる。
呻きとも喘ぎとも分からない声が唇から漏れ、徐々に甘さを払拭し、激しさを増してきた口付けに息苦しさを覚え、緩くその腕に手を掛ける。
力の抜けた身体は震えて熱く、あきらかに欲情の兆しをみせ始めていた。

「あ、はぁっ・・・。」

漏れた吐息も零れ落ちた甘い嬌声もすべて奪われる。
深く息を吸い込んだ唇に軽く触れるだけのキスをしてゆっくりとコックが離れていく。
抱き締められた腕に逆らう気力もなく、崩れるように肩口に半ば顔を埋め、二度、三度と息を吐き出す。

「悪い・・・・。」

しばらくして息の整ってきた頃にポツンと呟かれた謝罪の言葉に、俺は小さくああと答えてそのまま目を閉じたのだった。







何かの衝動に突き動かされたようにあの夜の二人はおかしかったのだと思う。

「ゾロ・・・。」

覗き込む蒼い瞳を見つめ返して目を閉じるとやはりコックの口付けが降ってくる。
気持ちのよいそれを拒むことなく、こちらからも舌を絡めれば、ほんの微か、一瞬躊躇したようにその動きは止まるが、決してその唇が離れていくことはない。

「ゾロ・・・。」

囁くように名前を呼んで重なってくる唇を大人しく待ち望む。
互いに触れ合った肌から伝わる鼓動と、震える指先。

「んぅ・・・。」

敏感に反応を返す身体を逃がすまいと戒める腕に知らず笑みが零れる。

「ゾロ・・・・。」

トロトロに溶け切った思考で、今夜も目の前のアイツに身体を預けて目を閉じる。
言葉にしないアイツの想いと俺の気持ちは熱くなった身体が教えてくれる。
たった一言を口にしない俺達はただの同じ船の同じ夢を見る仲間だ。

だから今夜も蕩けるようなキスをアイツに強請ってみる。

気付いた時には恋になっていると言った、たった一言を口にしないアイツに。

目を閉じて小さく・・・・。


「・・・・・サンジ。」




END++

(2005/11/11 Happy Birthday Zoro )


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お誕生日おめでとうSSです(たぶん
恋人未満、キスだけの関係の二人です(笑
色っぽく・・・と思ったんですが、甘いだけでした(^^;
とりあえずおめでとーと言って誤魔化す(笑