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どうやら自分が可愛いものや綺麗なものに目が無いらしいと、自覚したのはつい最近の出来事だった。
昼に寄った小さな島で、コックの果物調達に付き合っていたチョッパーが、帰ってくるなり嬉しそうに船首で寝ている俺の所に歩いてきた。
「エッエッエ、ゾロ、起きてるか?」
「ああ、起きてるぞ。」
寝ていないと確信して近付いてきたのだろう、珍しくも主張するように俺に声をかけたチョッパーにチラリと薄目を開けて視線を送る。
何が楽しいのかその目はキラキラと輝いていてその体も微妙にウズウズと揺れている。
「あ、あのな、ゾロ。」
「おう、どうした?」
ピンクの帽子に小さな体。
帽子から出ている角もその青い鼻も、なんだかぬいぐるみのようだと見るたびに思う。
抱き締めれば少々獣臭いが、それでもいつもその暖かさにホッと安心するのは事実だ。
「あ、あのな!」
後ろ手になにやら持っているらしくモジモジと身体を動かすチョッパーにフッと表情が綻ぶ。
自分の唇が笑みの形に動いたのを意識した。
「これ、砂浜で見つけたんだ。」
勢いよく突き出された小さな蹄のついた手のひらのうえに、親指ぐらいの大きさの青い石。
「・・・・ガラス石か・・。」
楕円というより多少形はいびつだが、角の削り取られた青いそれは丸く太陽光を反射して輝いている。
「これ、ゾロに・・。」
「俺にか?」
「うん、ゾロに。」
嬉しそうに差し出されたそれとチョッパーの顔を見比べて、礼を言いつつ仄かに体温で温まっていたそれを受け取った。
手の中でコロリと転がせば青い光の輪が手のひらで踊る。
ただのガラスじゃないのか?とコロコロ何度も転がし、光の輪を見ているとエッエッエと特徴的な笑い声が耳に届いた。
「本当だ。サンジが言ったとおりだ。」
エッエッエと楽しげに出された名前に思わず、眉間に皺を寄せる。
「クソコックがなんだって?」
ほんの少し声のトーンが下がったなと自分でも分かったのだが、あのコックが言ったこととやらは、きっとろくなことじゃないだろうとジッとチョッパーを見つめる。
「ゾロにあげたら喜ぶって言ってたぞ。」
珍しくもその俺の視線に怯えることも無く、首を傾げただけで楽しそうに答えたチョッパーに軽く目を瞠る。
コックが言ってた?何をだ?そう疑問に思いながら手の中のそれをコロリと転がすとやっぱり特徴的なチョッパーの笑い声が聞える。
「それ、サンジの色だから、はじめサンジにあげようと思ったんだ。」
チョッパーの言葉に手元を眺めて、青い石にその瞳の色を思い出した。
「そうしたら、サンジがゾロにあげたら喜ぶぞって言ったんだ。」
「・・・クソコックが?」
「うん。」
こっくりと上下に動くピンクの帽子に目を細めてフッと体の力を抜く。
それに気付いたのかニコニコとチョッパーが笑みを浮かべた。
「サンジが、ゾロはその石みたいな、綺麗なのが好きだから喜ぶぞって言ってた。」
続けて告げられたその言葉に目を丸くして手の中の石とチョッパーの顔を見比べる。
確かに綺麗な輪を描くそれは見ていて飽きない。
「ああ・・・、ああ、好きだな、うん。」
可愛らしい船医がくれた綺麗な青いガラス石。
たぶんコックが同じ事を言ってくれたとして素直に受け取ったかどうかは疑問だが、素直にお礼を言ってそれを腹巻の中に納める。
「ありがとうな、チョッパー。」
「どういたしまして。」
エッエッエと蹄を口にあてて嬉しそうに笑ったチョッパーに同じように笑みを返したのだった。
「・・・と、いうことで有難うな。」
「・・・・・・・それは今話さなければいけないような内容なのか?」
俺の回想、というか話を聞いていたコックの身体からグンニャリと力が抜けて覆い被さってくる。
「あのさぁ・・・俺だって言いたかないけど、切羽詰ってんだよ。」
「あー?そうだったか?」
俺の答えに頭の両脇に投げ出されていたコックの拳に力が篭ったのが分かった。
ドクドクと激しく打つ胸を重ね、微かに汗ばむ肌と香る煙草の匂いに目を細める。
首元を擽る金糸にくすぐったいと思いながらゆったりと息を継ぐ。
「もう10日もアンタに触れてねぇ・・・。」
グリグリと頭を肩に擦り付けてくるコックの動作にくすぐったくて思わず笑みが漏れる。
「あー、もう、笑ってんじゃねえ!」
ガバリと起き上がったコックと至近距離で視線が絡む。
確かに指摘されれば10日もバタバタと慌しくてこうして肌を合わせてはいない。
だが、1日たりと互いに顔を合わせなかった日などなく、他愛ない会話やちょっとしたキスはかわすぐらいの時間はあった。
ただ、抱き合う時間が無かっただけで。
「絶対的にゾロ不足なんだよ!」
ガウッと吼えるように言葉にしたコックの唇が開き、ガブリと肩先に齧りつかれる。
わざと歯をたて、ついた歯形をゆっくりと舐めているその刺激に、ゾクリとしたものが俺の背を駆け上った。
「俺は・・・・っ、ぁ。」
ねっとりと舐めては甘噛みを繰り返す頭に手を差し込んで、サラリと手触りのよい髪を指に絡めとる。
「・・ん・・・・足りて・・た。」
徐々に乱れてくる呼吸でそう言葉にすればピタリとその動きが止まる。
そして向けられたコックの顔は心底嫌そうに歪んでいた。
「だって、アンタ・。」
「・・・・っ・・・?」
スルリと裸の胸を撫で上げた手のひらに身体を震わせ、熱い息が唇を割って零れていく。
愛撫の手を休めないままにそれでもやっぱり嫌そうな表情を隠そうともしないコックに俺は微かに首を傾げた。
「アンタ、俺を見てるだけで十分満足してんだもん。」
「・・・・?」
コックの言葉の意味が分からず、思わずその顔をマジマジと見つめ返す。
「もしかして分かってねえの?」
「・・・何が?」
俺の問い掛けに完全に動きを止めてしまったコックがハアッと大きな溜息をついてジットリと恨めしげに見つめてくる。
その視線の居心地悪さに何か言うべきかと言葉を出しあぐねていた俺の上に、唐突にドサリと力の抜けたコックの体が降ってきた。
「うっ!」
思わず低く呻いた俺の耳元で深くコックが溜息を漏らす。
「あのさあ、アンタ、チョッパー好きだろう?」
「・・・・ああ。」
質問の意図が分からないままに溜息まじりのその言葉に軽く頷く。
「ナミさんも好きだろう?」
「・・・・ああ。」
「二人とも可愛いから好きだろう?」
コックの言葉にしばらく考えて、確かに意味は違えど二人とも可愛いと思っている自分に驚きつつ目の前の金色を見つめる。
「そんで、信用してねえとかいいつつ、ロビンちゃんの事も好きだろう?」
「・・・?・・・。」
「綺麗だから・・・・。」
確かにそういわれればロビンの容姿は好きだ。
漆黒の髪も、黒曜石のような瞳も綺麗だと思う。
無言でいる事が肯定だと分かっているのかコックはまた一つ大きな溜息をついてゆっくりと頭を起こした。
そして俺の顔を覗き込んでヘニャリと情けない笑みを浮かべる。
「・・で、アンタ、俺の何処が好きか、咄嗟に思い浮かぶ?」
コックの問い掛けに俺はゆっくりと目の前の男の好きなところを頭の中で数え上げていく。
「その中で一番初めに浮かんだのって、コレだろ?」
そういって示されたのは透明な蒼い色。
晴れ渡った空のように澄んだ綺麗な蒼。
くるくると表情に合わせて色の変わるそれは確かに俺の一番のお気に入りだ。
「その次がコレ。」
手を取って導かれた指がサラリとした金糸を絡めとる。
指を広げると零れ落ちるその色を確かに気に入っている。
「だから、俺を見てるだけで満ち足りちゃってんだよ。」
好きな部分がいつも露出しちゃってるし、触ろうと思えばいつでも触れるからと言って拗ねたように口を尖らせたその顔を思わず可愛いと思ってしまって慌てて首を横に振る。
「アンタが俺の好きな部分って、綺麗な部分と、俺の可愛いって思ってるところでしょ?」
反論したいが反論できないそれに曖昧な笑みを向ける。
確かにコックの何処が好きかといわれれば容姿とその可愛い性格かもしれない。
「あ!・・・それだけじゃねえ。」
拗ねたようなコックも可愛い、と終わった事を考えながら他に思いついた好きなところを慌てて口にする。
「テメェの身体も好きだ。」
あの脚力は何処から生まれているんだという筋肉のバランスとか、姿勢のよさとか、無駄の無い動作とかも好きだと告げたつもりで、目の前でニタリと笑った顔にヤバイと引き攣った笑みを浮かべる。
しまった表現を間違った・・・と思ったときにはすでに遅く、見事なぐらい臨戦態勢になっているコックの下半身に血の気が引いてくる。
「そうかそうか、俺の身体も好きか・・・。」
やにさがるとはこういう顔のことをいうんだろうな・・と、傍観している自分に心の中で突っ込みを入れながらヤル気満々で身体の上を這い回り始めた手のひらに小さく息をつく。
「それじゃ、たっぷり堪能してくれ。」
嬉々と一気に機嫌が直ったコックの唇が重なってきて、俺は諦めたように目を閉じる。
とりあえず明日動けるだろうかと、飢えたように口付けてくる男の背に腕を回しながらこっそりと心の中で溜息をついたのだった。
END++
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2006年ゾロ誕SS、第二話。
こちらは読みきり短編です。
なんとなく日常会話的なダラダラ感を書きたくて書いたのですが、いつの間にやらいちゃいちゃバカップルで(汗
深い意味なんて何もありません(^^;
ついでに誕生日も関係ないです(マテヤ
----------※DLF期間は終了しました※-----------
(2006/11/19 Happy Birthday Zoro)