塾の風景
◎ 人とつながる・・・
相談員と一対一で過ごすことからはじめます。中には、なかなか人とのつながりが持ちにくい子どももいますし、誰かと一緒にいないと落ち着かない子どももいます。相談員に会いに来ることすらもしんどい思いをしている子どももいますので、相談員が会いに行って人間関係を作りながら外に出るきっかけを待つこともあります。
相談員と一対一の時間がある程度過ごせるようになると、そこから先に他の人とどうやってつながっていくかが課題になってきます。友だちがほしいと焦る子どももいましたし、同年代の子どもたちと接することをかたくなにこばんでいる子どももいました。そんなときは、本人の気持ちがやわらぐのをじっくりかかわりながら待ちます。
相談員との人間関係ができてくると安心するのか、あるときを境に相談員と一緒に子どもたちの中に徐々に入っていくことができるようになった子どもたちも何人もいました。日々の生活の中で思いがけないハプニングもあり、それがきっかけになることもあります。
◎ 群れて遊ぶ・・・
塾の生活にも慣れ、少し人間関係に広がりができてくると、何人かで外へ出て遊ぶ姿が見られるようになります。久しぶりにみんなでバスケをした帰りに「やっぱりみんなで遊ぶのがええ!」と力強く言っていました。
食後に女の子が「長なわとびをしませんか?」と誘ってくる機会もありました。女の子たちもエネルギーがあまっているようで、その場にいた女の子全員が参加をし、久しぶりの長なわとびをしました。子どもたちはいろいろな飛び方をよく知っており、相談員のほうが教えてもらっていました。5〜6人が一度にはなかなか飛べませんでしたが、誰かの足にひっかかってもいやな顔をせずに、どうすればうまく飛べるかを話し合ったりして、普段よりも生き生きとした表情をさせ、息をはずませて楽しんでいました。
群れて遊びたいけれども、どうやって人を誘うか、どう声をかけて入っていくか。そこが不安な子どももいます。そのようなときは、誘われたとき、声をかけられたとき、どう返事するか、どう動くかからはじめればいいんだよと話をしています。
自然に日常生活の中で人とのコミュニケーションのとり方を身につけ、徐々に人の中で過ごしていけるようになることで、自信を取り戻してもいるようです。
◎ 体験から学ぶ・・・
塾では体験活動も大切にしています。学期に一度の塾外行事、日常の生活の中での農園作業・食事作り・施設の補修など。生活経験が少ない子どもたちが多いので、実体験をして感じることがとてもいい経験になっています。
体験活動に参加することは、小集団の中に入るきっかけにもなります。その経験を何度か繰り返していくことで、人間関係を広げることができるようにもなります。
また、普段の生活では見せることのない意外な一面を見せることがあります。リーダーシップがとれたり、周りの子どもたちに気づかいをしたり。作業のときには、様子を見ながら必要な道具をタイミングよくボランティアさんに渡していたり・・・。体を動かして働くことで生き生きとした表情を見せます。子どもたちの生きる力を感じます。
労働の苦しさ、大変さ、収穫の喜び、誰かの役に立てること、少し大きい集団の中での身のこなし方を覚えること、手伝ってくださるボランティアさんたちの気持ちを感じること、土の感触や植物、空気のにおい・・・さまざまなことを体験を通じて感じているようです。
日々のさまざまな活動が、子どもたちの成長の糧になっています。
◎ 学校と塾・・・
学校にも通いながら塾にも通ってくる子ども。テストなど、必要なときは学校に行き、それ以外のときは塾に通ってくる子ども。時間帯を選んで学校に行ける子ども。普段は塾に通っているけれども、時々ぶらっと学校をのぞきに行く子ども。放課後、自分の興味のある分野の勉強を教えてもらいに行く子ども・・・。学校から距離をおいてはいても、学校はいつも子どもたちの中では大きい存在なんだなと感じています。
1年間を通して見ても、子どもたちの学校の受け入れ方が変わってきているように思います。何年も学校に行くということを怖がっていた子どもも、少し自信が持てたり、先生と関係ができたりすると、少し挑戦してみようという気持ちに変わってきた子どももいます。「絶対に行かない。」と言っていた子どもも先輩たちの姿を見て「行ってみようかな。」と言うようにもなってきています。
塾に通う意味、学校に行く重み・・・。
◎ 受験・・・
現実にきちんと向き合う時期は、子どもによってまちまちですが、目標を決めるとものすごい集中力を発揮して受験勉強に取り組んだ子どもが多かったように思います。
3年生になると、それまでの上級生の姿を見てきているので、自分たちがどうしたらよいのか考える子どもが多いように思います。
努力はしていたけれども、不合格という経験をした子どももいました。しかし、それをばねに次のチャンスに挑んで無事に高校に合格しています。
また、高校へは行かず、社会に出ると決めた子どももいます。最後まで、保護者、先生、相談員と話をして自分で決めたそうです。
自分と向き合い、自分で決めることは、とてもしんどくて苦しいことですが、その時間が子どもたちにとって大きな力になっているようです。
◎ 卒業式・・・
子ども・保護者・先生方・相談員、それぞれのさまざまな思いが交錯してこの日を迎えるように思います。
卒業証書だけは、同級生と一緒にうけとると決めていた子どもも、当日は、結局最後まで同級生とすごし、中学校生活の締めくくりをしたようです。
中学校のみんなと同じように出席をし、無事に卒業した子どもも何人もいます。同級生と顔をあわせるのはしんどいけれども、お世話になった先生方には親子ともどもお礼を言いたいということで、校長室で証書を受け取った子どももいます。
保護者が証書を受け取りに行かれた家庭もあります。その選択肢も大事にしていかなければと思っています。
◎ 卒業を祝う会・・・
鶴山塾でも、中学校3年生と小学校6年生の卒業を祝う会をしました。日ごろお世話になっているボランティアの方々や先生方にも出席していただき、こころのこもった会をもつことができました。
出席者全員が一言ずつ思いを述べていきますが、卒業生はやはり、特別な思いを持ってこの日に臨んだようです。
塾での生活への感謝の気持ちを話したり、これからの新しい生活への意気込み、在塾生へのメッセージを自分の言葉で語っていました。出席した先生方からも「学校では見ることができなかったけれど、鶴山塾ではしっかりとした姿を見ることができ、人間としていい体験をしたんですね。」という言葉をいただきました。
あきらめずにかかわり続けてくれた人に感謝し、将来に希望を持つことができたというお礼の手紙をくれた子どももいました。
◎ そして次へ・・・
志望校に合格はしたものの、今度は高校生活がおくっていけるかという不安から、「高校にいくのはやめようか。」と相談員に気持ちをぶつけていた子どもも、高校に何回か通い、具体的な準備をしていくなかで、安心できたのか、無事入学手続きを済ませたようです。
在塾生たちも、そんな先輩の姿を見て少しだけ勇気を出してみようと思えたようです。
それぞれに、新しい気持ちで4月を迎えます。
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